少年の行く先は

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第一部

3-1

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 記憶の一番上に、十年前からずっと残ってる。
 おびただしいほどの赤い血。鉄臭い匂い。火が燃えていたり、風が強かったりしたくらいが、小さな変化。

 そして、己を急き立て燃やし尽くそうとする、憤怒と憎悪。

 たった今復讐を終わらせても、全然治まらない。粗悪な剣がぬらりと斜光に光る。
 避け損なった右頬の返り血を拭おうとして、まるで、武器が吸い付くように手放せないことに気づいた。
(……わかってるよ)
 人を殺すために生き延びてきた自分の末路がいいものであることなんて、べつに望んじゃいない。いつだって守ろうとしては喪い、たった一人だけ、残されてきたから。生きたいなんて望み、とうの昔に捨ててきてしまったから。
 けれど、まだ。
 やるべきことが残っている。

 麓から沢山の軍馬の嘶きが聞こえてきた。薄暮の中を真っ先に駆け上がってきた領主軍の隊長は、「これは……」と、その惨劇の痕を目にして絶句した。
 道すがら続いていた死体の道を越えるほど多く積み重なる死体の山。その傍らに立つ男。男以外は絶息しているのだと、一目でわかった。
 病んでしまいそうなほど、屍の気配が充満していた。

 そうしているうちに、沈みゆく日に照らされた、たった今剣を投げ捨てた真っ黒な影が、ふらりと背中を向けた。
「待て!どこへ行く!?」
「ここはよろしく、隊長さん」
 男は軽薄にへらりと手を振ってみせたが、振り返りはしなかった。疲れきっているはずなのに全然休まる気がしない手足を、いつものようにのびのびと動かして、盗賊団が根城にしていた山を下っていく。……まだ、終わりではないのだ。終わらせたら、寝るから。一生をかけて。
 へとへとでも、ケリはつけなきゃ。おちおち三途の川も渡れない。

「ちょっくら王都まで、後始末をつけに行ってくる」










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