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幸せの中で微笑む2【完】
こういうところは良い意味で昔との違いを感じさせてくる。
相手のことを慮り、好意や愛情を乗せた言葉をヘドヴィカに向かって囁いてくれるところ。
彼に優しくされるにつれて、ここの傷が癒やされていくように思った。
心臓が激しく脈打っているのを自覚する。
きっと今のヘドヴィカの顔は真っ赤に染まっているに違いない。
隠すように思わず顔を俯かせれば、なぜだかボジェクは焦ったように言い募りはじめ。
「っ、とわりぃ。こんなこと言ってお前を困らせるつもりじゃなかったんだが」
また一歩引き下がるボジェクが顔を見せ始めた。
眉尻を下げて落ち込む彼を目の当たりにしたその瞬間、ヘドヴィカの中に燻っていた疑念がとうとう抑えきれなくなり。
「どうして近頃私の顔色ばかり伺うんですか?」
「…………気がついてたのか」
「そんなあからさまにされれば、だれだって気がつきます」
眉根を寄せながら問い掛ければ、彼は顔を曇らせながらゆっくりと本心を吐き出していく。
「……怖いんだ。お前が離れていってしまうのが」
「どういうことでしょうか?」
「無理に接して嫌われて……あの時みたいに拒否されて、10年以上離れ離れになるのが怖くて仕方ない。ようやくそばにいられるようになったのに、俺がまた馬鹿やってお前に嫌われて。元々好かれてないのに、これ以上嫌いなられるのが恐ろしいんだ。別荘にいるときは違って王都に帰った途端、まるで現実が押し寄せてくるみたいに恐怖心が溢れ出てくる」
別荘で過ごす日々は、ボジェクにとって現実感がなく、いわゆる夢のようなものだったのだろう。
見えないものに怯える姿はまるで子供のようだった。
このような顔をさせているのがヘドヴィカ自身だということにひどい罪悪感が押し寄せてくる。
ヘドヴィカは衝動的に言い返していた。
「わ、私はあなたのこと嫌いじゃなありませんよ! なにを馬鹿なこと言ってるんですかっ」
「…………ぇ」
(そうよ、私はボジェクのことはもう嫌いじゃない。むしろ──)
その言葉の続きを口にするのに勇気が必要だった。
だけれど、彼ばかりに言わせ続けるなんて不公平だと分かっていた。
持てる勇気を振り絞り、ヘドヴィカは勢い任せに主張した。
「──私、あなたのこと一人の男性として好きですよ!」
それを聞いた途端、ボジェクはその場で固まった。
彫像のように微動だにせず、呼吸をしているのかも定かではないほどだった。
しばらくしてようやく意識が戻ってきたボジェクだったが、急激に顔を赤らめて口を戦慄かせる。
「ほっ、本当なのか」
信じられないといわんばかりに見つめてくる彼の瞳孔は開ききっていた。
狂気を感じさせる瞳と勢いに押され、こくりと頷けば。
「……し、信じられねぇ」
瞬間その場で脱力し、放心したように馬車の天井を見つめていた。
ヘドヴィカはというと、どうしていいのか分からずにその場で彼のおかしな言動を目に映し続けることしかできない。
突如、彼はぱっと顔を向けてきたかと思えば、ヘドヴィカの両肩に手を掴んで言い切る。
「俺も、お前のことが好きだ!」
「……っ」
一気に体温が上昇した。
こんなにも真っ正面から好意をぶつけられることが照れ臭いものだと知らず、真っ赤な彼の頬が伝染くるようだ。
ヘドヴィカは動揺しながらも「知ってるわ」と囁いたものの、声は少し掠れてしまった。
甘い、蕩けるような空気が馬車内部を支配する。
ヘドヴィカは知らないうちにボジェクのことを好きになっていたらしい。
自分の気持ちに気がついたのは彼の態度がおかしくなったとき──つい最近だった。
いつ好きになったのかなんて分からないけれど、ボジェクの言葉と行動が噛み合っていないなと理解したときから気になっていたのかもしれない。
口ではヘドヴィカに対し蔑むような言葉を吐き出し、行動は母親について回る子供のよう。
彼の本心がどこにあるのか、興味を惹かれたときにはもう手遅れだった。
(もう誰かを好きになるもんかって思っていたのに、人の心っておかしなものね。……小さい頃はこんな男絶対に好きになるはずないって考えていたし、むしろ嫌っていたはずなのにね)
様々な出来事を経験してヘドヴィカも大きく変わった。 いいこともあれば傷つくこともあったが、すべてがヘドヴィカの成長の糧になったように思う。
どんな場面でも常な隣で支えてくれていたのはボジェクだった。
寄り添い、時には助け合い、いつしか夫婦として過ごすことが当たり前になっていった。
夫婦になって過ごした時間はまだ短い。
これから先、また彼のことを憎らしく思ったりする場面が出てくるかもしれない。
それでも最終的にはボジェクのことを受け入れ、隣にいることを選び続けたいと思っている。
ヘドヴィカは彼への愛しさを抱きながら微笑みを浮かべた。釣られるようにしてボジェクも笑う。
彼が優しい手つきで腰に手を回してきて、自然と体が密着した。口元がいっきに近づき、唇を触れ合わせる。
幸せな口付けの中で、ヘドヴィカは幸福なときを噛み締めたのだった。
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