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アダムの密告2
アダムの言葉を遮り、声高々に非難するボジェク。
そんな姿を釈然としない目で見ていたヘドヴィカだったが、アダムと夫の掛け合いに介入するなど面倒極まりないことだったので、右から左に受け流す。
「ははっ、ボジェクがそんな顔をするなんて面白おかしいな。……ふぅ、それはさておき。この傍若無人な男が婚約を拒否したせいで僕にお鉢が回ってきたんだけど……」
「結局、皇太子殿下に嫁ぐことになって、おじゃんになったって寸法か?」
「そうなんだよ。正直僕にとってはどうでもいいことだったんだけど、父がね。……ボジェクには伝えていなかったんだけど、あの人、人一倍権力に対して貪欲なのをずっと隠し続けてきたからこの件でがっかりしていたんだ。……どうやら今の伯爵のままじゃ満足できないみたいで、公爵家の椅子も狙っていたみたい」
アダムの言葉にさすがのボジェクも愕然と目を見開く。
どうやら寝耳に水だったらしく、「は!?」と前のめりに大声をあげた。
(……私にはよく分からないことだけれど、旦那様にとっては驚くことなのね。ベークマン伯爵様ってそんなに野心家だったの? 旦那様と仲良くできるのだから、相当冷静な人だと思っていたんだけれど)
他二人以上に冷静に話に聞き入っていたが、そんなヘドヴィカにアダムは同情を込めた視線を送ってくる。
それに気がついた彼女は少しだけ混乱していた。その視線の意図が理解できなかったからだ。
けれど次の瞬間、ヘドヴィカも先刻のボジェク同様、二の句が継げないほど言葉を失った。
「そして感情爆発し、次の標的はヘドヴィカ嬢、君に向かった。僕の父はかつて豊穣の地と名高かったバリーク領を狙って僕とヘドヴィカ嬢を結婚させようとしていたんだ」
「っは!? な、何を言ってるんだ! そんなの聞いたことねぇぞ」
3年より前のバリークは確かに公爵家をも出し抜きそうなほどの勢いがあった。ここ数年の不幸の連鎖で領地経営は一気に傾いてしまったが、それまでは順調そのものだったのだ。
もしその勢いを取り戻したバリーク領を、元より格式高いベークマンの一族である伯爵家が手に入れたのなら──きっと王家をもしのぐほどのツテや財を手に入れることとなるだろう。
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「君が知らないのも無理はない。父はベークマン公爵家を出し抜こうとしているんだから、わざわざ伝えるはずがないからね。……けれどその計画も頓挫してしまった。ヘドヴィカ嬢とボジェクが婚姻を結んでしまったからだ」
アダムは眉を顰めて顔を暗くする。
ヘドヴィカは息をひそめながら聞き入っていた。
「それでも父はいまだ狙い続けている。どうにかして君たち二人の間に溝をつくり、僕とヘドヴィカ嬢を婚姻の楔で縛ることを虎視眈々と狙っている。……もちろん僕にはそんなつもり微塵もないけれど。それでも気をつけて欲しいんだ。きっと父はこれから君たち二人に色々な罠を仕掛けていくだろうから」
「なんだそれ! アダム、お前も息子なら父親の愚行を止めるくらいできないのか」
すっかりご機嫌斜めなボジェクは陰鬱と語り続けていたアダムを責め立てた。けれど責められた当人ははぁ、とあきれ返ったといわんばかりに鼻で笑った。らしくない行動を前にしたボジェクは片眉をぴくりと動かした。
「はぁ……できるならとっくにやってるよ。父は手強い。何十年も公爵家の足元で反逆の爪を研ぎ続けて、今か今かと公爵家の没落を待ち望んでいる臆病者で卑怯な男なんだ。真っ向勝負なんてするはずなくて、獲物が罠にかかるのをじっくり待ちつづけている。……その様子からみてボジェクはやっぱり父の本性を予想していなかったでしょ? こうやって人を騙して生きてきたのが僕の父なんだ」
「……」
口籠ったボジェクを横目で見ながら考える。
確かに夫はベークマン伯爵からの手紙を厭うことはなく、良好な関係を築いているのだと傍目からもわかるほどだった。
信じ、慕っていた人間の本性を知ってボジェクは傷ついていないか。
自分も関わる問題だというのに、今はそれが心配だった。
(……バリークのことを心配するより、旦那様のことを考えてしまうなんて……私も焼きが回ったものね)
ヘドヴィカはこのとき、自分の心が変化してきていることを自覚した。夫のことを家族だと思いはじめている自分がいることに気づいたのだ。
ヘドヴィカの心の動きなどいざ知らず、ボジェクは閉じていた口をようやく開きながらアダムを睨みつけた。
「……お前が嘘を言っているかもしれない」
「ありえないよ。こんなことして僕に何の得があるんだ。むしろ君たちの絆を強固にさせようとしているようにしか見えないでしょ? もしそうならボジェク、君にとって都合がいいだろうし──」
「だからお前はいつも一言余計なんだよっ」
不機嫌な様子は変わらず、より一層声を低くしてアダムを睨みつけるボジェク。
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