断罪のアベル

都沢むくどり

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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

惨劇 2

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「やっぱ親分の情報通りだぁ、あんたらが一度村を出てくれたおかげで助かったぜぇ、ギャハハハハハハハッッッッ」

 下卑た笑い声が耳をつんざく。

 カレンの今の状態ではこちらに分が悪い。魔術とは雑念を払い、使う魔術の想像をして、発動することでようやく完成する。しかし、心がショックで一時的に無になってしまった場合、発動する事はまず不可能。よってカレンの現在の精神では無理だ。いくら優秀だろうが、意思と力なき詠唱に魔術は応じてくれない。俺は横目でカレンの様子をうかがった。

「………………………………」

「ヒャヒャヒャヒャァァ! こいつは最後までカレン様が助けてくれるとかほざきながら死んだんだぜぇ!! バカなやつだよぉ。たかが女に救いを求める女々しいオスだッッッッ!!!!」

「………………………………」

「こんな可愛い子ちゃんに何が出来るってんだ、ガキは今頃殺されてるだろうなぁ。年端もいかない女は…………ヒヘヘヘヘヘヘッ!」

 だが、彼らの言葉はカレンの琴線に触れたようだ。

 体が震えだし、カレンの瞳に怒りが宿る。

 無が、有に変わった。

「お、泣くか。大丈夫だってぇの。上玉のあんたなら親分が可愛がってくれるだろうしさぁ、隣は死刑だがな。ヒャヒャヒャヒャヒャハァァァァッ!」

 ゲラゲラ笑いだしながらこちらを包囲し出す敵。

 普通なら有利な布陣。

 けれども、それは彼らにとって致命的な判断だった。

「『カリス・ウィンディオ』!!!」

 カレンの沸点が頂点に達し、その怒りを表すかのような暴風が周囲を吹っ飛ばす。

「な、親分の言ってることとちげぇじゃねえか!」

 ただ一人、立ったまま農夫の首を掴んでいる賊が喚く。

 耐えたのではない。わざとカレンに見逃されたのだ。

 周りの惨状を見れば一目瞭然。

「いてぇ……よぉ」

「……ク…………ソ………」

「…魔術を使うなんて聞いてねぇよ……」

 俺、カレン、賊の一人以外はうめき声を上げて倒れ伏していたり、運が悪いのは死んでいた。

 『カリス・ウィンディオ』。ウィンディオ系統の派生魔術。ランクで言うと上級魔術に部類する。暴風に不可視の刃、つまりはカマイタチを紛れ込ませて敵を切り刻む、風激属性でもたちが悪い魔術。

 しかし、戦争などでは重宝し、包囲された時に風激を操る魔導師や騎士によく使用される。

 やっぱりカレンは天才の類いだった。

「許さない…………、罪のない子供達まで……! この下道!!」

「ヒィィィィッッッッ!?」

 カレンの怒りに怯える賊。持っていた農夫の首をほっぽりだして、腰が抜けたのか、歩いてくるカレンから這いつくばりながら逃げようとする。

 無駄な足掻きだ。

「『カリス・ウィンディオ』」

「グ…………ブッッバッ…………!」

 カレンの静かな一言で不可視の刃が賊を切り裂く。

 何度も…………

 何度も…………!

 何度も…………!!

 何度も…………!!!

 カレンの攻撃に迷いなど無かった。

 彼女の怒りが、憎悪が、殺意の刃が賊を斬る。

「……生かすとでも思ってるの?」

 仰向けになって呻く賊に近づき、剣を天高く掲げるカレン。その手は僅かだが震えていた。

「死んで償ってよ…………」

 静かな声と共に剣を降り下ろす。

 が、俺はカレンの手から剣を奪い取った。

「……………………!」

 反射的に振り向くカレンをよそに、奪った勢いで賊の胸を上から貫く。
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