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満月の章 ダリアの黙示録
Contradictio/猜疑孵化 1
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カレンを寝所まで連れて二人と別れてから一夜明け、俺は簡易拠点からのそのそと這い出る。
ほとんどと言っていいほど眠れなかった。
パンドラが逃げても油断出来ず、常に警戒していたのもあるが、それ以上にカレンについて考えすぎた結果、この有様である。
あくびを噛み殺し、まだ地平線から出たばかりの日光を浴びながら体を鳴らした俺は、早速二人がいる所まで足を運んだ。
すると、勢い良く彼女達が眠る寝床の入り口がばっと開かれる。
「おはようございます、お二方」
俺は軽く挨拶し、顔を上げると目の前にはカエデさんがいた。
「…………………………」
何も喋ってくれないので、立ち去ろうと踵を返すが、
「待て」
まさかの肩を掴まれて動きを封じられる。
「何でしょうか?」
「カレン様が話をしたいそうだ」
話?
開けられた空間の中を見てみるが、呼び出した当の本人は顔を俯かせていた。
「今の彼女はそっとしておくのが最良だと思うのですが」
カエデさんになんとか聞こえるくらい小声で囁く。
「いいから聞け」
「はぁ」
俺の意思の有無を言わさず、彼女は中に入っていく。
カレンを外に出すためだ。
「では、私は朝食の準備を致しますので、席を外します」
そう出てきたカレンに言うと、彼女はチラチラとこちらを何度も見ながら、少し離れた位置で作業を始める。
「ごめんなさいね、朝早くから………………」
カレンは本当に申し訳なさそうに謝る。
そして、その声の暗さに俺は内心驚いた。
「いや、いいよ…………話したい事があるんだろ?」
「えぇ………………………」
顔を上げた彼女。
朝焼けに照らされた彼女の目は、泣きはらした跡のように腫れぼったくなっていたが、何かを決意したかのように力強く純心とした眼差しだ。
なのに、その真っ直ぐな瞳に何処か疑念を抱いてしまう。
いつも俺を見ている目と違う。
どこか粘着質のような、くっついたら離れない、そんなねっとりとしたような物を感じた。
俺の勘違いであればいいが。
「ねぇアベル。あなたにこの際確認したいことがあるの」
視線を合わさないよう、しかし露骨に相手に気づかせないようにする為、俺は彼女の目より少し下に注目する。
「確認? どうしたんだよ今更」
「大事なことなの、誤魔化さないで」
そう少し不満げに言うと、俺の視線の移動に気づいたのか、少し近づいて目線を合わせてきた。
ばれてたか。
「アベル。あなたはあの時、何もかも諦めようとしていた私にこう言ってくれたわよね? 私の思い出を取り返すって」
再認識させるように問う。
「あぁ、確かに言った」
「私はあの時、とても救われたわ……………。それはもう、崖から落ちて、暗い、暗い場所にいた私に射し込む陽光みたいに………………ね」
カエデさんの方をちらりと見ると、彼女はそのまま流し目で俺に瞳を向けた。
「……………………………………」
「でも、昨日出会ったあの子に……………………正確には亡くなられた姿そのままのお父様を見せられて、また地の底まで引き摺り下ろされた」
「!」
ただでさえ低いのにさらに1段下げられた音域。
「私、今になってある気持ちがふつふつと湧いてくるの。いけないことだってそんなの分かってる。でも、抑えきれそうにないのよ……………」
「…………………………」
いけないこと。それはおそらくパンドラに対してだろう。
ヴィルヘルムの殺害に関与してないとパンドラは証言し、今の帝国情勢から見て身内の暗殺も大いにありえるが、彼女はパンドラもしくはその一派が殺害したと判断している。
彼の死体を使役し、道具のように使うだけでなく、娘に見せて改めて無惨な死体を刷り込み、カレンが持っているドロシーが使っていたとされる短剣を根拠にして考えているからだ。
「それでね…………………大切な思い出を取り戻すまで、今一度私に協力してくれるかしら?」
つまり彼女は、パンドラに対して明確な殺意を持っており、その目的が成就されるまで俺に騎士をやめるなと釘を刺してきたのだろう。
🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕
※カレンは満月の章の初っ端からブッ飛んで見えますが、この子は元々男勝りな性格で根は優しい女の子。
父親が殺害されたように、加害者に同じ目に合わせたいと考えるようになったのは少し前のカレン視点でも確認できます。
ほとんどと言っていいほど眠れなかった。
パンドラが逃げても油断出来ず、常に警戒していたのもあるが、それ以上にカレンについて考えすぎた結果、この有様である。
あくびを噛み殺し、まだ地平線から出たばかりの日光を浴びながら体を鳴らした俺は、早速二人がいる所まで足を運んだ。
すると、勢い良く彼女達が眠る寝床の入り口がばっと開かれる。
「おはようございます、お二方」
俺は軽く挨拶し、顔を上げると目の前にはカエデさんがいた。
「…………………………」
何も喋ってくれないので、立ち去ろうと踵を返すが、
「待て」
まさかの肩を掴まれて動きを封じられる。
「何でしょうか?」
「カレン様が話をしたいそうだ」
話?
開けられた空間の中を見てみるが、呼び出した当の本人は顔を俯かせていた。
「今の彼女はそっとしておくのが最良だと思うのですが」
カエデさんになんとか聞こえるくらい小声で囁く。
「いいから聞け」
「はぁ」
俺の意思の有無を言わさず、彼女は中に入っていく。
カレンを外に出すためだ。
「では、私は朝食の準備を致しますので、席を外します」
そう出てきたカレンに言うと、彼女はチラチラとこちらを何度も見ながら、少し離れた位置で作業を始める。
「ごめんなさいね、朝早くから………………」
カレンは本当に申し訳なさそうに謝る。
そして、その声の暗さに俺は内心驚いた。
「いや、いいよ…………話したい事があるんだろ?」
「えぇ………………………」
顔を上げた彼女。
朝焼けに照らされた彼女の目は、泣きはらした跡のように腫れぼったくなっていたが、何かを決意したかのように力強く純心とした眼差しだ。
なのに、その真っ直ぐな瞳に何処か疑念を抱いてしまう。
いつも俺を見ている目と違う。
どこか粘着質のような、くっついたら離れない、そんなねっとりとしたような物を感じた。
俺の勘違いであればいいが。
「ねぇアベル。あなたにこの際確認したいことがあるの」
視線を合わさないよう、しかし露骨に相手に気づかせないようにする為、俺は彼女の目より少し下に注目する。
「確認? どうしたんだよ今更」
「大事なことなの、誤魔化さないで」
そう少し不満げに言うと、俺の視線の移動に気づいたのか、少し近づいて目線を合わせてきた。
ばれてたか。
「アベル。あなたはあの時、何もかも諦めようとしていた私にこう言ってくれたわよね? 私の思い出を取り返すって」
再認識させるように問う。
「あぁ、確かに言った」
「私はあの時、とても救われたわ……………。それはもう、崖から落ちて、暗い、暗い場所にいた私に射し込む陽光みたいに………………ね」
カエデさんの方をちらりと見ると、彼女はそのまま流し目で俺に瞳を向けた。
「……………………………………」
「でも、昨日出会ったあの子に……………………正確には亡くなられた姿そのままのお父様を見せられて、また地の底まで引き摺り下ろされた」
「!」
ただでさえ低いのにさらに1段下げられた音域。
「私、今になってある気持ちがふつふつと湧いてくるの。いけないことだってそんなの分かってる。でも、抑えきれそうにないのよ……………」
「…………………………」
いけないこと。それはおそらくパンドラに対してだろう。
ヴィルヘルムの殺害に関与してないとパンドラは証言し、今の帝国情勢から見て身内の暗殺も大いにありえるが、彼女はパンドラもしくはその一派が殺害したと判断している。
彼の死体を使役し、道具のように使うだけでなく、娘に見せて改めて無惨な死体を刷り込み、カレンが持っているドロシーが使っていたとされる短剣を根拠にして考えているからだ。
「それでね…………………大切な思い出を取り戻すまで、今一度私に協力してくれるかしら?」
つまり彼女は、パンドラに対して明確な殺意を持っており、その目的が成就されるまで俺に騎士をやめるなと釘を刺してきたのだろう。
🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕
※カレンは満月の章の初っ端からブッ飛んで見えますが、この子は元々男勝りな性格で根は優しい女の子。
父親が殺害されたように、加害者に同じ目に合わせたいと考えるようになったのは少し前のカレン視点でも確認できます。
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