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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
強行軍にて 一
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早速目的地に行くため、俺達は馬に乗り、一気に駆ける。
カレンは白馬、俺は茶馬に股がり平地をひたすら走る。
クラリーチェはと言うと、俺の前に座っていた。馬の不規則な上下の揺れによくもまあ振り落とされないなと感心を抱きつつ、何故主人ではなく俺なのかと首を傾げてしまう。
俺は一応従者なので、カレンの後ろを追走するスタイルだ。カレンとぼっちゃん貴族が何やら話し合っていたが、何を話しているかはわからない。読唇術が使えるといっても、唇が見えなければ意味がないのだ。
一方、俺の隣はというと、
「………………………………」
無機質な甲冑達が沈黙していた。見事な統制である。誰もが口を開かない。俺の主観的感想としては、主人であるぼっちゃん貴族は無能そうに見えるのだが、代々続く家系ならば騎士達が有能なのも納得できる。
それにしても、馬を走らせるのは何年ぶりかな。追放されてから騎乗した覚えがない。移動手段は基本的に荷車つきの馬車ばかり。
そのわりにはこんなにうまく乗れる自分の体に変な違和感を覚える。
普段馬を使うだろう騎士達に合わせられるのか、普通?
「クーン」
クラリーチェが手綱を握っている俺の左手を舐め始めた。愛情表現だろうか。そんなクラリーチェに苦笑を浮かべて、そちらを見る。
すると、
「……………………!?」
クラリーチェが左手の甲を舐めたまま止まっていた。不審に思い、辺り一面を見渡す。偉そうに自慢するぼっちゃん貴族、その隣で嫌そうな顔をぼっちゃん貴族に向けるカレンの横顔。追走する騎士たち。
そして、それらには必ず同じ点があった。それらは純白のトルソーのように白く、硬直している。
馬なんかを見ると、走行したまま硬直していて地に足がついていない事から時間が止まっているのがよく分かった。
その中で俺だけが動けている。
いや、厳密には俺の首から上だけが正常に機能している。クラリーチェに舐められている左手や、両足に胴体を動かそうとしても、内側から石にされたように動かない。俺の手も例外なく、白く固まっていた。
「どういうことだ…………?」
この現象の原因を探る。ただ見るだけでは何も得られない。知恵を振り絞れ! 魔術ではない。
これは……………………………………………呪術か…………!!
「大丈夫ですよ~~! 何をそこまで深刻に考えているんですか!」
少しだけ笑いが混じっていて、聞き覚えのある声が俺の耳を刺激する。さっきまでなかった気配が急に現れた。
「! な………、なんで……お前が…………」
「ひどいですね、人を化け物みたいに言うなんて」
気づくと、いつのまにか俺の右側に人が立っている。
そして音もたたないくらいの静かな動きで、動かないはずの俺の手綱を握っている指を、一本一本丁寧に開いていき、手綱から俺の腕を遠ざけたと思ったら、何故か自身に抱き寄せ、豊かな部分で包み込んでいた。ノアに触れられた部位だけが、感覚を取り戻す。トルソーのようだった色も、元の手に戻っていた。
右腕には人肌の生暖かさ、服の上からでも分かる柔らかい感触が伝わってくる。
普通なら、ここで緊張したり、興奮したりと年頃の男ならそんな反応をするだろう。
だが、ひどい寒気がした。本来現実に出てくることのないはずの彼女が、何故存在する?
しかも、やけに現実味を帯びた感触。
今まで夢を見る時間はない、はずだ。クラリーチェに吹っ飛ばされて、カレンと朝食を食べて、ぼっちゃん貴族に色々言われて、カレンのメイドに威嚇されて…………。今日、俺はまだ一度も、うたた寝などしていない。
ノアと最初にあったとき、俺の肉体が眠っていて、精神だけが白夜の箱庭を訪れたと言っていた。
だとすると白夜の箱庭の発動条件を満たしてはいないのではないだろうか?
青い瞳、ロングストレートの金髪、白い服装。カレンではない、彼女…………
「言ったでしょう、またすぐに会えるって」
ノアは、微笑を浮かべていた。
カレンは白馬、俺は茶馬に股がり平地をひたすら走る。
クラリーチェはと言うと、俺の前に座っていた。馬の不規則な上下の揺れによくもまあ振り落とされないなと感心を抱きつつ、何故主人ではなく俺なのかと首を傾げてしまう。
俺は一応従者なので、カレンの後ろを追走するスタイルだ。カレンとぼっちゃん貴族が何やら話し合っていたが、何を話しているかはわからない。読唇術が使えるといっても、唇が見えなければ意味がないのだ。
一方、俺の隣はというと、
「………………………………」
無機質な甲冑達が沈黙していた。見事な統制である。誰もが口を開かない。俺の主観的感想としては、主人であるぼっちゃん貴族は無能そうに見えるのだが、代々続く家系ならば騎士達が有能なのも納得できる。
それにしても、馬を走らせるのは何年ぶりかな。追放されてから騎乗した覚えがない。移動手段は基本的に荷車つきの馬車ばかり。
そのわりにはこんなにうまく乗れる自分の体に変な違和感を覚える。
普段馬を使うだろう騎士達に合わせられるのか、普通?
「クーン」
クラリーチェが手綱を握っている俺の左手を舐め始めた。愛情表現だろうか。そんなクラリーチェに苦笑を浮かべて、そちらを見る。
すると、
「……………………!?」
クラリーチェが左手の甲を舐めたまま止まっていた。不審に思い、辺り一面を見渡す。偉そうに自慢するぼっちゃん貴族、その隣で嫌そうな顔をぼっちゃん貴族に向けるカレンの横顔。追走する騎士たち。
そして、それらには必ず同じ点があった。それらは純白のトルソーのように白く、硬直している。
馬なんかを見ると、走行したまま硬直していて地に足がついていない事から時間が止まっているのがよく分かった。
その中で俺だけが動けている。
いや、厳密には俺の首から上だけが正常に機能している。クラリーチェに舐められている左手や、両足に胴体を動かそうとしても、内側から石にされたように動かない。俺の手も例外なく、白く固まっていた。
「どういうことだ…………?」
この現象の原因を探る。ただ見るだけでは何も得られない。知恵を振り絞れ! 魔術ではない。
これは……………………………………………呪術か…………!!
「大丈夫ですよ~~! 何をそこまで深刻に考えているんですか!」
少しだけ笑いが混じっていて、聞き覚えのある声が俺の耳を刺激する。さっきまでなかった気配が急に現れた。
「! な………、なんで……お前が…………」
「ひどいですね、人を化け物みたいに言うなんて」
気づくと、いつのまにか俺の右側に人が立っている。
そして音もたたないくらいの静かな動きで、動かないはずの俺の手綱を握っている指を、一本一本丁寧に開いていき、手綱から俺の腕を遠ざけたと思ったら、何故か自身に抱き寄せ、豊かな部分で包み込んでいた。ノアに触れられた部位だけが、感覚を取り戻す。トルソーのようだった色も、元の手に戻っていた。
右腕には人肌の生暖かさ、服の上からでも分かる柔らかい感触が伝わってくる。
普通なら、ここで緊張したり、興奮したりと年頃の男ならそんな反応をするだろう。
だが、ひどい寒気がした。本来現実に出てくることのないはずの彼女が、何故存在する?
しかも、やけに現実味を帯びた感触。
今まで夢を見る時間はない、はずだ。クラリーチェに吹っ飛ばされて、カレンと朝食を食べて、ぼっちゃん貴族に色々言われて、カレンのメイドに威嚇されて…………。今日、俺はまだ一度も、うたた寝などしていない。
ノアと最初にあったとき、俺の肉体が眠っていて、精神だけが白夜の箱庭を訪れたと言っていた。
だとすると白夜の箱庭の発動条件を満たしてはいないのではないだろうか?
青い瞳、ロングストレートの金髪、白い服装。カレンではない、彼女…………
「言ったでしょう、またすぐに会えるって」
ノアは、微笑を浮かべていた。
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