82 / 173
第三章:藤花に消えた死体
第三章:藤花に消えた死体 17
しおりを挟む
ここで枝橋さんを少しでも説得なりしておければ、後々有益な話を聞かせてもらえる可能性が生まれる。
――部長の考えそうなことだな。
「まぁ、それくらいは構わないけど、なるべく人気のない場所には近づかないよう気をつけて。あと、日中ならまだ危険は少ないかもしれないけど、夜間は絶対に外出は控えて。もしどうしても出なきゃいけない用事がある場合は、誰か大人に声をかけるように。いいね?」
ピッと部長へ人差し指を向け、枝橋さんは言い聞かせるよう告げる。
「はい、それはもちろん」
素直に首肯し答えてから、部長は「あの……」と言って言葉を付け加える。
「もし今後、何か困ったことがあったときには、枝橋さんに相談させてもらっても大丈夫でしょうか?」
「うん?」
意図を汲みかねてか、言われた当人は小さく首を傾げる仕草をみせた。
「もしもですけど、事件に関して不審なことにたまたま気づいたとか、どうしても不安なことがあるってなったとき、枝橋さんに相談できたら心強いなと思ったので。迷惑ならもちろん控えます」
「それくらい、時間が取れればいつでもオーケーだよ。藤美壮にも巡回で立ち寄る予定だから、遠慮なく声かけて」
「はい、ありがとうございます」
これで最低でも一度は、枝橋さんへ話しかけるきっかけが作れた。
「……」
抜け目のないリーダーだななどと胸中で思いながら玄関に目をやると、俺たちを待っている昇さんが、引き戸に手をかけながらこちらのやり取りを眺めていた。
距離と声の大きさからして、話の内容を聞いていたとは思えない。
別に聞き耳を立てていたわけでもなく、純粋に話が終わるのを見守っていたという感じか。
「それじゃあ、また」
最後に軽く一礼して、部長が歩きだす。そのすぐ後ろを無言の蓮田がついていくのに倣って、俺と桜も昇さんの元へと向かった。
「……何言われたんだ?」
まだこちらを見ている枝橋さんを意識しながら、昇さんはそう問うてきた。
「いえ、あんまり事件には関わるなと少しだけ小言を。なんだか、みんなに同じことを言われちゃいますね」
普通そうだろうと内心苦笑しながら、俺は部長の頭を見やる。
「気にすることじゃねぇよ。邪魔してるわけでもねぇんだ。適当に聞き流しとけ、そんなもんは」
ガラガラと年季の入った音を立て、玄関が開かれた。
「靴は適当に脱いどきな。あいつの部屋は奥にある」
村長宅の玄関は、思っていた以上に広い空間になっていた。
入ってすぐ左手にある棚には、黄金の招き猫と鮭をくわえた木彫りの熊が、仲良く並んで飾られているのが目につく。
田舎の家独特の、何とも言えない古臭い匂いが鼻をつくが、不思議と不快にはならない。
家に上がってすぐ、正面と左手に伸びる廊下があり、左に向かう廊下は二十メートル先で行き止まりになっていた。
逆に、正面に続く廊下は奥まで長く伸び、突き当たりで左右に別れているのが確認できる。
その途中には、おそらくは座敷や茶室ではないかと思われる部屋の障子戸が、左右二部屋ずつ連なっていた。
「外から見ててわかってたけど、やっぱり広い家ね。薄暗くてちょっと気味悪いけど」
奥を眺める桜が、そんな感想を口にする。部屋と部屋に挟まれた廊下は、確かに昼間であっても薄暗い。
天井には古ぼけたような電球が取り付けてあるようだが、見た感じからして光量は弱々しいものだろう。
――部長の考えそうなことだな。
「まぁ、それくらいは構わないけど、なるべく人気のない場所には近づかないよう気をつけて。あと、日中ならまだ危険は少ないかもしれないけど、夜間は絶対に外出は控えて。もしどうしても出なきゃいけない用事がある場合は、誰か大人に声をかけるように。いいね?」
ピッと部長へ人差し指を向け、枝橋さんは言い聞かせるよう告げる。
「はい、それはもちろん」
素直に首肯し答えてから、部長は「あの……」と言って言葉を付け加える。
「もし今後、何か困ったことがあったときには、枝橋さんに相談させてもらっても大丈夫でしょうか?」
「うん?」
意図を汲みかねてか、言われた当人は小さく首を傾げる仕草をみせた。
「もしもですけど、事件に関して不審なことにたまたま気づいたとか、どうしても不安なことがあるってなったとき、枝橋さんに相談できたら心強いなと思ったので。迷惑ならもちろん控えます」
「それくらい、時間が取れればいつでもオーケーだよ。藤美壮にも巡回で立ち寄る予定だから、遠慮なく声かけて」
「はい、ありがとうございます」
これで最低でも一度は、枝橋さんへ話しかけるきっかけが作れた。
「……」
抜け目のないリーダーだななどと胸中で思いながら玄関に目をやると、俺たちを待っている昇さんが、引き戸に手をかけながらこちらのやり取りを眺めていた。
距離と声の大きさからして、話の内容を聞いていたとは思えない。
別に聞き耳を立てていたわけでもなく、純粋に話が終わるのを見守っていたという感じか。
「それじゃあ、また」
最後に軽く一礼して、部長が歩きだす。そのすぐ後ろを無言の蓮田がついていくのに倣って、俺と桜も昇さんの元へと向かった。
「……何言われたんだ?」
まだこちらを見ている枝橋さんを意識しながら、昇さんはそう問うてきた。
「いえ、あんまり事件には関わるなと少しだけ小言を。なんだか、みんなに同じことを言われちゃいますね」
普通そうだろうと内心苦笑しながら、俺は部長の頭を見やる。
「気にすることじゃねぇよ。邪魔してるわけでもねぇんだ。適当に聞き流しとけ、そんなもんは」
ガラガラと年季の入った音を立て、玄関が開かれた。
「靴は適当に脱いどきな。あいつの部屋は奥にある」
村長宅の玄関は、思っていた以上に広い空間になっていた。
入ってすぐ左手にある棚には、黄金の招き猫と鮭をくわえた木彫りの熊が、仲良く並んで飾られているのが目につく。
田舎の家独特の、何とも言えない古臭い匂いが鼻をつくが、不思議と不快にはならない。
家に上がってすぐ、正面と左手に伸びる廊下があり、左に向かう廊下は二十メートル先で行き止まりになっていた。
逆に、正面に続く廊下は奥まで長く伸び、突き当たりで左右に別れているのが確認できる。
その途中には、おそらくは座敷や茶室ではないかと思われる部屋の障子戸が、左右二部屋ずつ連なっていた。
「外から見ててわかってたけど、やっぱり広い家ね。薄暗くてちょっと気味悪いけど」
奥を眺める桜が、そんな感想を口にする。部屋と部屋に挟まれた廊下は、確かに昼間であっても薄暗い。
天井には古ぼけたような電球が取り付けてあるようだが、見た感じからして光量は弱々しいものだろう。
0
あなたにおすすめの小説
小説探偵
夕凪ヨウ
ミステリー
20XX年。日本に名を響かせている、1人の小説家がいた。
男の名は江本海里。素晴らしい作品を生み出す彼には、一部の人間しか知らない、“裏の顔”が存在した。
そして、彼の“裏の顔”を知っている者たちは、尊敬と畏怖を込めて、彼をこう呼んだ。
小説探偵、と。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~
水無月礼人
ミステリー
子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。
故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。
嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。
不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。
※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。
【アルファポリス】でも公開しています。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる