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ボジェク16
しおりを挟むこの男は幼少期の頃とはいえ、ヘドヴィカが恋をしていた相手なのだ。
加えて彼女のトラウマを刺激する人間の一人だろうし、性別はもちろん男だ。
まるで地雷のフルコンボのようなアダムを前にして、ヘドヴィカがどう反応するのか予想ができない。
婚姻の儀のときのように、その場で失神する可能性だって捨てきれない。
もし仮に、ボジェクを差し置いて二人が恋愛関係に至ったら。あり得ない話ではない。
(……ヘドヴィカがこいつを好きになるなんてぜったい許容できねぇ)
深く根付いた嫉妬が顔を見せる。
様々な思いが入り乱れる感情が次第に怒りに置き換わり、いつまで経っても帰ろうとしないアダムについつい怒鳴り声をあげてしまう。
「……なんでお前がここに! 留学はどうしたんだ! 帰国はもっと後だと聞いたが! それに伯爵の代理? 一体どういうことだ!?」
まるで何も聞こえないとばかりに、アダムは余裕を崩さない。
肩をすくめ、ボジェクを宥めるような口調がさらに苛立ちを加速させていく。
「……そんなに怒らないでほしいな。ほんと、ボジェクは昔から変わらないよ。もう少し落ち着いてくれないと話もできない」
アダムの反応に歯軋りをしていれば。
とうとう今1番顔を見せて欲しくなかった相手──ヘドヴィカが廊下へとやってきてしまった。
結局アダムの眼前から強制的にヘドヴィカを連れ去り、寝室へ押し込み、寝台へと押し倒す。
(この場でこいつをすべて俺のものにしてしまえば、少しは不安も解消されるのか?)
そんなことをすれば、きっとヘドヴィカの心の傷を増やしてしまうに違いない。
当たり前にヘドヴィカを傷つけるような行為はボジェクの望むところではなかった。
(ああ、だめだ……俺はどうしてもヘドヴィカが好きでたまらない。無理矢理なんて出来そうに……ない)
醜いほどのヘドヴィカへの執着心を改めて自覚する。
ボジェクの感情は約15年近く積りに積もったものなのだ。思いの深さと重さでは誰にも負けない自信があった。
それを素直にヘドヴィカへと伝えられれば1番なのだが、いまだウジウジ考え込んで足踏みし、己の心を曝け出すきっかけが掴めていなかった。
縋るように細く白い首筋に埋めた顔。
鼻腔を通り抜ける甘い体臭。
ヘドヴィカは受け入れてくれた。
まるで泣きじゃくる赤子をあやすように、寛大な心でボジェクの屈折した心を慰めてくれた。
(甘い、香りが……くそっ、だめだ!)
条件反射のように体が熱を帯びていく。
同じ屋根の下で暮らしているというだけでもキツイのに、あれほどそばで彼女の存在を感じてしまえば抑えが効かなくなるのも当然だ。
自分は夫でヘドヴィカは妻なのだから、触れ合いに躊躇する必要などない。そう考えたことは一度や二度ではなかった。
その度にヘドヴィカの心の傷を告白する青褪めた顔が脳裏を過り、自分本位な考えを拒絶し続けてきたが。
さらに驚くべきことが起きた。
ヘドヴィカから同衾の誘いを受けたのだ。
さすがにこれはまずいと思って断りたい気持ちもあったが、知らず知らずのうちに言い負かされ、流されるように受け入れていた。
ヘドヴィカに頼まれればそれを拒否することなど不可能だ。
同衾は苦痛と幸福をいっぺんに味あわせるものだった。
こんなにそばにいるのに、口付けはもちろん、抱擁すらできない。まるで拷問のようだった。
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