孤独な王女

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小話②

雪降らし、雪散らし⑤

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 主が死んだ。

 それはなによりも恐れていた事態で、ありえないと信じたかった現実で、でも目の逸らしようもない悲劇で。
 ユーフェは当時を振り返ってもろくな記憶がない。誰よりも大切な存在を前にしているのにガルダ共々役立たずで、懸命に働く医師を遠巻きにしながらも側を離れられず、気づけば戦場からテルミディアに移っていたし、さらにジスカルディに連れていかれかけていた。いつやってきたのかナオとレナに何か言われたような気がしたけれど、やっぱり覚えていない。

 そんなユーフェを横殴りにするような嵐が到来して、やっと正気づいた――というか無理やり引き戻された。

「あんたの心をもらう権利を、おれにくれ」

 それは、閉ざされゆくユーフェの心をこじ開けて、なんなら掻っ払っていく宣言でもあった。
 権利と言いながら、強奪する気満々の獰猛さに青い目が光っていて。
 そうして、目を見開くユーフェの唇に噛みついてくる一秒前。

「女王サマが目覚めるまで待てないなら、無理やり繋ぎ止めるまでだ」

 結婚の成り行きはそんなものだった。

 









☆☆☆











「結婚したなら報告に来い。二人揃ってだ」

 ユーフェが商会経由でもらったファーランの手紙に書かれていた、ものすごく端的な一文だった。
 端的すぎてこれを見た全員が疑ってしまったのは仕方がない。別の思惑があるんじゃないかと、多少はファーランの人となりを知っているユーフェとイオンでも疑った。
 今のユーフェは立場的にはヴォルコフ商会会頭補佐だ。中身は侍女兼書記官だった頃と変わらない。報告にしろ他のことにしろ、遠出をするなら主であるアクイラに打診するのは当然で、アクイラは素直に首を捻って、こう言った。

「ちょうどいいから、雪が降る前に行って、冬の間に神聖王国に拠点の一つでも作ってみようか」

 春から姿を公にして日々行商に歩き回るアクイラの口調は、とても軽かった。

「アキさままで行かれなくても、あたしが自分でなんとかします」
「私も前から気になっていたからついでだよ。お礼言わないとって思ってたんだ。この人が私の生き埋めを阻止してくれた一人でしょ?」

 アクイラがいたずらっぽく笑うが、実は笑いどころではない。女王として死んだとき、ユーロウ医師が遺体の違和感に気づいたことが一番の大きな理由だが、ナオからたったの二日遅れでイオンが神聖王国から飛んできて「生きているかもしれない」と言ったことが、ジスカルディでの保護の後押しとなったのだ。実際急拵えの棺が用意されていたので、生き埋めまで秒読みだったようだ。
 イオン曰く、ファーランが「女王は生きている」と断言していたらしく、アーノルドも「巫」の言葉と聞くとどこか納得した雰囲気を出していた、らしい。

『目覚めるまで待ってみるのもよかろう。隠居の私はともかく、そなたらが諦めるか待つかは好きにしてよいが、リエンが目覚めた時を前提にして選べよ』

 そんなことを言っていたらしいが、正直ほとんど覚えていない。当時のユーフェはそれほど頭をやられていた……とまでは、この主は知らない。言うと正気づいた理由まで話さなくてはならないが、それがとても恥ずかしかったので、まるごと黙っている。

「でも……ディライラ・アングレイ神官がいますよ?」
「そっちは、一度顔を見てみて、駄目だったらその時だよ」

 ユーフェが渋々ながらアクイラの提案を受け入れたのは、エリスを強く拒絶していない様子に驚いてしまったのが理由だ。アクイラに生まれ変わったユーフェの主は、本当にやりたいことをやるようになった。その中でも特に変化したことに、人付き合いがある。
 絹でそっとくるむように、花を指先で愛でるように。細く保たれた絆を大切にしようとしている。新たに得た出会いも逃さず楽しむ姿は、人を疑うのに疲れたと言わんばかりだった。

「その時はその時だよね」

 なんて向こう見ずなことを堂々とのたまうようになっていて、「貴様、さては馬鹿だな」「ノリで焼身自殺しかけた人に言われたくない」とウォルと応酬をしていたくらいだ。
 でも実際、アクイラは日々生き生きとしているし、危機察知能力は抜群に働いている。ウォルが言うには、アクイラは筋金入りの場当たり的な性格だということだけど。
 元々リエンは完璧な人間ではなく、それを自覚しているからこその綱渡りの日々だったのだ。そこで培った取り繕う技術があり、さらにアクイラとなってからは失敗を恐れるゆえの緊張感をなくしたために、より気軽に、それこそノリで毎日を乗り越えている。ウォルにしたところで、ため息をつきながら後始末を手伝いつつも、刺激的な日々にうんざりはしていないようだった。

 そんな風に自由になったので、エリスにも会ってみようかと前向きに思っているのだろうか。
 ユーフェはこういう時、無性に泣きたくなってはごまかしている。イオンが傍にいるときは二人にきりになったときに肩を貸してくれるが、今はいないのでぐっと堪えて、ただ陽射しが眩しいと言いたげに目を細めた。実際に眩しかった。あれだけ色んなものを背負ってきた主が、自由に人生を謳歌している。
 時々、この日々が夢だったらどうしようかと恐ろしく思えるくらい、幸せだった。

「ナオにも声かけようか。レナはどうだろうな」
「旅程を見直さないといけませんね。イオンさんにもお知らせしないと。海路と陸路、どちらにします?」

 今アクイラたちがいるのはフリーセアだ。春から東側をのんびり巡ってシュバルツでナージャにぶん殴られてから、折り返してきたところ。
 フリーセアならアルダへ船で渡って、そこから陸路で行けばいい。ちなみにアクイラたちはまだ海に出たことはない。アクイラがそわっとした。

「船、乗ってみようか。でもジヴェルナでも情報を拾いたいな……ユゥを呼ぶ目的があるならそっち関係でしょ?」
「アルダで得られるように手配しておけばいいんじゃないですか」

 実はユーフェもそわっとしている。海自体、これまで馴染みがなさすぎただけに、好奇心を抑えられなかった。
 そのあとガルダとレイとウォルに相談してみると、ウォル以外は船に興味津々だった。ちなみにウォルが嫌がったのは「おれは船酔いをする自信がある」とのことだ。元引きこもり、数ヵ月動き回って、やっと馬車にも慣れてきたところだった。アクイラもそれに思い至ったのか、今回は陸路で行こうと結論付けた。

「じゃあ、イオンさんと合流する場所を決めておきましょう」
「別にここで待ってれば来るでしょ。そんなに急がなくても間に合うよ」
「ここから神聖王国まで、ずっとイオンさんにへばりつかれてるのは、迷惑なんです」
「あ、そ、そう」

 いっそ目を据わらせたユーフェに、アクイラは引き気味だし、ガルダは顔をそっと背けているし、レイはそういう形もあるよねと頷いているし、ウォルはどうでもよさげに自分の仕事に戻った。
 ユーフェも、自分でも今の態度が過去からは想像できなかったが、仕方がない。嬉しいとか恥ずかしいとかはもう通り越して、ただただ鬱陶しいのだ。
 夫は基本的に、シュバルツに居を構えたネフィルのところで働いている。ユーフェもアクイラに従っているので時々しか会えない夫婦なのだが、イオンはその空白を埋めるがごとく、再会する度に物理的に距離をなくしてくるのだ。この間ほぼ無言。
 隣にいてくれるだけでいいのに、顔を近くで見せて「ミア」と呼んでくれればさらに嬉しいけど、ゼロ距離で抱きしめてくるので満足に動けない。
 邪魔、そう思うのに時間はかからなかった。
 だって邪魔。ひたすら邪魔。

「あー、えっと、ネフィルの都合にもよるよね!旅程だけ大まかに伝えておいて、イオンに好きなときに合流してもらうようにする?」
「そうしましょう」

 ユーフェはきっぱり頷いた。背後から「イオン、可哀想に……」とぼそっとガルダが呟くのが聞こえたが、当然黙殺した。
 少しはアキさまとの仲を進展させてから言ってください。















 今の幸せな日々を夢のように思うのと同時に、ユーフェはそれとは全く別の不思議な夢を見る。

 ユーフェには色んな名前があって、色んな呼ばれ方をしてきた。
 フェルミアーネ、アーネ、ユーフェミア、ユーフェ、ユゥ、ユリシア、ミア……。大切な人たちに贈られた、ユーフェという存在を形作る大切な宝石たち。
 生まれてきてくれてありがとう。出逢ってくれてありがとう。幸せになって。あなたの大切なものを一緒に守ってあげる。あんたの心をもらう権利をおれにくれ。
 そんな風に願いと祈りと誓いがこもっているから、いつも、全部を大事に抱きしめる。
 でも、最近よく見るこの夢の中では、ユーフェは一度も呼ばれたことのない名前で呼ばれていた。それが実際どんな名前なのかはユーフェにもわからない。夢なので妙にあやふやで、でも妙なところで鮮明だった。色んな人に囲まれて、その友人たちを愛しく思っている。容貌もはっきりと覚えているし、性格や、好きなものまで言い当てられる。けれど、ユーフェが夢の自分の名前をわからないように、彼らの名前もさっぱりわからなかった。

 もうひとつ不思議なことがあって、アクイラとともに会いに行ったとき、ナージャと夢の中の誰かとの姿が重なって見えたのだ。
 確かに同じく末っ子だが、ナージャよりも夢の人物の方が甘えん坊だった。しかし、強引に行動に移るところは少し似ているかもしれない……。

『最近史料を調べていたらユーフェミアという名前を見つけたのだけど、あなたの名前とも関係があるかしら?』
『そ、れは……あたしの知っているところでは神聖王国の聖人の名前です。ミヨナ教では、聖人の名前を子どもにつけたりすることはよくあります』
『なるほど、過去の偉人にあやかっているのね』
『そうですね』

 とはいえ遠いシュバルツにその名が伝わるとは思えないし、実際どんな人物だったのか、ナージャは言わなかった。偶然同じ名前になった誰かだろうと納得するのと同時に、なぜかどきりとした胸を押さえた。いきなり到来した不思議な感覚のせいで、アクイラとナージャが意味ありげな視線の応酬をしていたのに気づけなかった。

 そして、またも襲来した既視感に、ユーフェは瞬いた。

 ユーフェは結局そんなには逃げられず、ナオとレナを訪ねたウェズ領カロルで捕まって以来、ほぼずっとイオンにへばりつかれている。そのまま神聖王国に入り、宿を取ったら待ち構えたように神官がやって来た。
 レナと同年ほどの、いとけない容貌。夢では額に帯を巻いた溌剌な少年だったけれど、この神官は長い髪を結わえた静謐な少女だ。
 それも……と、改めて見つめ直したユーフェはぎしりと固まった。襟の高い外套の下から、歳に見合わぬ高貴を示す衣裳の裾が覗いている。
 この展開には覚えがある。宿屋の帳台の前で多くの耳目があるので、こそりと尋ねた。

「……あの、もしかしてディライラ・エルレイ神官ですか?」
「ラーズって呼んで。はじめまして」
「は、はじめまして、ラーズさま。ユーフェ・ラズワルドです。あの、誰も他に姿が見えませんが、お一人で……?」
「うん。ファーランは忙しくて手が離せないから、おつかいにきた」
「おつかいですか?」
「今日の夕方頃に本神殿の礼拝堂に来てって。あなたたち夫婦と、あなたのご主人さまの三人だけだって」
「もう一人、主の護衛の方をお連れしたいのですけど」
「あ、『人外もどき』?」

 ユーフェの背後で噴き出した音がして、振り返ったらイオンが無言で腹と口を抑えて震えていた。隣に立っているナオはどうしたのかと首を捻っていたが、ラーズと目が合って片手を挙げた。

「よう、ラーズ。でかくなったな」
「うん。髪も伸びた。二人とも元気?」
「元気だ元気。おいイオン、さっきからなんで笑ってんだよ」
「いや、だって……いきなりだったからっ……人外もどきって……!」
「誰だよそれ」
「き、騎士サマ」
「ぶっ」

 結局揃って笑い転げる二人を見て、ラーズはゆるりと微笑んだ。そのまま生気の灯る瞳がユーフェに向き直る。

「ファーランは三人だけって言ってたから、駄目」
「ですが……」
「あのね」

 ラーズに袖を引かれて前屈みになると、手を口に添えてこっそりと言われた。

「忍び込むだけなら見逃すって」

 これは不法侵入を唆されているのだろうか。しかし、神官長が見逃してくれるのなら確かにこれ以上の譲歩はないだろうと、ユーフェは頷いた。

「わかりました、夕方頃ですね。必ず伺います」
「うん。それじゃあ」
「あ、待ってください。あなたは今お暇ですか?あたしたち、これからお昼にするところだったんです。よければご一緒しませんか」
「……邪魔になるよ」
「なりませんよ。あたしも、あたしの主も、あなたのことを聞いてから、ずっとお会いしたかったんです」

 ユーフェが小さな手を握ってにっこり微笑むと、ラーズはぱち、と目を見開いた。

「……今」
「はい?」
「……なんでもない」

 ラーズは手をきゅっと握り返して、うつむきがちにありがとうと呟いた。








 









「呼びつけられなければ顔を見せないとはどういうわけだ。全て終わったら会いに来ると言ったのはお前だぞ」

 時間ぎりぎりまでもてなされたラーズはナオたちに送ってもらったため別行動で、招かれた三人で本神殿の礼拝堂から奥、ファーランの私室に通されたあとの第一声がこれだった。
 ファーランの容貌からは以前にあった繊細さが薄れているが、代わりに疲労が陰をつけていた。その顔で睨み付けられると元からあった威厳の相乗効果で迫力満点だったが、ユーフェはきょとんとしながら、首をこれでもかと捻って応えた。
 ファーランを見ていると、また不思議な夢の別の誰かを彷彿とさせられたが、気になったのはそこではない。

「あたし、そんなこと言いました?」

 さっぱり記憶にない。ファーランには国王との交渉や形見で恩があるので、またいつか会いに来ようとは思っていたが、当時の情勢からして約束できることではなかった。
 イオンを振り返っても知らないと首を振っているし、アクイラは「そんな仲良くなってたんだ」とむしろ感心していた。この時点でアクイラは国の事情にユーフェを巻き込むのかという警戒を解いている様子だった。ファーランの大人げない態度に拍子抜けしたともいう。

「……」

 ファーランの眼光がますます細く鋭くなったが、ふと大きなため息を吐いて首を振った。

「言った言ってないは今さらどうでもいい。だが、これだけは言わせてもらうぞ」
「どうでもいいなら言うなよ」
「黙れ甲斐性なし」

 今度はイオンを強く睨みつけ、弾劾するようにびっと指差した。

「結婚式を挙げないとはどういう了見だ。シルヴァはリューダさまと二人きりでも挙げたぞ」
「いや、そんな状況じゃなかったし……」

 言いかけたイオンがはたと気づいたように訝しくファーランを見返した。

「……あんた、まさか式に参加したいとか考えてないよな?」
「当たり前だろう馬鹿め」
「いやいやいやいや一般人の結婚式に神官長が出るってないだろ!ない!」
「一般人?何を言う」

 ユーフェ(神聖王国の王族と「巫」の娘)とアクイラ(前歴女王)をちらりと見たファーランが、イオンに向き直ってはんと鼻で笑った。力強く嫌みな笑顔である。

「少なくとも、お前はジヴェルナと我が国の架け橋となった要人で、私とも懇意だ。祝うに足る理由だろう」
「……あんた政治にどっぷり染まってきたな!」
「お陰様でな。お前こそ理由をつけてフェルミアーネとの進展に及び腰だったのに、少し見ていないうちに結婚とはな。意外なところで手が早い」
「言い回しが下品だぞ神官長!」
「今の私はただフェルミアーネの兄という立場で物申している」

 ファーランがむんと胸を張った。手が早い云々は聞き逃すとして、いつ兄になったのかとユーフェには激しく疑問である。でもフェルミアーネとしての記憶によれば、父母がいつか会わせたい少年がいる、兄と呼べ叔父と呼べと言っていた。それがファーランのことなのだろう。多分。

「ねえ、ユゥは花嫁衣装、着たくない?」

 イオンとファーランがやりあっているのをよそにアクイラに尋ねられたユーフェは、嫌な予感がして「どうしてですか」と問い返した。
 アクイラは真剣に答えた。

「ユゥの結婚式、ヴォフコフ商会うちで全面的に出資してみるのもいいかなって」
「どこがいいんですか!?」
「興味。でもそれよりも、ユゥたちが式をしなかったのは、できなかったからか、それともしたくなかったからか。それによってお祝いの仕方も変わるよ」

 お祝いしなきゃいけないのをすっかり忘れてた、とアクイラが付け加えた。どのみち祝うのは確定らしい。今さらかと突っ込んでもいいのだが、主人は長い眠りから目覚めてしばらく、様々に変化した状況に置いてけぼりだったので仕方がない。ユーフェだって、昏睡していた主人の「遺品」を勝手に整理してしまった時点で、紛れもなくヴィオレットたちの共犯だった。

「でもここでぽんっと済ませるのも違うよなあ。この人以外、誰も式については言わなかったの?」
「いえ……」
「タバサとか言いそうだけど。あとセレネスはイオンをかなり可愛がってたみたいだし。ヘリオスもかな?」

 図星を突かれて黙るしかなくなった。いつの間にか隣の口論も途絶えており、視線をやればファーランもアクイラをじっと見つめていて、対するイオンは頭を抱えて「うー」だの「あー」だの言っていた。

「女王、ではなく商人」
「アクイラでいいよ、神官長さん。私を招いたのはこのため?」
「ファーランでいい、が……黒星をさらに増やした挙げ句、ぞろぞろ引き連れてきた者を放置しておけるか!!」

 カッと吠えたファーランを、アクイラは興味深げに眺め渡した。

「私が増やした訳じゃないし、誘ったらみんな来たがったから一緒に来ただけだし。ああでも、やっぱりわかるんだ。黒星ね、へえ……」
「……アクイラ。お前に関しては生存そのものをこの目で確認したくなったから招き入れた。だが結婚式の支度をするなら渡りに船だ」
「初対面で確認もなにもないでしょうに」
「黙れ。うっかり目を離した隙に落ちた星がしれっと再び昇っていたときのあの形容しがたい衝撃をどうしてくれる!気が触れたかと思ったわ!」
「支離滅裂だなあ。でもあなたの口添えのお陰で生き埋め回避できたから、お礼はしておく。ありがとう。それからね、結婚式は、本人たちの意志を最優先しないと」
「なんだ、案外及び腰なのだな。嫌とも言わせぬ式にしてしまえばよかろう」

 さらっと言われたアクイラは、目から鱗がこぼれた、とばかりに目を丸くして、ぽん、と手を打った。

「よく考えたら私、まさにそんな感じでしてやられたんだわ。よしやってやろう」
「ちょっ、待っ、そんな!?」
「アキさま!?」

 まさか即行で結託された。固い握手を交わすアクイラとファーランを前に、本人たちが蚊帳の外だ。やってやろうってなんだ。

「アキさま、まさか根にもってます……?」
「別に?文句言うつもりはないよ?ただこれまで散々頑張ってきたのに、最後の最後にお鉢奪われてなんかいい感じにまとめられて?こんなやり方あるんだーって参考にしたい気分になっただけだよ?」

 とってもきれいな笑顔だった。ユーフェはぐうの音も出ず、がっくり項垂れたのだが、それを見たアクイラは急に不安になったようだった。慌てたように顔を覗き込んできた。

「それとも、本当に嫌だ?それなら考え直すけど……」
「……ここに来てその上目遣いは反則です……」
「なにが?」

 無自覚なんだよなあと両手で顔を覆った。ガルダがアクイラとの仲を進展させられないのはここら辺の緩急に振り回されているからだ。ユーフェもだが。
 まず勝ち目がない上に、自分で自分のとどめを刺さなきゃいけないこの空気はなに。

「ユゥ……やっぱりやめた方がいい?」

 でも答えなくては、主が誤解で傷つく羽目になる。逃げ場はどこにもなかった。

「……いやってわけじゃないです……ただ恥ずかしいだけで……」
「どこが恥ずかしいの?え、イオンも?なにが?」
「……お前たち」

 アクイラは本気でわかっていないようだったが、なぜかファーランの方は正確に察している気がする。
 単純に、二人の仲を祝われるのが気恥ずかしいというのもあるが、そもそも主を立て主に尽くすのが仕事で生き甲斐の二人だ。最優先は結婚した今もそれぞれの主。影に徹して支えることこそ至上。なのに今さら脚光を浴びようとか……しかも……ん?

「……アキさま!そもそも結婚式がどのようなものかご存知ですか!?」
「えーと、夫婦になるってみんなにお披露目すること?」
「……なんかずれてる気がする!」

 イオンの叫びに内心同意しながらユーフェは己の考えの正しさを知った。

 この方……新年の祝いを知らなかったように、結婚式についてもよくわかっていない!そして多分、夫婦の宣誓についても、全く知識が、ない!!

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