79 / 83
混乱の渦3
しおりを挟む「……別に君じゃなくても良かったんだ。何か一つきっかけを作りさえすれば、芋蔓式にうちの連中が犯した罪が露わになると確信してたからさ。国家反逆罪に殺人や恐喝、裏社会へのつながりに……罪は数えるのも苦労するくらいにあった。僕はそれをすべて露わにするため、いままで準備をしてきたんだ」
実を言えば王都に戻ってから、暗殺未遂のことを騎士団に訴えてアダムを訴えようかと迷っていた。殺されかけたのだから被害者として当然の行動だ。
ボジェクはというと別荘地でも早く罪を訴え、指名手配の顔写真をばら撒こうとしていた。
けれどそれはヘドヴィカが止めさせた。
(なにを考えてあんな行動に出たのか知るまで、保留にしておいて欲しいって頼んだのよね)
なにせボジェクの唯一と言っても過言ではない親友を牢獄に入れてしまうことに迷いがあったのだ。
10年前はあんなにも楽しげに笑い合っていた少年二人の仲を割きたくない。そんな気持ちが先行した結果だった。
「たとえベークマン伯爵家を取り潰せるのなら、自分が牢に入れられることになっても構わなかったのですか? あなたの行動を見ていると、そうとしか思えません」
「うん。……僕が何より生きがいにしてきたことは、あの連中の泣きっ面を見ることだけだったからね」
「どうしてそこまで……」
ヘドヴィカには分からなかった。
アダムがここまで歪んでしまった理由が。
まるで復讐者のように、自分の身が傷つくことさえ厭わずに突き進むわけを知りたいと思った。
とそこに。
外が騒がしくなり、勢いよく扉が開け放たれる。
ヘドヴィカが視線を向ければ──。
「だ、旦那様!」
「ヘドヴィカ! 無事だったか!」
ボジェクが大声で名前を呼んだ。
焦燥感に苛まれた様子で足早にヘドヴィカの元に駆けつけ、きつく抱きしめてくる。
ヘドヴィカはというと、彼の行動になされるままにその場に立ち尽くしていた。
その様子を見ていた第三者の大きなため息が耳に入ってくる。
「ふたりとも、いつまで二人きりの世界に閉じこもってるわけ? 僕を置いていくなんてひどいでしょ」
「お前はお呼びじゃねぇんだよ、アダム。何の用だ。俺のいない間に勝手に屋敷に入り込みやがって。急ぎの伝達があって引き返してきたからいいものの……」
ヘドヴィカの腰を抱いたまま、ボジェクは鋭い視線でアダムを睨みつけた。
睨まれた当人はというと、やはり平然とした面持ちで「……つづき、話してもいい?」とボジェクに対しては見事に無視を決めこみ、ヘドヴィカへと視線を合わせる。
「……はい」
ヘドヴィカはこくりと頷き、話の続きを促した。
「おいっ、ヘドヴィカも! 俺を無視するな」
横でボジェクの講義の声が聞こえるが、今はそれよりもアダムの話が気になっていた。
彼の動機や思いを聞くのはそら恐ろしくもあったが、関わってしまった以上避けられるものではないと理解していたからだ。
ボジェクの帰宅で一瞬空気が少し緩んだかと思えば、アダムは「どうして僕がそこまで自分の家を憎むのかって話だったよね」と口にし、途端に緊張感が高まった。
隣で喚いていたボジェクも、気がつけば口元を引き締めて険しい面持ちを作っている。
「……僕は母を殺されたんだ。父やその周囲の人間たちにね」
ヘドヴィカとボジェクは同時に息を呑んだ。
殺されたなどと物騒な言葉が飛び出してくるなど予想外だったためだ。
ボジェクはぽつりとこぼす。
「……そういえばお前の母も数年前に亡くなっていたな。殺されたってどういうことだ」
「きっと父は否定するだろう。母の死因は──自殺だったんだ。父たちに追い詰められたゆえのね」
118
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる