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第一部
3-8
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手紙が訪れたのは、ルアだけではなかった。ナジカは宛先をしっかりじっくり読み、何通あるかまで数えて、食卓のローナの定位置のところに置いた。
起きてきたローナはびっくりだ。元々筆不精で、それはローナの知り合いも基本そうだ。故郷で別れてきたユエやベスタもローナのそんな性格を知り抜いているから、彼らの手紙と言えば、もっぱら受けとるのはルアなのだ。そこに主家の御曹司――ましてや元雇い主――に対する配慮は欠片もない。家族同然に育ってきたハヴィン家ならではの屈託のなさを、ローナはとても心地よく思っていた。いつかは帰りたいものだと、ルアから手紙のことを知らされる度に郷愁に襲われている。
エルフィズほどに、ローナが愛する場所はなかった。日がな穏やかな土地で、都会の喧騒などとてもとても遠い存在だった。学園に入学するときに初めて王都に来たときは、門を潜り抜けただけで回れ右をしたくなったほどだった。
エルフィズ中の人を集めても、普段の王都の賑わいの半分にも満たないだろう混雑した道に、天から頭を覆い尽くすようにそびえる高い建物群。どちらも田舎者のローナには閉塞感しかもたらさず、学園の一角の広い庭や故郷への帰省、王都郊外への散歩など……気が滅入る度にそんなことをして気分転換を図ってきたのだ。
そして、故郷には気心の知れた家族がいる。今回父の件で解雇せざるをえなかった二人の奉公人も、ローナの生まれる前からハヴィン家に仕えてきた大切な身内なのだ。屋敷の管理は国のものとなったが、私たちの家なんかには、狭いけれどもいつでもお出でくださいね、村のみんなも坊っちゃんを待ってますよと書いてあったと、ルアもまたとても嬉しそうに笑っていた。
(ナジカも連れて、もしよければ伯父さんも一緒に……)
夢見るように思いつつ、五つ以上はある手紙のどれもを開封せずに宛先を確認していたローナの後ろから、クラウスがひょっこりと顔を出した。
「おはよう、ローナ。それ全部君のものかい?」
「あ、伯父さん、おはよう。今日はこっちなんだ、珍しいね」
「君も珍しく早起きじゃないか。朝食が出来上がる前に食堂に来れるなんて」
珍しくルアが朝食の支度をしている最中に起き出していたローナは、わざと少しむっとした顔を作ってその言葉を受け止めた。
「ひどいな。おれだってやろうと思えばちゃんとできるんだよ」
「そうかいそうかい」
クラウスは取り合う気もなく台所に顔を見せにいった。
「ルア……おや、ナジカもか。おはよう、二人とも」
「おはよう」
「おはようございます!ごめんなさい、もう少しでできます」
「いいよ、まだ時間はたっぷりある。ローナもね、今日は早起きして、もうそこにいるんだよ」
「あら、珍しい。雪でも降りますか?」
「そうだね、確認してこよう。ナジカ、そんなに一杯運ぶと危ない。ローナを使いなさい」
「わかった」
「……聞こえたよ、ルア、伯父さん」
今度は手紙を胸ポケットにしまったローナがクラウスの背中から顔を出したが、ルアはにっこり笑って受け流した。
「文句があるならさっさとナジカを手伝いなさい。普段からこんなに早起きなら、私ももう少しゆっくりできるんだけど」
そんなにいつも寝坊しているわけじゃないと言いかけたローナも、結局ルアに頼りきりな部分が多々あることを認めている。しかもルアはローナより口達者なのだ、反論は何倍にもなって返ってくると思い直して、ナジカの持つトレーをひょいと奪い取った。
「ありがとう」
「ん、いいさ。今日の朝は、いつもより質素だな?」
ローナが見下ろすのはオムレツにスープに平べったいパンの載ったトレーだ。肉がスープにほんの少ししか入ってない気がする。食べ盛りのナジカと肉体労働の多いローナのために、普段はもっとちゃんとしっかりしたメニューを出されるのだが。
とたんにルアは形勢逆転したように気まずく顔をそらした。
「……ちょっと、昨日にやり過ぎちゃったわ。ごめんなさい」
「あー」
なるほどというその声だけを残してローナは食堂へ戻り、ナジカの敷いてくれたランチョンマットの上に皿を並べていく。ローナが料理を運ぶのを代わったのでナジカは食器を用意する係に転身したが、感情に乏しい顔は相変わらずでも実に生き生きと手足を動かしている。最近ようやく靴を履くことを覚えてくれたようでもあって、ちょこちょこと動き回る姿に、思わずローナは笑っていた。
「まあ、たまにはこんな日もいいさ」
トレーを台所に運んでルアに言う。ルアも昨日の嬉しさを引きずっているように柔らかく微笑みつつ皿にスープを盛り付けていたが、釘を刺すのだけは忘れなかった。
「あなたは普段からこのくらい早く起きなさいね」
ちなみに今日は洗濯物日和だとの、天気予報は百発百中のクラウスの一言であった。
食後のお茶など滅多に取らないのに、この日はそれも珍しかった。といっても部屋数が多いわりに効率重視の人間ばかりが集まる一家である。ルアとナジカも台所に皿を戻しただけで、洗うのは後回しにしてのんびりとローナとクラウスも交えて団欒中だ。
特にローナは早速受け取った手紙を開きながら、主にルアとナジカの話に耳を傾けていたのだが、一通目に通した瞬間に表情が固まった。そこからは、内容を読んだりすることもなく次々と他の手紙を開けていく。最終的にローナは唖然とした。端っこでやっていたことだが、めざとく気づいたクラウスが黙ってそれに目をやり、やはり黙って甥の肩を叩いて正気に戻らせた。
息を吹き返したローナの第一声は、恐ろしく震えていた。
「…………こ、これ、全部?」
「シーズンだものね」
「うち……貧乏なんだけど」
「そうだね」
クラウスは余計なことは一切言わなかった。ルアとナジカが和気あいあいとしている姿を横目で確認し、「そろそろ行く準備をしなきゃいけないんじゃないか」とローナを促した。
ルアがそれに気づいて顔を向けた。
「クラウスさま?」
「ん、そろそろ出ようかと思ってね」
「あ、もうそんな時間なのね」
青ざめていたローナは見咎められる前に手紙を全て回収し、自室に飛んでいった。
即位式も終わって、一応極秘のヘーゼルの問題を除けば、そろそろ市場も落ち着いてきた頃合いだ。
となれば社交界は賑わいに賑わうものである。
政権の交代による変動を受けて必要な旧交を温めたり情報収集したり商談をまとめるためだったりと、人によって理由は様々あれど、昼も夜も開催されるパーティーが華やかであることは間違いない。
問題は、なぜそこで木っ端貴族のローナにお呼びがかかったのか、だ。
「……一応、ルースの家ならまだわかるんだけどさ……他が全く意味がわからない」
部屋に置いてきた招待状の数々を思い出して頭を抱えた。ローナの中でパーティーと言えば、友人たちとの気のおけない会話を楽しむ和やかかつ極めて身内のものだった。
社交と名のつく招待を受けたことなど欠片もなければ、父から出席を命じられたこともない。実際、数十年前の大戦から様変わりした社会では社交も貴族の特権ではなくなり、お遊びよりも実務的な面が強いのだが、欲のないハヴィン家の現状維持的平和思考では必要性すら皆無だったのだ。
そしてローナは困ったときの友人頼りだと早速シュカに泣きついたが、シュカはそりゃおめー、と呆れた声をあげた。こんなことにも気づかないのかというような元祖馬鹿からの逆襲にローナが内心で傷ついたのは秘密である。
「お前なあ、あの氷の貴公子と筆頭公爵と仲がいいんだから、声がかからねーわけないだろ」
「な、仲がいいって、どこが!?」
「お前無自覚かよ!逆にこえーよ!」
思わずシュカもぎょっとして、集まる視線に気づいて声を潜めた。
「……おい、お前全然周りの反応わかってないのか?お前地味に目をつけられてるぞ?」
「な、何に?」
「うちの商会にも探りいれてくる連中がちらほらいるらしくてな。今んとこ、あのお二人と懇意にしていていて簡単に手を出せるのはお前だけだろ。だから狙われてる」
ローナはひたすらに唖然として友人を凝視した。目が血走っているのは、必死に考え、考え、混乱の極みまで登り詰めたからだ。
「…………なんで?」
長い時間をかけた末に思考を投げたローナに、シュカは盛大に呆れた顔をした。訝しむ様子ですらある。
「……お前、そこまで馬鹿だったっけ?」
「シュカには言われたくない」
「いいや、ルースでもそう言うぜ。……あいつにも知らせた方がいいな、こりゃ。行くぞ」
「あ、ルースの家からも招待状もらってた」
「そりゃ好都合だ」
珍しくこの日のシュカは頼もしい。ローナは自分のことなのに張り切るシュカの背中を見つめ、優しい友人だと笑みをこぼした。
それが現実逃避ぎみに見えたシュカは、もちろん怒鳴った。
「ローナ!お前の問題だっつーの!!」
「うん、ごめん。ありがとう」
にこにこにこにこ。そんな音が聞こえそうなほど暢気な笑顔に、最終的にシュカも脱力した。
「……これで貸し一つだかんな」
ぽそっと呟いたそれがローナに聞こえることはなかった。
「それは父たちの独断だな」
そうして昼休憩の間にルースを訪ねに行ったのだが、ちょうど図書館の前を通りすぎたところで出会って、一緒に外の庭園に向かうことになった。シュカの提案で、情報をもらう手土産にルースの軽食を買っておいたのだ。もちろんシュカもローナも軽食を持ってきている。大食らいのシュカはこれでは足りないと眉をしかめているが、そこは後でローナが差し入れする つもりである。
柔らかな日差しが当たる、自由に開放されている庭園の片隅で三人で三角形を作り、ルースはぱくりとサンドイッチを咀嚼したあと、以上の言葉を述べたわけである。
「私も初耳だ。父上、勝手に仕組んだな」
「……なんでだと思う?」
「逆に問うが、なぜお前がわからないんだ?当事者のくせに」
「なー、不思議だよな」
仲が悪いと言い張る二人が意気投合している。ローナはその間に挟まれつつ、納得いかない顔でハムサンドを頬張った。
「……そんなに、おれ、あの方たちと仲良く見える?」
「正直、なぜお前ごときに目をかけるのか意味がわからないくらいには仲が良いな。どちらも、俗な言い方をすれば若手の出世頭だ。片や王妃殿下の弟で筆頭公爵、片や第一王女殿下の従者兼ティリベル副長官だぞ。お前のような下っ端中の下っ端がまずどんなきっかけで接点を持ったのか、何段階もすっ飛ばして、名前や略称呼びを許されるなど、元来あり得ることではない。その謎を知りたがるだけならまだ可愛いが、十中八九、それだけではわざわざ父たちも呼び立てん」
謎って……とローナは渋い顔をするが、シュカがまたそこで「そーそー」と賛同するものだから、本気で頭を抱えた。
「意味がわからない……」
「頑なに理解しようとしないお前の思考回路が理解できん」
どこまでも容赦しないルースである。
そこでシュカが身を乗り出した。
「いいか、ローナ。よーく考えろ。あの方たちはおれらみたいな新人が簡単に声をかけれるお方じゃないし、実際の高位貴族でもそう。ルースがいい例だろ。それが、なんでかお前と名前呼ぶほど親しいってなったら当然理由も知りたいし、そこに『秘密』があるんじゃないかって思うだろ。ますますお前の価値は吊り上がる。そのくせ身分は男爵位なおかつ領地もなく城の片隅で肉体労働に勤しんでるだけときた。取り込んでおいて損はない、そう考えてもおかしくないってことだ」
噛んで言い含めるような分かりやすい言葉の羅列に、ようやくローナは理解し始めた。
とにかくローナは立場が弱い。なのに無駄に権力者と仲良く見られている。この際実態はどうでもいい。権力者たちがそうするほどの価値があると見込んでいる、その事実が問題なのだ。
「……取り込むって、例えば具体的に……?」
「そこは常套だろ」
「お前を通してあの方たちを脅迫するか、もしくは便宜を願うか。あの方たちの辣腕は鳴り響いているから、虎の尾を踏まない理性があるなら前者は消去されるとして、だな」
「便宜?」
無意識に避けてきた核心に迫ってきたので、ローナは顔を存分にひきつらせた。本当は、ここまで言われたらなんとなくわかる。しかし考えたくない。普通に怖い。
「お前をこちら側に引き込む見返りに出世、もしくは財産、名誉を与えるのが一番ありふれた方法だな」
「取り込むってあれだろ、『これこれをやるからあの方たちによく言ってくれないか』とか。とにかく中継役だな」
やはり想像通りな回答に、ローナは本気で震え上がった。想像するだけで本当に怖い。
何が怖いって、ローナがあの二人をそんな風に利用しようと見られることが。
「――無理無理無理無理無理!!!」
本気で叫ぶと、水筒から茶を飲んでいたシュカが驚いて吹き出し、ルースも同じ理由でサンドイッチを喉に詰まらせた。
二人は盛大に咳き込み、その間でローナは顔面蒼白になっている。
「できるわけないだろそんなの!試しに言ってみただけであの方たち冷笑するぞ!社会的に抹殺される!!」
「ゴホッ……お前が、あの方たちと、どんな交流をしてるのか知らないが、周りはそう見ないということだ」
「あー、鼻に入るかと思ったあぶねぇ……。おいローナ、お前、ほんとになんであの方たちと仲良くなってんだよ。ナジカちゃんだけか、本当に?」
「茶を寄越せアボット。お前の家でも掴めないなら相当だな」
「はいよ。そもそも、仲良しって噂があるのに、おれ、実際にローナとあの方たちが接してるとこ見たことねーんだけど。噂だけ一人歩きしてるような気がすんだけど」
「ランファさんもカイトさんも、確かに城じゃほとんど会わないもんなぁ」
「…………」
水筒を受け渡していたルースとシュカは、自然とお互いの目を見合わせていた。二人とも顔が同じように引きつっている。
……今、とんでもないことを聞いた気がする。
「……お前、むしろ城以外のどこで会うの。まさか秘密裏に屋敷にでも呼ばれてんのか?そういや副長官の方はたまに街をルアちゃんたちとも歩き回ってるって聞いたことあるが」
「まさか本当に私生活の部分で?ハヴィン、返答によってはかなり危ういぞ、それは」
「え?」
「今さらだが、ここに人はいないんだろうな?」
「一応穴場だぜここ」
「……ああ、人の気配はないよ、今のところ。それで、何が危ないんだ?」
「それだけお前があの方たちの信用を得ていると考えられるからだ」
「私生活上の付き合い……とどのつまり友だち。うっわほんとにやべえなこれ」
今度はローナが噎せた。
「……は!?利用云々でも怖いのに友だち!?なんでそうなった!?」
「むしろそれ以外にどう見られるんだ阿呆かお前は!!!」
真っ青なローナの絶叫に勝る大声でルースが激昂する。むしろ短気な彼にしては、これまでよく堪えた方だった。シュカもさすがに止めず、うんうんと頷いている。
しかし、ローナにもその事実は受け止めがたいものだった。「あれ」をどう考えたら、友人なんて言葉が出てくるのか全く訳がわからない。
勝手に友だち面をしたり、むしろ少し威光を借りようかな……とか、ほんのちょっと考えた時点で抹殺(物理)される危険があるあれが、そんなほのぼのした言葉で括られてたまるもんか!
「むしろ、お前が転向した原因もあの方たちだったりするんじゃないのか。お前自身にそれほどの価値があるのか、もしくはお前を隠れ蓑に何かをするつもりか知らんが……」
ルースはしばらく考え込んでそう告げたが、ローナは当たらずとも遠からずなその発言に、内心で冷や冷やした。性格的に腹芸もごまかしも苦手なので迂闊に言い返せない。
ここはもう切り上げたい。ローナはその一心で軽食を平らげた。
起きてきたローナはびっくりだ。元々筆不精で、それはローナの知り合いも基本そうだ。故郷で別れてきたユエやベスタもローナのそんな性格を知り抜いているから、彼らの手紙と言えば、もっぱら受けとるのはルアなのだ。そこに主家の御曹司――ましてや元雇い主――に対する配慮は欠片もない。家族同然に育ってきたハヴィン家ならではの屈託のなさを、ローナはとても心地よく思っていた。いつかは帰りたいものだと、ルアから手紙のことを知らされる度に郷愁に襲われている。
エルフィズほどに、ローナが愛する場所はなかった。日がな穏やかな土地で、都会の喧騒などとてもとても遠い存在だった。学園に入学するときに初めて王都に来たときは、門を潜り抜けただけで回れ右をしたくなったほどだった。
エルフィズ中の人を集めても、普段の王都の賑わいの半分にも満たないだろう混雑した道に、天から頭を覆い尽くすようにそびえる高い建物群。どちらも田舎者のローナには閉塞感しかもたらさず、学園の一角の広い庭や故郷への帰省、王都郊外への散歩など……気が滅入る度にそんなことをして気分転換を図ってきたのだ。
そして、故郷には気心の知れた家族がいる。今回父の件で解雇せざるをえなかった二人の奉公人も、ローナの生まれる前からハヴィン家に仕えてきた大切な身内なのだ。屋敷の管理は国のものとなったが、私たちの家なんかには、狭いけれどもいつでもお出でくださいね、村のみんなも坊っちゃんを待ってますよと書いてあったと、ルアもまたとても嬉しそうに笑っていた。
(ナジカも連れて、もしよければ伯父さんも一緒に……)
夢見るように思いつつ、五つ以上はある手紙のどれもを開封せずに宛先を確認していたローナの後ろから、クラウスがひょっこりと顔を出した。
「おはよう、ローナ。それ全部君のものかい?」
「あ、伯父さん、おはよう。今日はこっちなんだ、珍しいね」
「君も珍しく早起きじゃないか。朝食が出来上がる前に食堂に来れるなんて」
珍しくルアが朝食の支度をしている最中に起き出していたローナは、わざと少しむっとした顔を作ってその言葉を受け止めた。
「ひどいな。おれだってやろうと思えばちゃんとできるんだよ」
「そうかいそうかい」
クラウスは取り合う気もなく台所に顔を見せにいった。
「ルア……おや、ナジカもか。おはよう、二人とも」
「おはよう」
「おはようございます!ごめんなさい、もう少しでできます」
「いいよ、まだ時間はたっぷりある。ローナもね、今日は早起きして、もうそこにいるんだよ」
「あら、珍しい。雪でも降りますか?」
「そうだね、確認してこよう。ナジカ、そんなに一杯運ぶと危ない。ローナを使いなさい」
「わかった」
「……聞こえたよ、ルア、伯父さん」
今度は手紙を胸ポケットにしまったローナがクラウスの背中から顔を出したが、ルアはにっこり笑って受け流した。
「文句があるならさっさとナジカを手伝いなさい。普段からこんなに早起きなら、私ももう少しゆっくりできるんだけど」
そんなにいつも寝坊しているわけじゃないと言いかけたローナも、結局ルアに頼りきりな部分が多々あることを認めている。しかもルアはローナより口達者なのだ、反論は何倍にもなって返ってくると思い直して、ナジカの持つトレーをひょいと奪い取った。
「ありがとう」
「ん、いいさ。今日の朝は、いつもより質素だな?」
ローナが見下ろすのはオムレツにスープに平べったいパンの載ったトレーだ。肉がスープにほんの少ししか入ってない気がする。食べ盛りのナジカと肉体労働の多いローナのために、普段はもっとちゃんとしっかりしたメニューを出されるのだが。
とたんにルアは形勢逆転したように気まずく顔をそらした。
「……ちょっと、昨日にやり過ぎちゃったわ。ごめんなさい」
「あー」
なるほどというその声だけを残してローナは食堂へ戻り、ナジカの敷いてくれたランチョンマットの上に皿を並べていく。ローナが料理を運ぶのを代わったのでナジカは食器を用意する係に転身したが、感情に乏しい顔は相変わらずでも実に生き生きと手足を動かしている。最近ようやく靴を履くことを覚えてくれたようでもあって、ちょこちょこと動き回る姿に、思わずローナは笑っていた。
「まあ、たまにはこんな日もいいさ」
トレーを台所に運んでルアに言う。ルアも昨日の嬉しさを引きずっているように柔らかく微笑みつつ皿にスープを盛り付けていたが、釘を刺すのだけは忘れなかった。
「あなたは普段からこのくらい早く起きなさいね」
ちなみに今日は洗濯物日和だとの、天気予報は百発百中のクラウスの一言であった。
食後のお茶など滅多に取らないのに、この日はそれも珍しかった。といっても部屋数が多いわりに効率重視の人間ばかりが集まる一家である。ルアとナジカも台所に皿を戻しただけで、洗うのは後回しにしてのんびりとローナとクラウスも交えて団欒中だ。
特にローナは早速受け取った手紙を開きながら、主にルアとナジカの話に耳を傾けていたのだが、一通目に通した瞬間に表情が固まった。そこからは、内容を読んだりすることもなく次々と他の手紙を開けていく。最終的にローナは唖然とした。端っこでやっていたことだが、めざとく気づいたクラウスが黙ってそれに目をやり、やはり黙って甥の肩を叩いて正気に戻らせた。
息を吹き返したローナの第一声は、恐ろしく震えていた。
「…………こ、これ、全部?」
「シーズンだものね」
「うち……貧乏なんだけど」
「そうだね」
クラウスは余計なことは一切言わなかった。ルアとナジカが和気あいあいとしている姿を横目で確認し、「そろそろ行く準備をしなきゃいけないんじゃないか」とローナを促した。
ルアがそれに気づいて顔を向けた。
「クラウスさま?」
「ん、そろそろ出ようかと思ってね」
「あ、もうそんな時間なのね」
青ざめていたローナは見咎められる前に手紙を全て回収し、自室に飛んでいった。
即位式も終わって、一応極秘のヘーゼルの問題を除けば、そろそろ市場も落ち着いてきた頃合いだ。
となれば社交界は賑わいに賑わうものである。
政権の交代による変動を受けて必要な旧交を温めたり情報収集したり商談をまとめるためだったりと、人によって理由は様々あれど、昼も夜も開催されるパーティーが華やかであることは間違いない。
問題は、なぜそこで木っ端貴族のローナにお呼びがかかったのか、だ。
「……一応、ルースの家ならまだわかるんだけどさ……他が全く意味がわからない」
部屋に置いてきた招待状の数々を思い出して頭を抱えた。ローナの中でパーティーと言えば、友人たちとの気のおけない会話を楽しむ和やかかつ極めて身内のものだった。
社交と名のつく招待を受けたことなど欠片もなければ、父から出席を命じられたこともない。実際、数十年前の大戦から様変わりした社会では社交も貴族の特権ではなくなり、お遊びよりも実務的な面が強いのだが、欲のないハヴィン家の現状維持的平和思考では必要性すら皆無だったのだ。
そしてローナは困ったときの友人頼りだと早速シュカに泣きついたが、シュカはそりゃおめー、と呆れた声をあげた。こんなことにも気づかないのかというような元祖馬鹿からの逆襲にローナが内心で傷ついたのは秘密である。
「お前なあ、あの氷の貴公子と筆頭公爵と仲がいいんだから、声がかからねーわけないだろ」
「な、仲がいいって、どこが!?」
「お前無自覚かよ!逆にこえーよ!」
思わずシュカもぎょっとして、集まる視線に気づいて声を潜めた。
「……おい、お前全然周りの反応わかってないのか?お前地味に目をつけられてるぞ?」
「な、何に?」
「うちの商会にも探りいれてくる連中がちらほらいるらしくてな。今んとこ、あのお二人と懇意にしていていて簡単に手を出せるのはお前だけだろ。だから狙われてる」
ローナはひたすらに唖然として友人を凝視した。目が血走っているのは、必死に考え、考え、混乱の極みまで登り詰めたからだ。
「…………なんで?」
長い時間をかけた末に思考を投げたローナに、シュカは盛大に呆れた顔をした。訝しむ様子ですらある。
「……お前、そこまで馬鹿だったっけ?」
「シュカには言われたくない」
「いいや、ルースでもそう言うぜ。……あいつにも知らせた方がいいな、こりゃ。行くぞ」
「あ、ルースの家からも招待状もらってた」
「そりゃ好都合だ」
珍しくこの日のシュカは頼もしい。ローナは自分のことなのに張り切るシュカの背中を見つめ、優しい友人だと笑みをこぼした。
それが現実逃避ぎみに見えたシュカは、もちろん怒鳴った。
「ローナ!お前の問題だっつーの!!」
「うん、ごめん。ありがとう」
にこにこにこにこ。そんな音が聞こえそうなほど暢気な笑顔に、最終的にシュカも脱力した。
「……これで貸し一つだかんな」
ぽそっと呟いたそれがローナに聞こえることはなかった。
「それは父たちの独断だな」
そうして昼休憩の間にルースを訪ねに行ったのだが、ちょうど図書館の前を通りすぎたところで出会って、一緒に外の庭園に向かうことになった。シュカの提案で、情報をもらう手土産にルースの軽食を買っておいたのだ。もちろんシュカもローナも軽食を持ってきている。大食らいのシュカはこれでは足りないと眉をしかめているが、そこは後でローナが差し入れする つもりである。
柔らかな日差しが当たる、自由に開放されている庭園の片隅で三人で三角形を作り、ルースはぱくりとサンドイッチを咀嚼したあと、以上の言葉を述べたわけである。
「私も初耳だ。父上、勝手に仕組んだな」
「……なんでだと思う?」
「逆に問うが、なぜお前がわからないんだ?当事者のくせに」
「なー、不思議だよな」
仲が悪いと言い張る二人が意気投合している。ローナはその間に挟まれつつ、納得いかない顔でハムサンドを頬張った。
「……そんなに、おれ、あの方たちと仲良く見える?」
「正直、なぜお前ごときに目をかけるのか意味がわからないくらいには仲が良いな。どちらも、俗な言い方をすれば若手の出世頭だ。片や王妃殿下の弟で筆頭公爵、片や第一王女殿下の従者兼ティリベル副長官だぞ。お前のような下っ端中の下っ端がまずどんなきっかけで接点を持ったのか、何段階もすっ飛ばして、名前や略称呼びを許されるなど、元来あり得ることではない。その謎を知りたがるだけならまだ可愛いが、十中八九、それだけではわざわざ父たちも呼び立てん」
謎って……とローナは渋い顔をするが、シュカがまたそこで「そーそー」と賛同するものだから、本気で頭を抱えた。
「意味がわからない……」
「頑なに理解しようとしないお前の思考回路が理解できん」
どこまでも容赦しないルースである。
そこでシュカが身を乗り出した。
「いいか、ローナ。よーく考えろ。あの方たちはおれらみたいな新人が簡単に声をかけれるお方じゃないし、実際の高位貴族でもそう。ルースがいい例だろ。それが、なんでかお前と名前呼ぶほど親しいってなったら当然理由も知りたいし、そこに『秘密』があるんじゃないかって思うだろ。ますますお前の価値は吊り上がる。そのくせ身分は男爵位なおかつ領地もなく城の片隅で肉体労働に勤しんでるだけときた。取り込んでおいて損はない、そう考えてもおかしくないってことだ」
噛んで言い含めるような分かりやすい言葉の羅列に、ようやくローナは理解し始めた。
とにかくローナは立場が弱い。なのに無駄に権力者と仲良く見られている。この際実態はどうでもいい。権力者たちがそうするほどの価値があると見込んでいる、その事実が問題なのだ。
「……取り込むって、例えば具体的に……?」
「そこは常套だろ」
「お前を通してあの方たちを脅迫するか、もしくは便宜を願うか。あの方たちの辣腕は鳴り響いているから、虎の尾を踏まない理性があるなら前者は消去されるとして、だな」
「便宜?」
無意識に避けてきた核心に迫ってきたので、ローナは顔を存分にひきつらせた。本当は、ここまで言われたらなんとなくわかる。しかし考えたくない。普通に怖い。
「お前をこちら側に引き込む見返りに出世、もしくは財産、名誉を与えるのが一番ありふれた方法だな」
「取り込むってあれだろ、『これこれをやるからあの方たちによく言ってくれないか』とか。とにかく中継役だな」
やはり想像通りな回答に、ローナは本気で震え上がった。想像するだけで本当に怖い。
何が怖いって、ローナがあの二人をそんな風に利用しようと見られることが。
「――無理無理無理無理無理!!!」
本気で叫ぶと、水筒から茶を飲んでいたシュカが驚いて吹き出し、ルースも同じ理由でサンドイッチを喉に詰まらせた。
二人は盛大に咳き込み、その間でローナは顔面蒼白になっている。
「できるわけないだろそんなの!試しに言ってみただけであの方たち冷笑するぞ!社会的に抹殺される!!」
「ゴホッ……お前が、あの方たちと、どんな交流をしてるのか知らないが、周りはそう見ないということだ」
「あー、鼻に入るかと思ったあぶねぇ……。おいローナ、お前、ほんとになんであの方たちと仲良くなってんだよ。ナジカちゃんだけか、本当に?」
「茶を寄越せアボット。お前の家でも掴めないなら相当だな」
「はいよ。そもそも、仲良しって噂があるのに、おれ、実際にローナとあの方たちが接してるとこ見たことねーんだけど。噂だけ一人歩きしてるような気がすんだけど」
「ランファさんもカイトさんも、確かに城じゃほとんど会わないもんなぁ」
「…………」
水筒を受け渡していたルースとシュカは、自然とお互いの目を見合わせていた。二人とも顔が同じように引きつっている。
……今、とんでもないことを聞いた気がする。
「……お前、むしろ城以外のどこで会うの。まさか秘密裏に屋敷にでも呼ばれてんのか?そういや副長官の方はたまに街をルアちゃんたちとも歩き回ってるって聞いたことあるが」
「まさか本当に私生活の部分で?ハヴィン、返答によってはかなり危ういぞ、それは」
「え?」
「今さらだが、ここに人はいないんだろうな?」
「一応穴場だぜここ」
「……ああ、人の気配はないよ、今のところ。それで、何が危ないんだ?」
「それだけお前があの方たちの信用を得ていると考えられるからだ」
「私生活上の付き合い……とどのつまり友だち。うっわほんとにやべえなこれ」
今度はローナが噎せた。
「……は!?利用云々でも怖いのに友だち!?なんでそうなった!?」
「むしろそれ以外にどう見られるんだ阿呆かお前は!!!」
真っ青なローナの絶叫に勝る大声でルースが激昂する。むしろ短気な彼にしては、これまでよく堪えた方だった。シュカもさすがに止めず、うんうんと頷いている。
しかし、ローナにもその事実は受け止めがたいものだった。「あれ」をどう考えたら、友人なんて言葉が出てくるのか全く訳がわからない。
勝手に友だち面をしたり、むしろ少し威光を借りようかな……とか、ほんのちょっと考えた時点で抹殺(物理)される危険があるあれが、そんなほのぼのした言葉で括られてたまるもんか!
「むしろ、お前が転向した原因もあの方たちだったりするんじゃないのか。お前自身にそれほどの価値があるのか、もしくはお前を隠れ蓑に何かをするつもりか知らんが……」
ルースはしばらく考え込んでそう告げたが、ローナは当たらずとも遠からずなその発言に、内心で冷や冷やした。性格的に腹芸もごまかしも苦手なので迂闊に言い返せない。
ここはもう切り上げたい。ローナはその一心で軽食を平らげた。
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