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【第1章】 第一皇女 マリアンヌ

06 さぁ、殺し合いを始めましょう①

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「では兄上様はご自分が相応しいと思っているのですか!戦にも出たことがないのに!?」
「もちろんだ~。王位継承権第2位は私だからな~」
「王位継承権の順位は関係ないとマリアンヌにおっしゃられたのは兄上様ではないですか!?」
「あれは女だからな~、別件だ~」

 ちなみにこの争いはマリアンヌが部屋を出てから既に1時間繰り返された文言だった。

「父上様、私を次期皇帝に!」
「お父様~、このわからずやに言ってやってください~。弟が兄に歯向かうなと~」

 口には出さないが集まった人間全てが痺れる足を我慢しながら小さくため息をした。
 それを表立って表さないのは皇帝がいたから、この人間を前にして何か無礼があればそれは即打ち首を意味する、だから客品たちは客という枠組みにいながらも囚人のように耐えるのだった。
 それを気遣って?というわけではもちろん無いが、ついに皇帝がその重たい口を開くのだった。

「ふむ、お前たちの意見は分かった。実を言うとわれ自身、お前たちのどちらかが次の皇帝になるべきだと考えておった。政治・経済に長け、近隣の部族を纏めこのプルートをより一層強固にした第1皇子アール、幼きときから戦場を経験し武功を重ねる第2皇子ロキ。2人とも甲乙つけがたく悩んでおったが、今決意が固まった」

 どよめく王の間の住人達。

「次期皇帝は…ん?」

 扉に目をやる
 表立って変化は無い
 しかし確かに声が聞こえた。

「マリアンヌ様いけません!ここから先は」
「どけ!劣悪種」

 大きく口を開ける扉、そこから出てきたのはマリアンヌ。
 親・兄弟達には無い銀線のような髪がなびく中、マリアンヌは孔雀の羽が装飾された扇子せんすを怪しく、でも彩るように広げて立つ。
 
「どうもみなさん、ひさかたぶりです♪」
「姉さん」
「マリアンヌ姉さま」

 まだ年端としはもいかぬ第三、第四皇子が戸惑うように黒目を動かす中、第一、第二皇子が共闘するようにまたマリアンヌの前に立ちはだかる。

「マリアンヌ~、また来たのかい?ダメだよ時間は有意義に使わないと」
「兄様の言う通りだ、まだ女なのに皇帝になりたいなんて思ってるのか、マリアンヌ?」

 やれやれとマリアンヌと同じぐらいの長髪をなびかせる第二皇子、正直殴ってやろうかとマリアンヌは拳に力を入れようかと思ったが、ここは押さえねばと心に言い聞かせるように首を振った。

「いえいえ~、わざわざ貴重な時間をいてゴミに釈明する人間なんていませんよ。」
「ゴミとゆうのは誰のことを言ってるのだマリアンヌ?」
「言わなくては分からないから、ゴミというのは度し難いですね。いっそのこと可燃ゴミとしてリサイクルされてはどうですか?燃料問題が一気に解決する。 私がここに来たのはただ皇帝陛下に宣言したいことがあったから、あなたたちと争う気は毛頭ありません。分かったら視界に入らないでいただきたい、分かったらその長髪で首でもくくっておくのだな」
「……っ!!」

 目がピクピク動く第2皇子ロキ、そのプレッシャーを物ともしないマリアンヌは目をゆっくりと閉じる。

「ふぅぅぅ」

 真っ暗な視界
 息を大きく吸い込む
 肺に決意という名の空気が入り込んでいく
 ここから全てが始まるのだと毛細血管を通じて全神経に廻っていく

 勇気を持てマリアンヌ
 このまま人形のように生きていくことに何の意味かがるのか?
 座して生き残るよりも
 立ったまま死ぬのだ

 なんて言葉が聞こえたら頼もしいな(笑)
 
 パチンと閉められる扇子が着火点となったかのように開けられたマリアンヌの瞳に強い火がともった。

「私、マリアンヌ・ディ・ファンデシベルは敵国アトラスに亡命いたします。 みなさまハブアグッドディ♪」

 その一言は場の空気を一瞬でマリアンヌの色に染め上げた。


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