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第二章:悪霊の目覚め
第二章:悪霊の目覚め 26
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ちらっと、俺はそのとき一緒にいた蓮田へ視線を送る。
少しくらいは話に耳を傾けているかと思ったが、予想以上に無関心な様子で窓の外を眺めていた。
仕方なく部長と桜に目を戻し、会話を続ける。
「渡辺さん、壊された像を見て悪霊が目覚めたって、そう呟いてました」
「……悪霊?」
「何それ、気持ち悪い」
部長と幼なじみ、それぞれが顔をしかめて呻く。
「俺も、何のことだろうとは思ったんですけど、とてもそんなこと訊いてる場合じゃなかったし、ばたばたしてるうちに忘れちゃってて……」
「悪霊、かぁ。藤守神社は確か、言い伝えに出てくる村娘の怨念を鎮めるために建てられたんだったよね? だとしたら、その壊された神像は死んだ村娘を象徴していた可能性がある。それが壊されたことで、中に封じていた怨霊が解き放たれた。たぶん渡辺さんが言ったのは、そんな感じのことかな。僕の勝手な想像だけど」
新しく煎れたお茶を音を立ててすすり、部長はふぅっと息をつく。
「え? まさか本当に、碧さんは幽霊に殺されたってこと?」
あからさまに嫌そうな様子で胸元に手をやり、桜が言った。
「かもしれない……と言いたいところだけど、それはないでしょ。幽霊が人に刃物を刺すとは思えないし。ただ一つ言えるのは、犯人は本当に言い伝えを利用して殺人を犯した可能性が高まったってこと。わざわざ祀ってある神像を壊してみせたぐらいだからね」
確かに筋が通る話にはなってきたと、俺は胸中で納得する。
だがそれでも、まだうやむやな部分が多くしっくりこない気持ちがあるのも事実だった。
村の言い伝えになぞらえて殺人を実行して、犯人にどんなメリットがあるというのか。
何のために、碧さんを殺さなければならなかったのか。
そもそも、いつ、どこで殺されたのか。
そんな基本的な情報すらまだはっきりとしていない。
――つーか、これ以上俺らが首突っ込む必要があるのかもかなり疑問だけどな。
下手に深入りし、自ら危険に飛び込むような真似だけはしたくない。運が悪ければ、命を無くす場合もあり得るのだ。
「……気が進まないけど、あたし暗くなる前にお風呂入っちゃおうかな。乃亜ちゃん、今日も一緒に入ろ? 一人だと怖いし」
「はい、構いませんが……」
ぼんやりとした表情のまま桜に向き直り、蓮田は小さく頷く。
「あ、でも、お願いだから昨日みたいに勝手にいなくならないでね? 出るときはちゃんと声かけること。良い? 絶対に約束してね?」
「はぁ」
昨夜の入浴時を思い出し、念を押すように言いながら後輩へ指を近づける桜。
言われた本人は不思議そうにその指を見つめていたが、すぐに俺と部長へ意識を逸らしてきた。
「それでは、失礼します」
ぼそりと短く告げ立ち上がり、蓮田は足音もなく入り口へ歩きだす。
「あ、ちょっと待ってよ乃亜ちゃん。えっと、じゃあまた後でね」
慌てて後輩の後を追いながら桜はこちらへ手を振り、そのまま入り口の扉を閉め足音だけを響かせ隣の部屋へ戻っていった。
取り残されたのは、男二人。
「……部長、本っ当に事件に関わろうとか考えてるんすか?」
しばらくの静寂の後、俺は探るようにそう訊ねた。
「無理をしない範囲で、だよ。村の言い伝えと殺人事件がリンクしてるなら、嫌でも情報は集まっちゃうだろうし、どのみち無視はできないと思うんだ」
もはや見慣れたにやつき顔を貼り付けて、部長は躊躇う様子もなく答えてくる。
「神像については、タイミングを見て渡辺さんや他の人に話を聞いてみよう。千賀子さんからも言い伝えについて詳しく教えてほしいけど、ショックが大きそうならさすがにすぐには無理かもね。事件そのものに関しては枝橋さんに当たるのが一番妥当だと思う。目下の予定としては、これらの聞き込みになりそうかな」
一息に告げて、部長はにこやかに湯飲みを口へ近づける。
そんな我が部の大将をじと目で見ながら、俺は陰鬱な気分を味わう。
殺人事件に巻き込まれてしまうのがわかっていれば、こんな旅行もどきには来なかったのに。そんな後悔が今更ながらに生まれてくる。
「ところでどうだろう、僕たちも今のうちにお風呂入っておこうか?」
そんなこちらの胸中など理解することもなく、部長は呑気な声を響かせながら一気にお茶を飲み干した。
少しくらいは話に耳を傾けているかと思ったが、予想以上に無関心な様子で窓の外を眺めていた。
仕方なく部長と桜に目を戻し、会話を続ける。
「渡辺さん、壊された像を見て悪霊が目覚めたって、そう呟いてました」
「……悪霊?」
「何それ、気持ち悪い」
部長と幼なじみ、それぞれが顔をしかめて呻く。
「俺も、何のことだろうとは思ったんですけど、とてもそんなこと訊いてる場合じゃなかったし、ばたばたしてるうちに忘れちゃってて……」
「悪霊、かぁ。藤守神社は確か、言い伝えに出てくる村娘の怨念を鎮めるために建てられたんだったよね? だとしたら、その壊された神像は死んだ村娘を象徴していた可能性がある。それが壊されたことで、中に封じていた怨霊が解き放たれた。たぶん渡辺さんが言ったのは、そんな感じのことかな。僕の勝手な想像だけど」
新しく煎れたお茶を音を立ててすすり、部長はふぅっと息をつく。
「え? まさか本当に、碧さんは幽霊に殺されたってこと?」
あからさまに嫌そうな様子で胸元に手をやり、桜が言った。
「かもしれない……と言いたいところだけど、それはないでしょ。幽霊が人に刃物を刺すとは思えないし。ただ一つ言えるのは、犯人は本当に言い伝えを利用して殺人を犯した可能性が高まったってこと。わざわざ祀ってある神像を壊してみせたぐらいだからね」
確かに筋が通る話にはなってきたと、俺は胸中で納得する。
だがそれでも、まだうやむやな部分が多くしっくりこない気持ちがあるのも事実だった。
村の言い伝えになぞらえて殺人を実行して、犯人にどんなメリットがあるというのか。
何のために、碧さんを殺さなければならなかったのか。
そもそも、いつ、どこで殺されたのか。
そんな基本的な情報すらまだはっきりとしていない。
――つーか、これ以上俺らが首突っ込む必要があるのかもかなり疑問だけどな。
下手に深入りし、自ら危険に飛び込むような真似だけはしたくない。運が悪ければ、命を無くす場合もあり得るのだ。
「……気が進まないけど、あたし暗くなる前にお風呂入っちゃおうかな。乃亜ちゃん、今日も一緒に入ろ? 一人だと怖いし」
「はい、構いませんが……」
ぼんやりとした表情のまま桜に向き直り、蓮田は小さく頷く。
「あ、でも、お願いだから昨日みたいに勝手にいなくならないでね? 出るときはちゃんと声かけること。良い? 絶対に約束してね?」
「はぁ」
昨夜の入浴時を思い出し、念を押すように言いながら後輩へ指を近づける桜。
言われた本人は不思議そうにその指を見つめていたが、すぐに俺と部長へ意識を逸らしてきた。
「それでは、失礼します」
ぼそりと短く告げ立ち上がり、蓮田は足音もなく入り口へ歩きだす。
「あ、ちょっと待ってよ乃亜ちゃん。えっと、じゃあまた後でね」
慌てて後輩の後を追いながら桜はこちらへ手を振り、そのまま入り口の扉を閉め足音だけを響かせ隣の部屋へ戻っていった。
取り残されたのは、男二人。
「……部長、本っ当に事件に関わろうとか考えてるんすか?」
しばらくの静寂の後、俺は探るようにそう訊ねた。
「無理をしない範囲で、だよ。村の言い伝えと殺人事件がリンクしてるなら、嫌でも情報は集まっちゃうだろうし、どのみち無視はできないと思うんだ」
もはや見慣れたにやつき顔を貼り付けて、部長は躊躇う様子もなく答えてくる。
「神像については、タイミングを見て渡辺さんや他の人に話を聞いてみよう。千賀子さんからも言い伝えについて詳しく教えてほしいけど、ショックが大きそうならさすがにすぐには無理かもね。事件そのものに関しては枝橋さんに当たるのが一番妥当だと思う。目下の予定としては、これらの聞き込みになりそうかな」
一息に告げて、部長はにこやかに湯飲みを口へ近づける。
そんな我が部の大将をじと目で見ながら、俺は陰鬱な気分を味わう。
殺人事件に巻き込まれてしまうのがわかっていれば、こんな旅行もどきには来なかったのに。そんな後悔が今更ながらに生まれてくる。
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