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第14話 ユイとのデート(後編)
しおりを挟む---15時頃、スイーツ店前---
「美味しかったね?...」
店を出ると、ユイは嬉しそうに笑いながらも、寂しげな表情を浮かべている。まだ15時だが門限もあることだし、楽しい時間が終わりに近づいていることが寂しいのだろう。
「日本のかき氷とは全然違うんですね、さらさらした氷でほんと美味しかった...そうそう、もう少しだけ付き合ってもらいたいんだけど、ユイさんまだお時間あります?」
「え?時間は全然大丈夫だけど...どこ行くの?」
「内緒です。でも近くなのですぐわかりますよ。いかがわしいところなんて行きませんから」
俺はからかうようにユイに言った。ユイはその言葉の意味を理解すると顔を真っ赤にさせている。ユイの手は薄っすら汗ばんでいるのを感じさせ、ぎゅっと繋いだまま、俺たちはアクセサリーショップに入店した。
俺は店員と言葉を交わすと直接レジに向かって、品物を受け取る。アクセサリーショップでの用はそれだけだ。店を出ると歩いて5分程度のところにある海岸沿いの大きな観覧車の列に、俺たちは並んだ。
「これ?...乗るの?...こんなところに観覧車があるんだね。そうそう、さっきのお店で何買ったの?ユウスケくんの彼女へのプレゼントかな?」
からかうような口調でもあるが、少し切なそうな表情にも見える。
「残念ながら彼女なんて素敵な存在はいませんよ。さっきの包みですか?これ?」
手に下げている袋から包装紙とリボンに包まれた品物を出す。
「ほら、誰かへのプレゼントじゃない?もしかして...朝倉(ハルカ)さん?仲良しだもんね、いつもいい雰囲気だし...ユウスケくんたち...」
知りたいのか知りたくないのか、本人もわかっていないようだ。そんなユイを前にすると俺は楽し気に笑っていた。
「そんなに気になるんですか?、これ。いいですよ、ユイさん開けてみてください」
「え?...だって包装してもらったんでしょ?それに私が開けちゃ...」
「いいんですよ、それ、ユイさんへの今日の[デート]のお礼ですから」
「え?...」
ユイが包装を丁寧に解いていく。係員の声がかかり俺たちはようやく行列の最前列まで進み観覧車に乗れた。ユイは手を繋いでいたので対面ではなく隣に座ってくれたようだ。
「これ...もしかして...」
「俺、高校生ですしバイトもしてないので、そんな高級なものは買えませんから、おもちゃみたいなものです」
ユイの瞳が潤んできた。
「このネックレス...トルコキキョウ?...それにこの石、ペリドット?...なの?来月の...知ってたの?」
「ええ、あそこシルバーのアクセサリでも事前に前日でも予約すれば、オーダーメイドで作ってくれるんです。石、小さくてごめんなさいですけどね。来月、ちゃんとお祝いさせてくださいね。」
「ううん......なんで...お礼なら私がしなきゃいけないのに」
「ユイさんはあまりアクセサリとかつけないから、好きじゃないかもしれないけど...貸して?...」
プレゼントしたネックレスを受け取った。俺はユイを抱きしめるような体勢でユイの髪をそっと撫でながら白いうなじを露わにさせ、ネックレスを留める。ユイの髪の芳香と肌の甘い匂いが香ってくる。髪を撫でるだけでユイが吐息を漏らしていた。
「見せて?」
ユイは恥ずかしそうに俺に見ると、俺は頷いた。
「良かった、今日のコーデにも合うと思う。本当は朝受け取りたかったんだけど...オーダーメイドなので間に合わなかったんです。高価なものじゃないから、ユイさんは嫌かもしれないけど、今日のデートのお礼ができて良かった。ユイさんは綺麗で可愛いけど、少しぐらいアクセントになるアクセがあると、もっとユイさんの可愛らしさが際立つと思いますよ」
「嫌じゃないから!...嫌じゃない...ユウスケくんのプレゼント、すごく嬉しいんだから!」
ユイが頬に涙を伝わらせて、大きな声で宣言して俺を見つめると俺の胸に顔を埋めてくる。
「嬉しいの、嬉しくて。でも、どうしていいかわからなくなっちゃう...ユウスケくん...お願い...もう少しだけこうしていさせて..」
ユイが泣いている。ユイの壁を作りやすい雰囲気から面と向かって褒められたり、甘やかされたり、プレゼントをされることも少ないのだろうな。ミウや兄貴に見せてやりたい...ユイはこんなに弱い女の子なんだって。
「良かった、ユイさんが嫌でなければ俺も嬉しいですよ。それに言ったでしょ?俺には甘えていいんだって。この観覧車はゆっくりですから、暫くはこのままで大丈夫ですよ、ユイさん」
一瞬、ミウのことを思い出す。あの子も甘えたがりだった。誰もがそういう面を持っているのだろうが、この姉妹はどちらも甘え体質が強いからうまくいかないのだろうなと同情する。
俺は、ユイの長い黒髪をずっと撫でていた。梳くように指を滑らせるとユイの吐息が漏れるのを胸に感じる。どうやら泣き止んだようだ。ストレスも随分抱えているのだろう。
「大丈夫ですよ...俺には隠さなくったって、ユイさんのこと、何でも理解してますから」
髪を撫でる指先が時折、耳に触れるとくすぐったそうに身体をびくっと震わせる。そしてユイの身体が異様に熱く火照っているのを肌で感じていた。
「私の誕生花...知ってたの?...なにか私もユウスケくんにお礼したい...何ができるのかな...私、本当に何もできないだめな人間なの...何かしてあげたい、ユウスケくんの一番欲しいものって...なに?」
「......ほら、ユイさん、もうすぐ観覧車が頂上につきますよ。見て?...ここから見る夕陽も綺麗でしょ?ユイさんの秘密基地から見える夕陽と同じぐらい...」
ユイはようやく俺の胸に埋めていた顔を上げて、しがみついたまま外の夕陽を見る。白い肌が夕陽に染まってユイの美しさが映えていた。
夕陽に見とれているユイの半開きになっている柔らかで艶やかな唇に俺は口づけた。軽く唇を触れさせるだけの甘いキスではあったが、ユイは目を見開いて俺を見る。
「俺の一番欲しいもの...いただきました?...ん、これじゃお礼いただきすぎなので、デート何回分か今度お返しさせてくださいね」
「ぁ......ぁ...」
夕陽以上に肌を紅潮させているユイは、自分自身の唇に指をあてて恥ずかしそうに頷いた。俺が贈ったネックレスのトルコキキョウの花の部分をを両手で握りしめて震えている。
再びユイは俺の胸に顔を埋めていた。
「ずっとこうしてたい...帰りたくないよ...ユウスケくん」
俺は無言のまま観覧車が下りるまで、ユイの髪を撫でていた...ユイの呼吸は乱れ、髪や耳、ネックレスが這う首筋の部分に指が触れるたびにユイの身体が震えて熱くなっていた。時折、顔を上げて溶けた表情を浮かべているユイが甘えたい欲望と欲情に震えているのを見て、俺は何度も抱きしめた。
「そろそろ観覧車が着いてしますますよ、ユイさん。降りる準備しましょうか」
観覧車の一周は20分にも満たない、短い時間であったがユイの感情は大きく揺さぶられていた。
観覧車が終わりに近づくと俺はユイの身体を一度強く抱きしめると優しく引き離した。ユイの寂しげな表情が印象的だ。帰りの電車が最寄り駅近くなると1日繋いでいた手を離す。ユイがきっと周りの目を気にするだろう。そして握っているのが恋人の手でないことも。
その分、ユイは饒舌だった。何か一つ大人になった様子と恥ずかしさを隠しているように。家まで送ると、ユイは小さく手を振っている。隣の家の俺が家に入るまで見送ったようだ。そして、すぐに俺のスマホにメッセージが来た。
「私の…ファーストキスの感触......忘れないでね?素敵なプレゼントありがとう...大切にするね。デートのお礼の貸しがあることも...私、忘れてないから...」
◇
俺が自室に戻るとハルカがベッドに座っていた。何かピンと部屋が張り詰めた空気が漂っている。
「ただいま...ってお前だけだよ、いつも俺の部屋に無断で入ってくるのは...」
俺は笑いながら、机の椅子に座る。
「おかえり。どこ行ってたの?.......ユイさん...ね?」
ハルカは普段は少しダウナーな感じだが、頭も良いし勘も優れている。隠しても無駄だし、隠す必要は無いからな。
「ああ。昨日俺たち温泉行っただろ?...それで仲間外れにされたと思って拗ねていたようだよ。ミウが居るから姉同伴という訳にはいかなかったけどな。」
「そう。ユウスケはユイさんの事好きなの?」
ハルカは真っすぐな瞳で俺を見ている。
「どうだろうな。1年前、ユイに偶然会った時から気になってはいる。放っておけないのか、心配なのか、好きなのか、俺にも分からないところだ。ただ、他の男にくれてやる気はない」
「そっか。ユウスケだけはいつも誤魔化さないで、正直に話してくれるから...安心して話せる。ありがと」
ハルカがベッドから立ち上がると、椅子に座ってる俺の前に中腰になり唇を重ねてきた。幾度か触れあうようなうキス...ハルカの少し肉厚な唇が心地よい。幾度も啄むような唇を交わすとハルカの頭をぽんぽんと撫でる。
「ん、ばかだな。俺はハルカに一度も嘘ついたことなんてねえよ、それにこれからも変わらずな。それに嘘をついても、ハルカは俺のことなんていつもお見通しだろ?」
ハルカとの唇のじゃれ合いが終わるとハルカを強く抱きしめる。豊満で抱き心地の良い身体だ。それにハルカの匂いは幼少の頃から俺の癒しでもあり欲情の対象となる。暫くハルカを抱き締めると離してやる。ハルカも満足したのか、安心したように微笑んでいた。
「ユウスケ、また明日」
「ああ、おやすみ、ハルカ。いつでも悩んだりモヤモヤした時はここに来ればいい。無理するなよ?」
「ありがと。私ね、明日ユイさんに会いに行ってみる...」
おいおい...少し恐ろしい事が起きそうだが、明日は近寄らないでおくか。
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