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六ヶ月経過②
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城の周囲は荒野だが、少し進めば小さな街がある。旅人を装いそこの宿に滞在をはじめたのは、二日前のことだ。
「中央館の内部はこんな感じ」
クソガキ二号は、テーブルに広げた紙に簡単に図絵を描いた。一昨日から一日と約半分で、城の各塔や館の一階から五階、隠し扉や秘密部屋、庭の抜け穴や警備の巡回経路まで全て調べ尽くしている。さすがここまで連れてきただけはあるな。
「お坊ちゃんがいるのは、可能性としては四ヵ所。西塔三階の、この庭方面の突き当たりの秘密部屋か、中央館五階の屋根裏部屋、もしくはこの主寝室、北の庭の倉庫」
「……ずいぶんまちまちなんだね」
「特別用意された食事が運ばれた様子がどこにもないんだ。ルティさんは?」
二号の問いに、クソガキ三号は肩を竦めた。
「馬車、案外あの館にちょくちょく出入りしてるみたい。半月前にも当然。目立つようなものじゃないからみんなスルーしてる。それで、館のメイドの人たちも見廻りの兵士の人たちも『客人』の存在に気づいてない。食事もそのせいじゃないかな」
こっちもさすが。人に混じって情報収集なら女子どもの方がうまくいくと思っていたが、それにしても優秀だ。
「……あんたの方の収穫は?」
「現時点で飢え死にの可能性はねぇし、罠でもねぇ。あっちにはとびきりの傭兵がいるが、あてにしすぎて増援もねぇ。準備も整った。明日、行くぞ」
クソガキ共は揃って変な顔をしてこっちを見てきた。なんだよ。
「……本当にあの城を燃やすの?お坊っちゃんを助ける前に?」
「そうしなきゃ間に合わねぇだろうが。お前らは庭と三階を当たってついでに放火してこい。おれは五階担当だ」
「ディオさまは……本気であのお坊ちゃんを……」
「さあ?そりゃどうかな」
「え?」
「さっさと寝て明日に備えろ」
ごろりとベッドに横になって、目を閉じた。これまで半年以上小細工に時間をかけ続けて、いよいよ、明日だ。
クソガキの夜会でのあの繊細な調子だとおれ一人のんびりするのはいささか不安にもなる。つってもまだ敵は殺すことはないだろうから、気にしすぎることもないだろう。今は寝ることだ。
明日は小細工など通用しない真っ向勝負。
久しぶりに、人を殺すために剣を抜く。
……ああ、でも。
クソガキを連れ去ったとびきりの傭兵とやらは、真っ先に刻もう。
「中央館の内部はこんな感じ」
クソガキ二号は、テーブルに広げた紙に簡単に図絵を描いた。一昨日から一日と約半分で、城の各塔や館の一階から五階、隠し扉や秘密部屋、庭の抜け穴や警備の巡回経路まで全て調べ尽くしている。さすがここまで連れてきただけはあるな。
「お坊ちゃんがいるのは、可能性としては四ヵ所。西塔三階の、この庭方面の突き当たりの秘密部屋か、中央館五階の屋根裏部屋、もしくはこの主寝室、北の庭の倉庫」
「……ずいぶんまちまちなんだね」
「特別用意された食事が運ばれた様子がどこにもないんだ。ルティさんは?」
二号の問いに、クソガキ三号は肩を竦めた。
「馬車、案外あの館にちょくちょく出入りしてるみたい。半月前にも当然。目立つようなものじゃないからみんなスルーしてる。それで、館のメイドの人たちも見廻りの兵士の人たちも『客人』の存在に気づいてない。食事もそのせいじゃないかな」
こっちもさすが。人に混じって情報収集なら女子どもの方がうまくいくと思っていたが、それにしても優秀だ。
「……あんたの方の収穫は?」
「現時点で飢え死にの可能性はねぇし、罠でもねぇ。あっちにはとびきりの傭兵がいるが、あてにしすぎて増援もねぇ。準備も整った。明日、行くぞ」
クソガキ共は揃って変な顔をしてこっちを見てきた。なんだよ。
「……本当にあの城を燃やすの?お坊っちゃんを助ける前に?」
「そうしなきゃ間に合わねぇだろうが。お前らは庭と三階を当たってついでに放火してこい。おれは五階担当だ」
「ディオさまは……本気であのお坊ちゃんを……」
「さあ?そりゃどうかな」
「え?」
「さっさと寝て明日に備えろ」
ごろりとベッドに横になって、目を閉じた。これまで半年以上小細工に時間をかけ続けて、いよいよ、明日だ。
クソガキの夜会でのあの繊細な調子だとおれ一人のんびりするのはいささか不安にもなる。つってもまだ敵は殺すことはないだろうから、気にしすぎることもないだろう。今は寝ることだ。
明日は小細工など通用しない真っ向勝負。
久しぶりに、人を殺すために剣を抜く。
……ああ、でも。
クソガキを連れ去ったとびきりの傭兵とやらは、真っ先に刻もう。
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