坂宮高校ミスオカ研の事件録~藤咲村の惨劇~

雪鳴月彦

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第二章:悪霊の目覚め

第二章:悪霊の目覚め 31

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 白いカップに注がれたコーヒーが、目の前に置かれる。

「ありがとうございます」

 鼻孔に届くコーヒーの匂いが心地良い。

「本当に、みんな災難だったよねぇ。こんなタイミングで観光になんて来たばっかりに、訳わかんない事件に巻き込まれちゃってさ。正直な話、後悔してるでしょ? こんな村来なきゃ良かったって」

 再びデスクへ戻り、頬杖をつく恰好で俺たちを見ながら流森さんはそんなことを口にした。

「いや、そんな……。確かにタイミングは悪かったですけど、村自体は良い所ですし。ゆっくりいろいろと見て回る余裕がなくなったのが残念です」

 後悔していない、と言えば嘘になるのが本音だが、さすがにそんなことを言うのは失礼な気がする。

 当たり障りのない無難な返答をしてやり過ごすも、流森さんはこちらの心の中を見抜いている感じがした。

「そう言ってもらえるのはありがたいかな。変な言い伝えがある以外は平穏を絵に描いたような場所だったのに、どうしてこんなことになったんだろ。ましてや、あの碧さんが殺されるなんて理由が全然思いつかないよ」

 疲れを混ぜ込んだような吐息をつき、流森さんは自分のコーヒーに口をつける。

「晴也さん、相当参ってたよ。昨日は食事も取らないで、しばらくは碧さんが安置された蔵にいたみたいだし」

「碧さん夫婦は、普段から仲が良かったんですか?」

 子どもが産めないことを気にしていた碧さん。でも、晴也さんはそれを受け入れた上で愛していたと話を聞いた。

「うん、良かったよ。喧嘩とかしてるの、あたしは今まで見たことないし」

「でも、碧さんって赤ちゃん産めなかったんですよね?」

 訊いて良いのかどうかと、遠慮がちに桜が口を開く。

「うん、まぁ……ね。それに関しては村長が一番がっかりしてたかな。晴也さんや女将は、仕方ないっていつも慰めてたけど。でも、そんなことで殺されるなんてあるわけないし、そのことは事件と無関係だと思うよ」

「あ、いえ、そういうつもりで訊いたわけじゃないんですけど……」

 胸の前で手を広げ、言い淀むように桜が言う。

「別に、そんな顔しなくても大丈夫よ。他人のあたしが気にする話題でもないから」

 困る桜をフォローするように告げ、流森さんがまたコーヒーを口にしたときだった。

 突然、廊下から誰かが走ってくるような足音が響いてきた。

 何だろうと思いつつ気配を窺っていると、その足音は真っ直ぐに事務室へとやってきた。

 ノックもなく、おもむろにドアが開かれる。

「な、流森さん……!」

 現れたのは、由奈さんだった。肩で大きく息をしながら、切羽詰まった様子で部屋に入ってくる。

「由奈さん、そんなに慌ててどうしたの?」

 突然の事態に面食らった様子で、流森さんが椅子から腰を浮かす。

「それが、村長の家で、晴也さんが……」

 かなり混乱しているのか、由奈さんは言葉をもつれさせる。

「落ち着いて、由奈さん。何? 晴也さんがどうかした?」

 由奈さんの側へ寄り、流森さんはなだめるように肩へ手を添える。

 そんな彼女を間近に見つめ、由奈さんは絞り出すように声を押し出した。

「晴也さんが、蔵の中で死んでるの! 竜久さんが最初に気づいて、村長の家ばたばたし始めてる……」
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