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僕の半分<sound of WAVES>
僕の半分<sound of WAVES> 2
「可愛い顔して、まだ誰の手垢も着いてません、となれば若い女子だけじゃなく、お母さん、お婆ちゃんのファンも着くよ。女ってさ、清らかなのが好きだから。勿論、大声で言う事じゃないから、そこら辺はうまくぼやかして。だけど、身綺麗ですっていう強いアピール?するとさ、必ず出て来るんだよ、暴露系ネット掲示板とかに、創作の数々が。君に虐められた、暴力受けた、実は遊んでる、その証拠がある、とかね。嫉妬妨害っていうかなあ、愉快犯というかなあ。これを事務所としては放置せず、速攻で否定して噂に過ぎない事を表明して、君を守る作業をしなきゃならない。事務所の対応が迅速なら"ちゃんとしてます、酷けりゃそれなりに対応するぞ"アピールにもなるからね。うちが△△事務所みたいに資金力も規模もでっかければ、即座に国民全員が知るような弁護士雇って、白を黒にもしちゃうところなんだけど、それは無理だからさ。せめて、速攻で否定位はしたいから。」
「ありがとうございます。」
「今、もし、俺に言い辛くて隠し事があっても、いつかは教えてね。事務所への君の信頼が強くなってからで構わないから。君を守る為の情報は、幾つあってもいいからね。それを口外なんかしないから。君はもう、うちの事務所の大黒柱になるんだもの。俺らが不利益な事するわけ無いでしょう?」
「はい。」
ジユルは、5年前の先輩の事が脳裏に過った。
しかし、それを公にしてしまえばむしろ先輩の方がリスクが大きい筈だ。普通に社会生活を送っているだろうに、後輩の同性に手を出し肉体関係まであったと分かれば、今の立場が揺らぐだろう。
自分はハソプが言う所の”水商売”の世界に身を置くのだから、どうとでもなる。仕事を干される事になったとしても、今のジユルにはハソプ以外失って困るものなど無いのだからと気楽に考えていた。
ジユルは、自身がこれまで理不尽に虐められる立場になった事が無い。
何処から生じるか分からない人の恨みや、人を弄ぶ悪魔の心が引き起こす紅蓮の炎を知らないのだ。正義だけが罷り通る世の中では無い。性善説など、存在しない。
その厳しい現実を、身を以て知っている訳では無かった。
育ちが良いと言えばそれまでだが、結局の所、常に誰かや何かに守られて安全圏に居続ける半生は、真の現実を知らないと言われても間違いでは無かった。
現実の世の中が、人間の本質が、どれだけ残酷で不条理な事か、知りようが無かったのである。
「社長、僕の芸名なんですが・・・黄色、入れられませんか?」
「ノラッタ?ノランセク?なんか語呂があんまりパッとしないなあ。」
「一文字でファン(黄)はどうですか?」
「ああそうか。あのドラマは世界配信だ。グローバルファンも増えるだろうしな。ファンなら響きも良いし覚えやすい、いいんじゃないか?」
「じゃあ、ファン・ジユルで如何ですか?名前ももっと簡単なものにした方がいいのかな・・・」
「ファンとアンで響きが全く同じじゃないか。これにしたら?君自身も違和感無いでしょ。」
「じゃあ、それでお願いします。」
「キャラクターは、カワイイ童貞君でいいの?」
ジユルは余りにもナンセンスな言葉の響きに、目を丸くした。
「あんまりソレを全面的に出されると・・・僕への興味がそれを卒業するのはいつ、何処で、誰と?ってばかりになりませんか?」
「そんなの誰も分からないじゃないか…君が「卒業しました~」って報告するわけ無いし・・・じゃあ、童貞は匂わす程度で、世間知らずなんですぅ~可愛いものは男女動物植物何でもスキです~では、どう?」
「なんか、無理がありますがそれで結構です。韓国でこれをやると、一気に炎上するような気もしますが?」
「まあなあ、まだまだ男社会だしマイノリティは認めないし、兵役がある限り軟弱そうな男は不利だしなあ。」
「僕、不利じゃないですか。」
「うん。自己分析が出来るなら安心した。でも、希少価値はあるぞ?何かあったらすぐに君を守りにすっ飛んで行くからさ。問題は今後の方だよ。身辺に気を付けてね。もし、お付き合いする人が出てきたら、ちゃんと報告するんだよ。対処が変わっていくから。」
「はい。」
「この大作出演の後だけど、オファーが来たら君は仕事を選ぶのかな?それとも、俺に任せていいのかな?極端に言えば・・・ラブシーンやベッドシーンもOKなのかな?」
「何でもいいです。お任せします。地上波にも拘らないです。脚本がしっかりしていれば・・・社長さんが上手く僕に”写し”て下されば、やれると思います。」
「君、童貞なのにどうやってラブシーン演じるの?」
「大丈夫です。色々見て勉強していますので。」
「ははぁん。それは、モザイクあり?なし?」
「なしです。」
「ふぅ~ん、君もやるねえ。ちなみに何処のサイト見てるの?」
「広告が煩いですが、無料で全部見せてくれるサイトです。お見せしましょうか?」
ジユルは自分のスマホを取り出し、ブックマークからそのサイトを出して社長に見せた。
「やだっ!真昼間から!!」
「社長、指の隙間が広いですね。」
顔を手で覆っている社長に笑って、ジユルはスマホの上部、時計に目をやった。もうすぐ、ハソプの退勤の時間になる。
「凄いじゃん、カテゴリー別になってて、それも細分化されてる!何でもっと早く知れなかったんだよ!アダルト検索してもこいつは出て来なかったぞ?なんで童貞の君が見つけ出してるんだ?」
「童貞、だからですよ。何も分からないから、狙って探しようがありません。純粋にアダルトキーワード入れて、最初にヒットしたのがコレでした。社長、URLを送りますからもう僕のスマホ返して下さい。」
「ああ、すまんすまん。必要事項はそんなところか。じゃあ、明日、迎えに行くのはこの住所でいいのか?」
「あ!」
ジユルはそこで初めて気付いた。
今後送迎が付くなら、気ままにハソプの部屋に泊まる事が出来なくなる。何か上手い言い訳を作って、ハソプの家から通えないものか・・・
「行きは、現地集合ではいけませんか?日によりけりで、送迎はランダムじゃいけませんか?まだ本格的に撮影が始まっていないですし・・・ハードスケジュールでは無いので・・・」
「分った。じゃあ、いつでも送迎出来るように、俺は車で現地に行く事にするから。」
「近々、引っ越しするかもしれないんです。そうなったら、乗り継ぎとか不慣れだから送迎をお願いすると思います。」
「初日だから遅れるなよ?毎朝、確認電話入れるからな?」
「はい、お願いします。では、お先に失礼します。」
「もう、君一人の身体じゃないぞ。気を付けて帰るんだぞ。おめでとう、ファン・ジユル君。」
事務所を出て、すぐにジユルはハソプに『今からハソプの部屋に帰る』とメッセージを入れた。すぐに折り返しの電話が掛かって来て、迎えに来ると言う。ジユルは念の為、事務所のある駅の次の駅まで移動すると伝えた。
すぐにハソプはジユルをピックアップして、二人でハソプの部屋に帰った。玄関に入りすぐに固く抱き合った。
「おめでとう、ジユル君。」
「全部、ハソプさんのお陰です。ありがとうございます。あと・・・言いたいのに我慢しててくれて。」
二人は部屋に入るなりまた固く抱き合い、長いキスをした。
「僕の名前、明日からファン・ジユルになりました。社長と一緒に考えて決めました。」
「ファン・・・?黄色?」
「はい。今の僕はもう、ハソプさんの色に染まってるし・・・もっと染まりたいから。いけませんでしたか?」
「嬉しいよ。君の中に俺の位置が不動みたいで。でも、イ・ジン君じゃなかったんだ?」
「はい。イ・ジンは僕の中に取り込んだので、表には名前共々出しません。すぐに子役時代の事が世に知れ渡るでしょうけど・・・僕が取り込まれたんじゃない、僕が取り込んだんだって、証明してみせます。」
「うん。いいね、その意気込みは。」
「それと、僕は童貞キャラで売るそうです。」
「童貞?ちょっと、それは無いだろう?君が?社長もセンス無いなあ~」
「センスも何も、事実ですので。僕はそれでいいです。」
「君、とっくに童貞じゃあ無いでしょう?」
「いいえ、童貞のままですよ?多分、一生。」
「あっ!?あ・・・ああ。」
「とっくに失ったのは、バージンの方なので・・・」
しれっと言ったジユルに、ハソプは顔を真っ赤にして唇を戦慄かせていた。
「君、そういう事、言っちゃダメだよ!韓国では受けがよくないかもだけど、一応、その『僕はまだ何も知りません』のキャラで行くんだろ?夢、壊れる!」
「ハソプさんの夢を壊したんですか?」
「ああ、もうっ・・・」
「社長に、スキャンダル防止の為に、過去の事を聞かれました。彼女の事は言いましたが、先輩の事は言えませんでした。今の・・・この現状も。」
「そうか。君の事務所の社長ね、俺の大学の先輩。」
「はい、伺いました。明日から僕のマネージャーをして下さるそうです。」
「ふうん。社長も見る目があったんだな。本格的に、君を育てるつもりなんだよ。」
「人手不足だからじゃなくて?」
「君は演劇界をよく知らないんだろうけど、あの人、結構有名な舞台監督さんなんだよ。本来は舞台の人。ドラマ・映画の人じゃないの。舞台役者を多く育てたいって、事務所立ち上げたのも最近だしさ。君もいずれは舞台を経験する事になると思う。明日から現場に出向くなら、周囲が君を見る目も憶測やらで厳しくなるだろうから、しっかり応えていけるようにね。社長は凄く責任感が強くてさ、信頼出来る人なんだ。だから、君を任せられるかなと思って、君に紹介したんだ。」
「そんな凄い方を・・・ハソプさん、何から何まで僕の事考えて下さって、ありがとうございます。嬉しいです。期待に沿えるよう、頑張ります。」
「うん。頑張って、周囲の人も君が幸せにしてあげるんだよ?そしていつか・・・社長には本当の事を、俺が伝えるから。もう少し後で。」
「それについて問題が・・・」
「なに?今言いたいの?ダメだよ?コネだなんだって言われたくない。今回の役は、君の実力で勝ち取ったものなんだ。俺は何言われても構わないけど、君はダメだ。まっさらなままで、リスタートするんだからね。」
半ば怒り口調で早口に言うハソプに、ジユルは薄笑みを浮かべて何度も頷いていた。
「本当に、いつも僕の事を沢山考えて下さって、ありがとうございます。僕が問題にしているのは、今後の社長の送迎についてです。」
「え?あ?そうなの?」
肩透かしを食らったとでも言うように、ハソプはどすんとソファーに腰を下ろした。
「撮影がハードになるまでは自力で通いたいと言いました。でも、時間が不規則で撮影がタイトになれば、車での送迎をお願いせざるを得なくなります。と言う事は、僕は僕の部屋を拠点に行き来しなきゃいけなくなる。もう、ここに来れなくなっちゃいます。」
「ああ、そういう問題もあったか。」
「僕、ハソプさんと離れていたくありません。どんなに忙しくても、おやすみのキスはしたいし、おはようって顔も見たいです。ハソプさんのこのマンションに空き部屋はありませんか?住所が同じでも、それなら怪しまれないでしょう?」
「そうだね。調べてみるよ。君のマンションも空き部屋が無いか調べられる?俺が引っ越しても構わないし。」
「本当ですか?同じ気持ちで、嬉しい。」
ジユルはハソプの隣に腰掛け、まるで押し倒す勢いで抱き着いた。
「僕、随分ハソプさんに依存してるみたいで・・・引かれ始めちゃったかもって、この頃心配していました。」
「引くもんか。俺は、ストーカーだぞ?」
「ふふっ。そうでした。明日も、同じ現場ですけど別々に行きましょうね。」
「明日は初顔合わせの後、集合写真のスチールを撮るんだよ。君、服装は大丈夫?」
「はい、こちらに幾つか置いてある服で十分間に合います。カジュアルしか持ってませんが、クランクインで僕にはお祝いの日だから、全身真っ白で行きます。」
「おおっ?なかなか目立っちゃうぞ?」
「はい。出る釘は打たれる、まで行ってませんので、早く打たれるだけの長さにならないと。なりふり構っていられません。」
「いいねえ。自己顕示欲丸出しでも、まだまだ先輩方には勝てないから。さ、簡単なものしか作れないけど、夕飯作るから食べてさっさと寝よう。明日、早めに現場に行けるように。」
「さっさと寝るのかあ。残念。」
「シャワー浴びておいで。作っておくから。」
「はあい。」
結局、その夜もジユルの誘惑に勝てず、二人は一回戦引き分けで夜にピリオドを打った。
スタッフとキャストが初顔合わせの後、挨拶だけしか交わして居ない状態でスチール写真撮影に入った。
集合と、主要人物達だけ、一人ずつ、と何枚撮影されたか分からない。
単体での撮影で、眩しいライトを浴びながら連写のデジタル音を聞けば、嫌が応にも緊張が高まって表情も仕草も固くなる。
今日から現場マネージャーデビューした事務所社長は、カメラマンに頭を下げて撮影を中断して貰い、ジユルをセット脇に呼んだ。
「君、設定思い出して?君は手垢の付いていない童貞君。俺がもう一つキャラ加えてあげよう。君はティーンとおばちゃんに大人気ボーイズアイドルグループのマンネ(末っ子)だ。これで撮影に臨んで?」
ジユルは小さく吹き出して何度も頷いた。社長の追加事項で緊張は一気に解けた。
セットに戻ってからは、会社の元同僚の女子社員がいつも騒いでいた、ジユルが知っている唯一のアイドルグループのマンネの役をそっくり真似てポージングをした。アイドルになど興味が全く無いのだが、勤務している間に毎日そのグループの事を聞かされてすっかり覚えてしまったのだ。
カメラマンが「いいねえ、アイドルで行けるんじゃない?」などとリラックスの謳い文句を並べ、撮影は無事に終了した。ジユルは、元同僚の女子社員に感謝した。
「うん、上出来。これでもう、君のイメージは固定だから。ここからはみ出さないように、十分気を付けてね。(童貞)卒業したらすぐに教えるんだよ?次のキャラ作りに取り掛かるから。」
「あ・・・はい。多分、暫くは・・・」
ジユルは、照れたように答えながらも内心「一生童貞のままなので、そこは・・・」と呟いていた。
「インタビューは共演者の皆さんが少し打ち解けた頃、撮影が少し進んだ頃にやるんじゃないかな。特殊撮影が多くなるから、撮影も編集も時間が掛かるからね。プレスリリースはずっと先。今日の写真と簡単なプロフィールの解禁になるから。2~3か月先かな。突然大きなニュースで出たら戸惑うだろうから、ご家族や近い人には日にちが決まり次第知らせておいた方がいいかもね。」
「はい、分かりました。」
興奮冷めやらずの一日の終わり、中々寝付けなかったジユルはハソプに口で鎮めて貰い、漸く安眠出来た程だった。
「ありがとうございます。」
「今、もし、俺に言い辛くて隠し事があっても、いつかは教えてね。事務所への君の信頼が強くなってからで構わないから。君を守る為の情報は、幾つあってもいいからね。それを口外なんかしないから。君はもう、うちの事務所の大黒柱になるんだもの。俺らが不利益な事するわけ無いでしょう?」
「はい。」
ジユルは、5年前の先輩の事が脳裏に過った。
しかし、それを公にしてしまえばむしろ先輩の方がリスクが大きい筈だ。普通に社会生活を送っているだろうに、後輩の同性に手を出し肉体関係まであったと分かれば、今の立場が揺らぐだろう。
自分はハソプが言う所の”水商売”の世界に身を置くのだから、どうとでもなる。仕事を干される事になったとしても、今のジユルにはハソプ以外失って困るものなど無いのだからと気楽に考えていた。
ジユルは、自身がこれまで理不尽に虐められる立場になった事が無い。
何処から生じるか分からない人の恨みや、人を弄ぶ悪魔の心が引き起こす紅蓮の炎を知らないのだ。正義だけが罷り通る世の中では無い。性善説など、存在しない。
その厳しい現実を、身を以て知っている訳では無かった。
育ちが良いと言えばそれまでだが、結局の所、常に誰かや何かに守られて安全圏に居続ける半生は、真の現実を知らないと言われても間違いでは無かった。
現実の世の中が、人間の本質が、どれだけ残酷で不条理な事か、知りようが無かったのである。
「社長、僕の芸名なんですが・・・黄色、入れられませんか?」
「ノラッタ?ノランセク?なんか語呂があんまりパッとしないなあ。」
「一文字でファン(黄)はどうですか?」
「ああそうか。あのドラマは世界配信だ。グローバルファンも増えるだろうしな。ファンなら響きも良いし覚えやすい、いいんじゃないか?」
「じゃあ、ファン・ジユルで如何ですか?名前ももっと簡単なものにした方がいいのかな・・・」
「ファンとアンで響きが全く同じじゃないか。これにしたら?君自身も違和感無いでしょ。」
「じゃあ、それでお願いします。」
「キャラクターは、カワイイ童貞君でいいの?」
ジユルは余りにもナンセンスな言葉の響きに、目を丸くした。
「あんまりソレを全面的に出されると・・・僕への興味がそれを卒業するのはいつ、何処で、誰と?ってばかりになりませんか?」
「そんなの誰も分からないじゃないか…君が「卒業しました~」って報告するわけ無いし・・・じゃあ、童貞は匂わす程度で、世間知らずなんですぅ~可愛いものは男女動物植物何でもスキです~では、どう?」
「なんか、無理がありますがそれで結構です。韓国でこれをやると、一気に炎上するような気もしますが?」
「まあなあ、まだまだ男社会だしマイノリティは認めないし、兵役がある限り軟弱そうな男は不利だしなあ。」
「僕、不利じゃないですか。」
「うん。自己分析が出来るなら安心した。でも、希少価値はあるぞ?何かあったらすぐに君を守りにすっ飛んで行くからさ。問題は今後の方だよ。身辺に気を付けてね。もし、お付き合いする人が出てきたら、ちゃんと報告するんだよ。対処が変わっていくから。」
「はい。」
「この大作出演の後だけど、オファーが来たら君は仕事を選ぶのかな?それとも、俺に任せていいのかな?極端に言えば・・・ラブシーンやベッドシーンもOKなのかな?」
「何でもいいです。お任せします。地上波にも拘らないです。脚本がしっかりしていれば・・・社長さんが上手く僕に”写し”て下されば、やれると思います。」
「君、童貞なのにどうやってラブシーン演じるの?」
「大丈夫です。色々見て勉強していますので。」
「ははぁん。それは、モザイクあり?なし?」
「なしです。」
「ふぅ~ん、君もやるねえ。ちなみに何処のサイト見てるの?」
「広告が煩いですが、無料で全部見せてくれるサイトです。お見せしましょうか?」
ジユルは自分のスマホを取り出し、ブックマークからそのサイトを出して社長に見せた。
「やだっ!真昼間から!!」
「社長、指の隙間が広いですね。」
顔を手で覆っている社長に笑って、ジユルはスマホの上部、時計に目をやった。もうすぐ、ハソプの退勤の時間になる。
「凄いじゃん、カテゴリー別になってて、それも細分化されてる!何でもっと早く知れなかったんだよ!アダルト検索してもこいつは出て来なかったぞ?なんで童貞の君が見つけ出してるんだ?」
「童貞、だからですよ。何も分からないから、狙って探しようがありません。純粋にアダルトキーワード入れて、最初にヒットしたのがコレでした。社長、URLを送りますからもう僕のスマホ返して下さい。」
「ああ、すまんすまん。必要事項はそんなところか。じゃあ、明日、迎えに行くのはこの住所でいいのか?」
「あ!」
ジユルはそこで初めて気付いた。
今後送迎が付くなら、気ままにハソプの部屋に泊まる事が出来なくなる。何か上手い言い訳を作って、ハソプの家から通えないものか・・・
「行きは、現地集合ではいけませんか?日によりけりで、送迎はランダムじゃいけませんか?まだ本格的に撮影が始まっていないですし・・・ハードスケジュールでは無いので・・・」
「分った。じゃあ、いつでも送迎出来るように、俺は車で現地に行く事にするから。」
「近々、引っ越しするかもしれないんです。そうなったら、乗り継ぎとか不慣れだから送迎をお願いすると思います。」
「初日だから遅れるなよ?毎朝、確認電話入れるからな?」
「はい、お願いします。では、お先に失礼します。」
「もう、君一人の身体じゃないぞ。気を付けて帰るんだぞ。おめでとう、ファン・ジユル君。」
事務所を出て、すぐにジユルはハソプに『今からハソプの部屋に帰る』とメッセージを入れた。すぐに折り返しの電話が掛かって来て、迎えに来ると言う。ジユルは念の為、事務所のある駅の次の駅まで移動すると伝えた。
すぐにハソプはジユルをピックアップして、二人でハソプの部屋に帰った。玄関に入りすぐに固く抱き合った。
「おめでとう、ジユル君。」
「全部、ハソプさんのお陰です。ありがとうございます。あと・・・言いたいのに我慢しててくれて。」
二人は部屋に入るなりまた固く抱き合い、長いキスをした。
「僕の名前、明日からファン・ジユルになりました。社長と一緒に考えて決めました。」
「ファン・・・?黄色?」
「はい。今の僕はもう、ハソプさんの色に染まってるし・・・もっと染まりたいから。いけませんでしたか?」
「嬉しいよ。君の中に俺の位置が不動みたいで。でも、イ・ジン君じゃなかったんだ?」
「はい。イ・ジンは僕の中に取り込んだので、表には名前共々出しません。すぐに子役時代の事が世に知れ渡るでしょうけど・・・僕が取り込まれたんじゃない、僕が取り込んだんだって、証明してみせます。」
「うん。いいね、その意気込みは。」
「それと、僕は童貞キャラで売るそうです。」
「童貞?ちょっと、それは無いだろう?君が?社長もセンス無いなあ~」
「センスも何も、事実ですので。僕はそれでいいです。」
「君、とっくに童貞じゃあ無いでしょう?」
「いいえ、童貞のままですよ?多分、一生。」
「あっ!?あ・・・ああ。」
「とっくに失ったのは、バージンの方なので・・・」
しれっと言ったジユルに、ハソプは顔を真っ赤にして唇を戦慄かせていた。
「君、そういう事、言っちゃダメだよ!韓国では受けがよくないかもだけど、一応、その『僕はまだ何も知りません』のキャラで行くんだろ?夢、壊れる!」
「ハソプさんの夢を壊したんですか?」
「ああ、もうっ・・・」
「社長に、スキャンダル防止の為に、過去の事を聞かれました。彼女の事は言いましたが、先輩の事は言えませんでした。今の・・・この現状も。」
「そうか。君の事務所の社長ね、俺の大学の先輩。」
「はい、伺いました。明日から僕のマネージャーをして下さるそうです。」
「ふうん。社長も見る目があったんだな。本格的に、君を育てるつもりなんだよ。」
「人手不足だからじゃなくて?」
「君は演劇界をよく知らないんだろうけど、あの人、結構有名な舞台監督さんなんだよ。本来は舞台の人。ドラマ・映画の人じゃないの。舞台役者を多く育てたいって、事務所立ち上げたのも最近だしさ。君もいずれは舞台を経験する事になると思う。明日から現場に出向くなら、周囲が君を見る目も憶測やらで厳しくなるだろうから、しっかり応えていけるようにね。社長は凄く責任感が強くてさ、信頼出来る人なんだ。だから、君を任せられるかなと思って、君に紹介したんだ。」
「そんな凄い方を・・・ハソプさん、何から何まで僕の事考えて下さって、ありがとうございます。嬉しいです。期待に沿えるよう、頑張ります。」
「うん。頑張って、周囲の人も君が幸せにしてあげるんだよ?そしていつか・・・社長には本当の事を、俺が伝えるから。もう少し後で。」
「それについて問題が・・・」
「なに?今言いたいの?ダメだよ?コネだなんだって言われたくない。今回の役は、君の実力で勝ち取ったものなんだ。俺は何言われても構わないけど、君はダメだ。まっさらなままで、リスタートするんだからね。」
半ば怒り口調で早口に言うハソプに、ジユルは薄笑みを浮かべて何度も頷いていた。
「本当に、いつも僕の事を沢山考えて下さって、ありがとうございます。僕が問題にしているのは、今後の社長の送迎についてです。」
「え?あ?そうなの?」
肩透かしを食らったとでも言うように、ハソプはどすんとソファーに腰を下ろした。
「撮影がハードになるまでは自力で通いたいと言いました。でも、時間が不規則で撮影がタイトになれば、車での送迎をお願いせざるを得なくなります。と言う事は、僕は僕の部屋を拠点に行き来しなきゃいけなくなる。もう、ここに来れなくなっちゃいます。」
「ああ、そういう問題もあったか。」
「僕、ハソプさんと離れていたくありません。どんなに忙しくても、おやすみのキスはしたいし、おはようって顔も見たいです。ハソプさんのこのマンションに空き部屋はありませんか?住所が同じでも、それなら怪しまれないでしょう?」
「そうだね。調べてみるよ。君のマンションも空き部屋が無いか調べられる?俺が引っ越しても構わないし。」
「本当ですか?同じ気持ちで、嬉しい。」
ジユルはハソプの隣に腰掛け、まるで押し倒す勢いで抱き着いた。
「僕、随分ハソプさんに依存してるみたいで・・・引かれ始めちゃったかもって、この頃心配していました。」
「引くもんか。俺は、ストーカーだぞ?」
「ふふっ。そうでした。明日も、同じ現場ですけど別々に行きましょうね。」
「明日は初顔合わせの後、集合写真のスチールを撮るんだよ。君、服装は大丈夫?」
「はい、こちらに幾つか置いてある服で十分間に合います。カジュアルしか持ってませんが、クランクインで僕にはお祝いの日だから、全身真っ白で行きます。」
「おおっ?なかなか目立っちゃうぞ?」
「はい。出る釘は打たれる、まで行ってませんので、早く打たれるだけの長さにならないと。なりふり構っていられません。」
「いいねえ。自己顕示欲丸出しでも、まだまだ先輩方には勝てないから。さ、簡単なものしか作れないけど、夕飯作るから食べてさっさと寝よう。明日、早めに現場に行けるように。」
「さっさと寝るのかあ。残念。」
「シャワー浴びておいで。作っておくから。」
「はあい。」
結局、その夜もジユルの誘惑に勝てず、二人は一回戦引き分けで夜にピリオドを打った。
スタッフとキャストが初顔合わせの後、挨拶だけしか交わして居ない状態でスチール写真撮影に入った。
集合と、主要人物達だけ、一人ずつ、と何枚撮影されたか分からない。
単体での撮影で、眩しいライトを浴びながら連写のデジタル音を聞けば、嫌が応にも緊張が高まって表情も仕草も固くなる。
今日から現場マネージャーデビューした事務所社長は、カメラマンに頭を下げて撮影を中断して貰い、ジユルをセット脇に呼んだ。
「君、設定思い出して?君は手垢の付いていない童貞君。俺がもう一つキャラ加えてあげよう。君はティーンとおばちゃんに大人気ボーイズアイドルグループのマンネ(末っ子)だ。これで撮影に臨んで?」
ジユルは小さく吹き出して何度も頷いた。社長の追加事項で緊張は一気に解けた。
セットに戻ってからは、会社の元同僚の女子社員がいつも騒いでいた、ジユルが知っている唯一のアイドルグループのマンネの役をそっくり真似てポージングをした。アイドルになど興味が全く無いのだが、勤務している間に毎日そのグループの事を聞かされてすっかり覚えてしまったのだ。
カメラマンが「いいねえ、アイドルで行けるんじゃない?」などとリラックスの謳い文句を並べ、撮影は無事に終了した。ジユルは、元同僚の女子社員に感謝した。
「うん、上出来。これでもう、君のイメージは固定だから。ここからはみ出さないように、十分気を付けてね。(童貞)卒業したらすぐに教えるんだよ?次のキャラ作りに取り掛かるから。」
「あ・・・はい。多分、暫くは・・・」
ジユルは、照れたように答えながらも内心「一生童貞のままなので、そこは・・・」と呟いていた。
「インタビューは共演者の皆さんが少し打ち解けた頃、撮影が少し進んだ頃にやるんじゃないかな。特殊撮影が多くなるから、撮影も編集も時間が掛かるからね。プレスリリースはずっと先。今日の写真と簡単なプロフィールの解禁になるから。2~3か月先かな。突然大きなニュースで出たら戸惑うだろうから、ご家族や近い人には日にちが決まり次第知らせておいた方がいいかもね。」
「はい、分かりました。」
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