75 / 83
償いの形1
しおりを挟む翌日。
とある人物の帰還を告げられたボジェクとヘドヴィカは緊張した面持ちをしていた。
「旦那様、奥様。……ただいま戻りました」
使用人頭のエスメだった。
数日間捜索を続けていた彼女自らの足で別荘に戻ってきたのだ。
それを聞いたボジェクは連れてきていた護衛を呼び、すぐさま拘束する。
腕を後ろ手で拘束され、膝をつかされたエスメはなされるままで、抵抗することもなかった。
「……なぜ戻ってきた。どこへ行っていたんだ」
「戻ったのは自らの罪を償うためです。毒で奥様を殺めようとしたことは間違いない事実です。どんな言い訳があっても許されることではないと理解しております。どこへ行ってたかというのは……刑を償う前に主人に挨拶してこようと思ってより道をしておりました。お待たせしてしまい、本当に申し訳ありません」
「お母さん……」
ヘドヴィカの後ろに立つコリーが今にも泣き出しそうな声で母を呼んだ。
そんな声を聞きながら、ヘドヴィカは考えこむ。
(それいえばエスメの旦那様はすでに亡くなっているって聞いてたけれど……)
その答えを指し示すかのように、ボジェクがぽつりとこぼした。
「牢獄に入ればいつ出て来れるかわからない。だかはその前に墓へと手を合わせに行ったのか」
「…………はい、その通りでございます」
エスメの心中を見抜いたボジェクはやるせないように大きくため息をついた。
(そういえば……エスメは昔からボジェクのお世話をしていたのよね。そんな彼女に裏切られたのだもの。きっとこの人も相当辛いに決まってるわ)
ヘドヴィカが彼の心を慮っている間に、エスメは「実は」と険しい顔つきで話し出した。
「墓地からこちらに向かう道中、その……アダム様の遣いと名乗られる方がやってきて手紙を渡されまして……」
「なんだとっ」
エスメが自身の衣服のポケットへ視線を向けた。
よく見れば手紙の角が見えており、護衛がそれを引き抜いてボジェクへと手渡す。
恐る恐るといった様子で受けとった彼は、開封して中身の確認をする。
深刻そうな様子で眉間の皺を一層深め、「くそっ、あいつふざけやがって」と怒りを滲ませて吐き捨てた。
ヘドヴィカは思わず口を開く。
「なにが書かれてたのですか?」
ボジェクはヘドヴィカの顔を見つめ、少しの間言い淀んだ後にしぶしぶ告げる。
「……。『王都に戻れば全部解決してるはずだよ』ってその一言だけだ。どういう意味かはさっぱりだが、ろくなもんじゃねぇことだけは分かる」
「全部解決している──どういう意味でしょうか?……私たちも明日にはここを出発する予定ですけど……」
「そうだな。くそっ、アダムのやつにいいようにされてるのが気にくわねぇな」
アダムが何を考えているのかさっぱり理解できなかった。
毒を盛られたヘドヴィカは結局死に至ることもなく、ボジェクに至っては命を狙われたというわけでもない。ただのイタズラにしては限度がすぎる。
毒の件については悪意があるようにしか思えない。
なぜこんなことをしたのか、ヘドヴィカは直接会って問い詰めたいと思っていた。
「とりあえず、明日王都に戻ってから調べるしかなさそうですね。ここでは人手も足りませんし、情報を探るにしても厳しいでしょうし」
「ああ。……そうだ、お前に聞きたかったんだが。ヘドヴィカ、こいつをどうしたい?」
そういって顎を使って示されたのはエスメだった。
一瞬理解しきれず、ヘドヴィカは頭を傾げた。
(えっと……もしかしてエスメの身柄をどうするか私に委ねているってことかしら)
少しだけ悩んだあと、ヘドヴィカはきっぱりと伝える。
「エスメには色々とお世話になりました。けれども他人に毒を盛ったというのは到底許される問題ではありません。ですので……これからも支える主人──旦那様のことを第一に考え、尽くし、仕えることを約束してくれるのであれば……許したいと思ってます」
「……いくらなんでもそれは優しすぎないか? お咎めなしってことだろ。お前は命を狙われたんだ。下手をすれば死んでいたかもしれない」
「そう、ですね。でも私は死にませんでした。悪意を持って毒を盛られたのならともかく、彼女は娘を人質に取られて仕方がなくやったことでしょう? 情状酌量の余地はあると思います。……もちろんっ! これからは絶対に裏切らないと約束してもらわなければ困りますがっ!」
85
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる