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44 金手町 勇心館
しおりを挟む月のない闇夜である。あたりはしんと静まりかえり、物音ひとつきこえない。
足元に気をつけて、武家屋敷の長屋の白い壁が続く道を曲がった。
そのとき、首筋のおくれ毛がチリチリと逆立つような、邪悪な気配を感じとった。
(――む、殺気か)
角を曲がると、つい先ほどまで、闇夜に白々と浮かんでいた壁は見えず、深い闇がひろがっていた。
「――誰だ!」
ゆっくりと刀を抜き、正眼に構える。
不意に、濃密な殺気が吹き寄せるが、その相手が見えない。
「――私を伊庭八郎と知ってのことか!」
こたえのかわりに、鋭い太刀風が八郎を襲った。
八郎は左足を引いて、かろうじて、それをかわす。
相手が太刀を引くのにあわせ、鋭く突きを見舞うが、男はそれを読んでいたかのように一歩下がり、あっさりとかわされた。
そのとき雲が流れ、月明かりに、ようやく男の姿が浮かんだ。
男は大上段に構えている。刀身が月に映えるが、影になって顔が見えない。
八郎は、平正眼の剣先を相手の顔に、ぴたりとつける。しかし、その男は微動だにしなかった。
仁王像のように、どっしり構えた男の気迫に、八郎は一瞬気圧されるが、気力を奮いたたせ、渾身の突きを見舞った。
ところが、どうしたことか、身体が思うように動かない。
必死で突いたはずなのに、なめくじが這うような速度で、ゆっくりと剣先が男に向かってゆく。
しかし、男が振り下ろした刀も、その軌道が、はっきりと目に映るほどゆっくりとしていた。
男は、刀を振り下ろしながらも、八郎の剣先の軌道を外す位置に、身体をずらしてゆく。
男の刀の軌道は、八郎を確実に捉えていた。
(――まずい、避けなければ!)
そう思ったときには、すでに間に合わなかった。
右に避けるか下がる以外、男の太刀筋を外す方法はない。
しかし、すでに突きを放っている最中なので、どちらにも動くことができなかった。
八郎の剣先は、男の脇をすり抜け、男の刀が、八郎の左肩から右脇腹にかけて、ゆっくりと斬り割いてゆく。
ぷっつり割れた肩口から、どす黒い血が飛沫をあげた。
そのとき、ようやく相手の顔が、はっきりと目に映った。
(――!! 永倉新八)
布団を跳ねあげ、身体を起こす勢いで、枕が倒れるのがわかった。
寝間着は、ぐっしょりと汗で濡れていた。
「夢か……」
歳三や峯吉を起こしていないか、八郎は、隣で寝ているふたりに目をやった。
峯吉は、半分口を開けて、幸せそうな顔で、寝息をたてていた。
おそるおそる歳三に目を向けると、どうやら歳三も眠っているようだ。
八郎は、ほっとして枕元の水差しに手を伸ばすと、ゆっくりと冷たい水で喉を潤し、ため息をついた。
「悪い夢でも見ましたか」
歳三が、穏やかな声できいた。
「すいません。起こしてしまったようですね……」
八郎は、自分の顔が赤くなるのがわかった。
「俺は眠りが浅い性質なんで、気にしないでください……それよりも、かなり魘されてましたよ」
「そうですか……斬りあいをしている夢だったから、かもしれません」
「斬りあいの夢とは、穏やかじゃありませんね。相手は、例の小男……いや、それとも新八さんですか」
「相変わらず鋭いですね……そのとおりです」
思わず八郎が、ため息をついた。
「そういう夢は、よく見るんですか?」
「しょっちゅうではありません。ただ……子どものころから、時折、ひとを斬ったり、あるいは斬られたり……そういう不吉な夢を、見ることがあります」
八郎は、七歳のころから、近所の子どもと遊ぶ暇《いとま》もなく、父から剣術の型を仕込まれた。
もちろん、当人の意思ではなかったが、普通の子どもがおもちゃで遊んだり、そこらを駆け回ったりするように、剣術の型を使うことが、八郎にゆるされた数少ない遊びのひとつだった。
八郎が十二の歳。父は、いつもは木刀で型を使う八郎に、真剣を手渡した。
それは、体格にあわせた短い無銘の脇差ではあったが、刃も引いていない、正真正銘の本身の刀である。
――八郎。抜いてみよ。
父の言葉に、鞘をはらう。
八郎の目は、魅いられたように、白刃に吸い寄せられた。
八郎は口元に微笑を浮かべ、うっとりと刀身を眺めていたが、不意に表情を引き締めると、習い覚えた型を、演武しはじめる。
八郎の目は、妖しく輝いていた。
太刀を振るたび、刀身が煌めき、風が鳴った。それは、まるで名人の舞いのようで、到底、幼子が演じるものとは思えなかった。
父はその様子を見て、息子の才能を喜ぶよりも、なぜか不吉な予感を覚え、肌が粟立つような戦慄を感じた。
その夜、八郎は初めて、ひとを斬る夢を見た。
八郎が刀を振るうたび、斬られた者は、鮮血を迸らせ、臓腑を撒き散らしながら、ばたばたと死んでゆく。地に伏した相手を見下ろし、八郎は哄笑していた。
――違う! これは、断じてわたしではない!
倒れた相手を見て、痺れるような悦びに浸っていた夢のなかの己に、吐き気を催すような嫌悪を覚えた。
翌朝、八郎は、学問の道にすすむと父に告げた。
「それからしばらく、わたしは剣術から離れました。学問にのめりこむことで、あの忌まわしい夢を見なくなればよいと……」
「それで……少しは、見なくなったのですか?」
歳三の問いに、八郎は苦笑を浮かべた。
「いえ……それからも時折、忌まわしい夢は、わたしを苦しめました」
その頃から八郎は、遊廓や賭場に、出入りするようになった。
前髪のとれぬ小僧が、夜の町を徘徊すれば、嫌でも噂になる。八郎は地元を避け、川向こうの本所や深川の悪所に通いつめた。
「それじゃあ、本所では、さぞかし話題になったでしょうね」
「幸いあのあたりは、極めつけに人気《じんき》が悪いので、大人顔負けの悪ガキがたくさんいます。騒ぎを起こさねば、紛れるのも難しくありませんでした」
「俺もたいがい悪ガキだったけど、八郎さんには敵いませんね」
少しでも場を明るくしようと、歳三がおどけた声で言った。
「それでも悪夢が熄むことは、ありませんでした……」
八郎が続ける。
「いくら逃げても悪夢はついて回る……だったら、逃げずに立ち向かおうと、わたしは、再び剣術をはじめました」
「伊庭家の跡継ぎとしての責任ですか……」
「いえ。わたしは、跡を継ぐ気は毛頭ありません……
伊庭家は、代々血筋ではなく、もっともふさわしい弟子が、跡を継ぐのがしきたりです。父も義父も養子なのが、そのあかしです」
「跡を継がない……それで、どうするのですか」
「なにをするにも、この悪夢の呪縛を絶ちきらねば……そのためには、剣術に精進するよりほかに、道はないと思っています」
歳三は出会ってすぐに、八郎とうちとけた理由が、わかったような気がした。
――ふたりとも、剣になにかを賭けている。そのことが、共鳴を生んだのだ。
奉公は性に合わず、かといって長男ではないから、家を継ぐこともできない。このまま石田散薬の行商を続けても、将来につながるわけでもない。
農家の四男などは、養子の口でも見つからないかぎり、穀潰しにすぎないのだ。
では、仮に養子先が見つかったとして、自分に大人しく百姓が勤まるのか?
(いや、絶対に無理だな……)
歳三が剣術に夢中になったのは、剣によって、自分の未来が拓かれるのではないか……という期待があったからに他ならない。
――剣こそが、己の道であり救いだった。
しかし、その目論見は、天才・沖田惣次郎に出会ったことで、根底から揺らいでいた。
もちろん、歳三には剣の才がある。だが、それは、町道場や宿場で先生と、もてはやされる程度でしかない、ということを、思い知らされたのだ。
剣術は術すなわち一種の技術である。才能のない者でも努力によっては、ある程度の腕前には、必ず到達できるように考えられている。
ところが、そのある程度から上の、名人上手になるためには、単に努力や才能だけではないなにかが、必要なのだ。
(それがなんなのかは、俺にはわからねえ……だが、惣次郎や八郎さん、そして新八つぁんにはそれがある)
ならば自分は、どうすればよいのか……歳三の苦悩は、その一点に集約されていた。
急に黙りこんだ歳三を気づかい、八郎が声をかけた。
「峯吉さんにきいたのですが、トシさんの家は、石田村のお大尽なんて言われているそうですね」
(ちっ、峯吉め、よけいなことを……)
思わず舌打ちしそうになり、総司にたしなめられたことを思い出して、歳三は、ひと呼吸置いて口を開いた。
「いや、お大尽なんて言われたのは、多摩川の大水で、家が流される前の話ですよ。兄貴は見栄っ張りだから、畑や家財が流されて、家計は火の車なのに、分家に負けないように、またぞろ、長屋門なんて構えるから、青息吐息です」
土方家はもともと菩提寺である石田寺の北側、稲荷森(とうかんもり)の東側にあったが、弘化三年の多摩川の出水によって、土蔵と畑が流され、移築を余儀なくされた。
そのころ歳三の家の分家、石田村名主・土方伊十郎の屋敷は、長屋門を構えていた。兄隼人は見栄を張り、それに対抗したのだ。
長屋門は、武士にだけ許された建築である。
百姓身分でも領地を支配する旗本や代官など、武士の客を迎えることがある名主や百姓代などの上級農家には許されていたが、一般の農家は、構えてはいけないことになっていた。
ところが江戸も末期になると、そうした規則は、有名無実になり、成功のあかしとして、普通の百姓の家でも、長屋門を構えるようになった。
やくざ者が刀を長脇差と強弁したように「これは長屋門ではない。たまたま納屋と納屋の間に、屋根をわたしたら、長屋門のようになっただけだ」という、言い訳を用意したのだ。
「熱心に修行する彦五郎さんや井上さんを見て、多摩郡では剣術が盛んなのはよくわかりました。でも、トシさんの場合は、なにかそれとは、少し違うような気がするのですが……」
八郎の問いかけに歳三は、一瞬、間を開けてから口を開いた。
「ねえ八郎さん。東照神君や太閤の昔……戦の世のころは、普段は畑を耕し、土を相手に暮らしていた者が、いざ戦となれば、鍬を槍に持ちかえて、勇ましく戦場に立ったといいますよね。
それが、いつから百姓は、ずうっと百姓で、武士は、代々武士になったんでしょう?」
「百姓が戦に怯えることもなく、畑仕事ができるのは、悪いことではないと思いますが」
「たしかに悪いことじゃない。それは、わかってるんです。
――わかってるけど、俺は納得できねえ。頭ではわかっていても、それを考えると、いつも気持ちが昂っちまうんですよ」
土方家の先祖は、北条氏照に仕えた地侍で、三沢郷十騎衆に属していたと伝えられている。
高幡不動の周辺を拠点にした地侍で、三沢村という地名が残り、その村からは、のちに自由民権運動の指導者となった土方啓次郎が出ている。
この三沢十騎衆のなかには、上佐藤の先祖、佐藤隼人をはじめとして、平野豊後守、福島右近などがおり、また、土方弥八郎、土方善四郎など、土方姓の者を見ることができる。
天正十八年、豊臣秀臣が小田原城を陥落させ、上杉、前田、真田によって、八王子城が落城。北条氏が滅亡すると、佐藤氏、土方氏ともに帰農して、日野の地に土着した。
そして、徳川家康が天下を平定すると、佐藤は日野の、土方は石田村の名主を務めた。
歳三の家は、名主ではなかったが、豪農として石田村で農業のかたわら、家伝の石田散薬を販売していた。
「トシさんは、乱世の地侍のようになりたいのでしょうか?」
「そういうわけじゃありません。薬の行商で、俺は多摩だけじゃなく、江戸や相州、甲州と、あちこち回っています……」
歳三は石田散薬を売るため、江戸の下町から、矢倉沢往還沿いを伊勢原まで、八王子道を川崎、甲州道中は大月、川越道は川越、さらには現在の相模湖周辺と、広範囲を商い歩いていた。
街道をめぐり、商いをしながら道場を訪ね回り、百姓、町人、御家人、浪人から博徒、果ては乞食にいたるまで、歳三は、あらゆる階層の人びとに出会った。
そうして人びとと交わり、ひしひしと感じるのは、世間に漂う、なんとも言い様のない、漠然とした不安感だった。
ペリーが来航して以降、剣術道場の入門者は倍増し、浪人者、博徒などが、以前より確実に増え、宿場町にも村々にも、重苦しい閉塞感が漂っていた。
「いますぐとは言いませんが、いずれ世の中が大きく動く……そして、そのときこそ、剣術の修行が、ものを言う、と俺は思っています」
「たしかに世間は、なにやら騒然としていますね」
「世の中がどう騒ごうと、自分がしっかりしていれば、道に迷うことはないでしょう。剣術こそが、俺の道しるべです」
「トシさんは、しっかりと自分の考えを持っていますね。わたしなどは、つまらない自分の問題で手一杯……とてもそのように、世の中を俯瞰している余裕がありません」
八郎の表情が曇った。大人びてはいるが、現在ならば、まだ高校生の年頃なのだ。それは無理もないことであろう。
「農家の四男で穀潰しの俺なんかと違って、八郎さんは、天下の旗本じゃないですか。旗本は、どこまでも将軍に尽くす……それが、武士としての本分でしょう」
歳三の言葉に、八郎は頬を張られたような思いだった。
「おっと、いけねえ……すいません。直参旗本にむかって、とんだ無礼な口を、きいちまいました」
「トシさん……」
八郎が顔を背けた。目にたまった涙を、歳三に見られたくなかったからだ。
ふたりの間に、気まずい空気が流れた。歳三が八郎にかける言葉を探して沈黙すると、
「トシさ~ん、また俺のこと馬鹿にしてますね」
いきなり峯吉が、大声をあげた。
「峯吉! てめえ、なにを言……って、寝言かよ!」
思わず歳三が峯吉の額に、平手打ちを入れた。
「あ、痛っ!」
と、峯吉はひと声叫ぶが、眠りから覚める気配はまったくなく、再び鼾をかきはじめる。
八郎は、喉が詰まったように身体を震わせ、必死で笑いをこらえていたが、峯吉の鼾をきっかけに、腹をかかえて笑いだした。
「明日は早発ちです……いつまでも話してないで、さっさと寝ちまいましょう」
照れくさそうにそう言うと、歳三は、ごろりと背中をむけた。
(トシさん、そして峯吉さん……ありがとう)
八郎は胸のなかに、なにやら温かいものが充ちるのを感じた。
そして、旅に出て以来、初めて安らかな気持ちで眠りについた。
その夜は、もう悪夢を見ることはなかった。
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