断罪のアベル

都沢むくどり

文字の大きさ
上 下
77 / 190
新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

惨劇 4

しおりを挟む
「誰か! 生き残ってないか!!!」

 村に到着してすぐに、俺は出来るだけ大きく叫ぶ。

 しかし焼ける音が、それを妨害した。

 道行く先に、死体の数々。一番手前にあった死体は、昼間にマルドラフをやったガキ大将の骸。矢が脳天に刺さったまま動かなくなっていた。圧力の問題か目が少しでている。見るに耐えないその姿に俺は近くの布を被せた。

「すまない、俺がもっと早く…………真相に気付いていれば……………………」

 振り向くことなく、呟く。

 時間を巻き戻せないように、死者は嘆いたところで蘇らない。

 その事について死霊術ネクロマンスがあるだろう、と言うバカなやつもいる。

 だが、あんなのは蘇生ではない。ふざけるな。

 かつて、あの家にいた頃の俺は一度だけ見たことがあった。

 確かに腐り果てた肉体は動く。しわがれた声も出る。生きていた頃の仕草もする。

 けれど、

 ただ術者に操られるか動くだけの屍となるかの二択だ。

 それをあたかも蘇ったかのように誇張する輩には、時々怒りを覚える。

 死霊術ネクロマンスは死者に対する冒涜だ。



 カレンの邸宅も例に漏れず燃えていた。

 クラリーチェが無事だといいのだが。

「クラリーチェ! クラリーチェ!!」

 惨状を見る限り、期待を持てぬほどだったが、俺は必死に叫んだ。

 もう駄目かと諦めようとした瞬間、

「ク~~~~~ン!!!」

「おぉっっとっと!」

 尻尾をブンブン振り回しながら、横から突進された。

「無事だったか!」

「ハッハッ」

 必死に俺の手をなめ続けるクラリーチェ。

 元気そうでなにより…………、

「その傷はどうした!?」

 右脇腹から血がポタ、ポタ、と流れている。深くはないようだが、明らかに人為的に出来た傷だ。

 そして、その犯人も前方からやってくる、しかも二人。

「約束が違うのではないですか、騎士の方々?」

「……………………」

 甲冑に身を包んだ騎士が、無言で剣を構える。

「カレン様にこの事が伝わらないようにするために俺とクラリーチェを殺すか」

「主君に従うことこそが、騎士の誇りだ」

「ようやく口を開いたか、それに騎士の誇りだと? カレン様が聞いたら怒るぞ」

 俺も剣を抜く。隣に座るクラリーチェは今にも相手を食い殺す勢いで吠えた。

「いくぞ、クラリーチェ!! あいつらをぶっ倒す!!!」

「グルァァァァァァァァァァァッッ!」

「騎士の誇りにかけて、いざ参る!」

「邪魔物は消す…主君のためにも……」
しおりを挟む

処理中です...