とある護衛の業務日記

文字の大きさ
12 / 29

五ヶ月経過②

しおりを挟む
----------
完結の目処が立ったので、これから完結まで毎日複数話投稿していきます!
話ごとの文字数がただでさえ少ないのに話数が多くてすみません(今さら)!
----------








 まだパーティー会場に登場して一時間と過ぎていないのだが、明らかにぶっ倒れる寸前という様子のクソガキを後ろから見ていて、呆れを通り越して真顔になった。

(感受性が強すぎんのも困ったもんだ)

 おっさんが事前情報として教えてくれていたことだが、まさかここまでとは思っていなかった。なぜ長男が死んでから重い腰を上げるようにして王都に呼び出したのかがよくわかる。十一歳――ある程度自我が確立される年齢だが、その歳でもこんなに影響を受けるのだ。恐らく生まれてからずっと王都で暮らしていれば、五歳になる前にはぶっ壊れていただろう。それがなく精神が健やかにいられたのは、閑散とした地方の町屋敷にひっそりと住まわせていたからだ。

 バルコニーに出ると、後ろで響いていた楽団の音楽や客どもの笑いさざめく声が遠退き、クソガキの顔色が土気色から青白い色にまでは復活した。 

(……向いてねーよなー)

 初めてこのクソガキに同情を覚えたかもしれない。人から感情を敏感に察知するくせに、これまで守られていたからこそ無防備で、性格も嫌になるほどまっすぐと来た。曲がる前に折れそうだ。あのおっさんがそれをあらかじめ理解していなかったはずがない。
 それでも、遠ざけたままでいられなかったのは――……。

「これは……失礼しました、御曹司がいらっしゃるとは……」

 嘘こけ。ちらちらと中から様子見てたくせにさもばったりバルコニーで出会ったみたいな雰囲気作りやがって。クソガキが騙されるだろーが。

「…………いえ、構いません」
「短い間ですので、同席させていただいても?」
「……ええ」

 クソガキが断れねえのも、顔色悪いのもわかってるくせに、わざわざ下手に出ているような態度が鼻につく。これまで寄ってきた連中より見下してますオーラが流れ出てんだよ。――ああ、ほら。復活した顔色が一気にマイナスだ。相手が好奇しか持ってなくてもクソガキにとっちゃ精神攻撃となんら変わりないのにうぜってえ。

「ああ、君、アルコールの入っていないドリンクを一つ頼むよ」

 おい今おれにほざいたかクソ豚。おっさんの思惑があって招待状を贈られなければ自力でディオ家に正面から訪問もできない小悪党の分際で、おれを小間使い扱いしたか、今。

「……私に、仰られたのでしょうか」
「ここには君以外にその役目を果たせる人間はいないと思うが?」
「…………」

 おっさーんこいつ今殺してもよくねー?
 ……ああ、駄目か、そうか。おい爺わかったから遠くから殺気飛ばすのやめれ。人混みやらでこっちが見えてねーのにわかりきってやがるなあの二人。
 だから本気で飛ばすなってクソガキが倒れる……あれこれ短気なおれのせいってなるのか?いや、倒れた方が即退場できるし目の前のクソ豚から絡まれるのも回避で、いいこと尽くめなのか。めんどくせーなホントに。

「どうした。使用人の分際で客のもてなし方も知らんのか?御曹司、ディオ家の客人のもてなしはずいぶんと特殊なのですね」

 おいお前は命拾いしてるくせにこの期に及んでクソガキを地味に煽ってんじゃねーよ。
 クソガキ、流されんなよ頼むから。

「私はディオ家当主であるライオネルさまから直接に、レオナールさまの護衛を仰せつかった身でございます。お二人の許可なくお傍を離れるわけにはいきませんので、どうかご容赦ください」

 わかったらさっさとおっさんのとこに行って罠に嵌められてこい。

「だが、御曹司は見るからに体調が悪い様子……気遣って水をやることもできんのか?御曹司も、お疲れなのでしょう?喉を潤せば気分は変わりますよ」

 ――だからお前が今すぐ消えれば全部解消されんだよクソ豚!

 もうクソガキを無理やりぶっ倒れさせるしかねぇか……左手をこっそりこきりと鳴らしていると、くん、と袖を引かれ、思わず素に戻って振り返った。

「…………いい」
「おい」
「……

 目を見開いた。――このクソガキ。

 一瞬だけ見つめ合ったあと、自然と瞳が伏せられた。上体を小さく、しかしまっすぐなまま曲げ簡単な礼をする。クソガキは満足そうに頷きつつ、土気色な顔のまま気丈に一歩踏み出した。

「……私のような若輩を気遣ってくれることはありがたく思います。が、この男は当家の使用人。他の家ではどうか私は存じていませんが、筆頭貴族家たる当家においては罰するのも命令するのも私や父の役目です。ご指摘は甘んじて受けますが、それ以上を強要するのは越権行為だということをご承知願いたい。……ところで、貴殿のことはなんと呼べばいいのでしょうか」

 思わず顔を伏せた。ついでに腹筋を使って吹き出すのを堪える。表情筋も腹筋も明日筋肉痛になっていたらどうしてくれるんだクソガキ。

「ヴィオスも謝罪だけはしておきなさい。ご不快な思いをさせたのは確かなのだから」
「は、はい……」

 ちょ、おま、この状況で振んなまだ笑い噛み殺せてねーんだよ!

「ヴィオス」
「……も、申し訳、ありま、せん?」
「貴様……!」
「やり直しなさい、ヴィオス」

 あー、クソ豚の真っ赤通り越してどす黒くなった顔見たらようやく冷えてきた。こんだけ笑わせてくれたんだ、ご主人さまの期待に応えて、おれ史上最高な礼でも披露してやるよ。

「ご不快な思いをさせて申し訳ありません……お名前は存じていないので、これ以上はお許し頂きたく願います」 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...