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椿かもめ

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償いの形1

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 翌日。
 とある人物の帰還を告げられたボジェクとヘドヴィカは緊張した面持ちをしていた。

「旦那様、奥様。……ただいま戻りました」

 使用人頭のエスメだった。
 数日間捜索を続けていた彼女自らの足で別荘に戻ってきたのだ。
 それを聞いたボジェクは連れてきていた護衛を呼び、すぐさま拘束する。

 腕を後ろ手で拘束され、膝をつかされたエスメはなされるままで、抵抗することもなかった。

「……なぜ戻ってきた。どこへ行っていたんだ」

「戻ったのは自らの罪を償うためです。毒で奥様を殺めようとしたことは間違いない事実です。どんな言い訳があっても許されることではないと理解しております。どこへ行ってたかというのは……刑を償う前に主人に挨拶してこようと思ってより道をしておりました。お待たせしてしまい、本当に申し訳ありません」

「お母さん……」

 ヘドヴィカの後ろに立つコリーが今にも泣き出しそうな声で母を呼んだ。
 そんな声を聞きながら、ヘドヴィカは考えこむ。

(それいえばエスメの旦那様はすでに亡くなっているって聞いてたけれど……)

 その答えを指し示すかのように、ボジェクがぽつりとこぼした。

「牢獄に入ればいつ出て来れるかわからない。だかはその前に墓へと手を合わせに行ったのか」

「…………はい、その通りでございます」

 エスメの心中を見抜いたボジェクはやるせないように大きくため息をついた。
 
(そういえば……エスメは昔からボジェクのお世話をしていたのよね。そんな彼女に裏切られたのだもの。きっとこの人も相当辛いに決まってるわ)

 ヘドヴィカが彼の心を慮っている間に、エスメは「実は」と険しい顔つきで話し出した。

「墓地からこちらに向かう道中、その……アダム様の遣いと名乗られる方がやってきて手紙を渡されまして……」

「なんだとっ」

 エスメが自身の衣服のポケットへ視線を向けた。
 よく見れば手紙の角が見えており、護衛がそれを引き抜いてボジェクへと手渡す。

 恐る恐るといった様子で受けとった彼は、開封して中身の確認をする。
 深刻そうな様子で眉間の皺を一層深め、「くそっ、あいつふざけやがって」と怒りを滲ませて吐き捨てた。
 ヘドヴィカは思わず口を開く。
 
「なにが書かれてたのですか?」

 ボジェクはヘドヴィカの顔を見つめ、少しの間言い淀んだ後にしぶしぶ告げる。

「……。『王都に戻れば全部解決してるはずだよ』ってその一言だけだ。どういう意味かはさっぱりだが、ろくなもんじゃねぇことだけは分かる」

「全部解決している──どういう意味でしょうか?……私たちも明日にはここを出発する予定ですけど……」

「そうだな。くそっ、アダムのやつにいいようにされてるのが気にくわねぇな」

アダムが何を考えているのかさっぱり理解できなかった。
 毒を盛られたヘドヴィカは結局死に至ることもなく、ボジェクに至っては命を狙われたというわけでもない。ただのイタズラにしては限度がすぎる。
 毒の件については悪意があるようにしか思えない。
 なぜこんなことをしたのか、ヘドヴィカは直接会って問い詰めたいと思っていた。

「とりあえず、明日王都に戻ってから調べるしかなさそうですね。ここでは人手も足りませんし、情報を探るにしても厳しいでしょうし」

「ああ。……そうだ、お前に聞きたかったんだが。ヘドヴィカ、こいつをどうしたい?」

 そういって顎を使って示されたのはエスメだった。
 一瞬理解しきれず、ヘドヴィカは頭を傾げた。
 
(えっと……もしかしてエスメの身柄をどうするか私に委ねているってことかしら)

 少しだけ悩んだあと、ヘドヴィカはきっぱりと伝える。

「エスメには色々とお世話になりました。けれども他人に毒を盛ったというのは到底許される問題ではありません。ですので……これからも支える主人──旦那様のことを第一に考え、尽くし、仕えることを約束してくれるのであれば……許したいと思ってます」

「……いくらなんでもそれは優しすぎないか? お咎めなしってことだろ。お前は命を狙われたんだ。下手をすれば死んでいたかもしれない」

「そう、ですね。でも私は死にませんでした。悪意を持って毒を盛られたのならともかく、彼女は娘を人質に取られて仕方がなくやったことでしょう? 情状酌量の余地はあると思います。……もちろんっ! これからは絶対に裏切らないと約束してもらわなければ困りますがっ!」
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