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第三章:藤花に消えた死体
第三章:藤花に消えた死体 23
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【6】
午後零時四十五分。
藤美荘の駐車場で待つ俺たちの元へやってきた昇さんの手には、渡辺さんが所有している車の鍵が握られていた。
「待たせたな」
彼一人で来たということは、竜久さんは千賀子さんの部屋にもいなかったと解釈すべきか。
「千賀子さんの様子はどうでしたか?」
車の鍵を開ける昇さんの背中に、部長が問う。
「かなり酷いぜ。村の婆さんが二人ほど側に付き添ってたけど、水すらまともに口にしねぇ状態だと。ほれ、適当に乗れ」
促され、助手席に部長、後部座席には蓮田、桜、俺の順でそれぞれ腰を落ち着ける。
「たった二日間くらいの間に家族が二人も死んじゃったら、普通はまともじゃいられないよね。あたしがもしお父さんとお母さんに突然死なれたら、千賀子さんと同じような感じになるかも……」
哀れむような様子で村長宅の方を見つめ、桜は自分の胸元に置いた手のひらをギュッと握りしめた。
そんな彼女の声をかき消すようにエンジンがかかり、車が走りだす。
「渡辺さんに車貸してくれって頼んだら、は? って顔されたよ」
走り始めてすぐ。
まるでドライブにでも出かけるような気楽な口調で、昇さんはバックミラー越しに後部座席の女子に笑いかけてくる。
「事情は説明しといたけど、流森さんと野島さんはあからさまに嫌な顔してたな。きみらのこと、真面目に心配してくれてるみたいだぜ?」
「大抵はそれが普通だと思いますけど……」
会話をする、というよりは反発をするような棘のある発音で、桜が返す。
「ははは、そりゃまぁ、そうか。でも、女は特にそういう傾向あるよな。いちいちオーバーっつうか。関係ない話だけど、肝試しとか行くとさ、ちょっとしたことでキャーキャー騒ぐだろ? 昔よ、よくつるんでた仲間と肝試しに行ったことあるけど、お前らさすがに大袈裟過ぎるだろとか思いながら、心霊スポット歩いてたことあるわ」
「……いっそ、とり憑かれたら良かったのに」
「ん?」
「いえ、なんでもないです」
かなりの小声で吐き出された嫌味は、俺の――たぶん蓮田にも――耳にだけ届いて消えたようで、昇さんは特に気にする風でもなく上機嫌に口角を上げ続けていた。
藤守神社と巨大藤に続く細道へ車が入る。
ここからはしばらく、あのじめじめした陰鬱な空間が続く。
犯人がこんな場所を死体を連れて移動していたかもしれないと想像すると、その現実とはかけ離れた異常さに寒気が走る。
――ましてや、犯人が動いてたのは夜だもんな。
万が一、そんな状況で遭遇することがあったら、とても正気ではいられない。
そんな不穏な想像を膨らませつつ一人眉をしかめ、俺はじっとりと湿ったような草葉が連なる光景を眺めていた。
藤美荘を出て約十五分程で、藤守神社の前まで到着する。
碧さんの遺体を発見したとき、昇さんが村に連絡をしに行ったことをふと思い出す。
あのときも確か、村長たちを連れて戻ってくるのに三十分くらいかかっていたはずだ。
当然あのときは急いでいただろうから、今よりも車のスピードは出ていたかもしれないが、それでも片道十分前後はかかってしまう距離だろう。
――蓮田と歩いてなんか来てたら、何分かかってたんだか……。
今思い返せば、渡辺さんが通りかかってくれたことは本当に幸運なことだったんだと、あらためて実感した。
午後零時四十五分。
藤美荘の駐車場で待つ俺たちの元へやってきた昇さんの手には、渡辺さんが所有している車の鍵が握られていた。
「待たせたな」
彼一人で来たということは、竜久さんは千賀子さんの部屋にもいなかったと解釈すべきか。
「千賀子さんの様子はどうでしたか?」
車の鍵を開ける昇さんの背中に、部長が問う。
「かなり酷いぜ。村の婆さんが二人ほど側に付き添ってたけど、水すらまともに口にしねぇ状態だと。ほれ、適当に乗れ」
促され、助手席に部長、後部座席には蓮田、桜、俺の順でそれぞれ腰を落ち着ける。
「たった二日間くらいの間に家族が二人も死んじゃったら、普通はまともじゃいられないよね。あたしがもしお父さんとお母さんに突然死なれたら、千賀子さんと同じような感じになるかも……」
哀れむような様子で村長宅の方を見つめ、桜は自分の胸元に置いた手のひらをギュッと握りしめた。
そんな彼女の声をかき消すようにエンジンがかかり、車が走りだす。
「渡辺さんに車貸してくれって頼んだら、は? って顔されたよ」
走り始めてすぐ。
まるでドライブにでも出かけるような気楽な口調で、昇さんはバックミラー越しに後部座席の女子に笑いかけてくる。
「事情は説明しといたけど、流森さんと野島さんはあからさまに嫌な顔してたな。きみらのこと、真面目に心配してくれてるみたいだぜ?」
「大抵はそれが普通だと思いますけど……」
会話をする、というよりは反発をするような棘のある発音で、桜が返す。
「ははは、そりゃまぁ、そうか。でも、女は特にそういう傾向あるよな。いちいちオーバーっつうか。関係ない話だけど、肝試しとか行くとさ、ちょっとしたことでキャーキャー騒ぐだろ? 昔よ、よくつるんでた仲間と肝試しに行ったことあるけど、お前らさすがに大袈裟過ぎるだろとか思いながら、心霊スポット歩いてたことあるわ」
「……いっそ、とり憑かれたら良かったのに」
「ん?」
「いえ、なんでもないです」
かなりの小声で吐き出された嫌味は、俺の――たぶん蓮田にも――耳にだけ届いて消えたようで、昇さんは特に気にする風でもなく上機嫌に口角を上げ続けていた。
藤守神社と巨大藤に続く細道へ車が入る。
ここからはしばらく、あのじめじめした陰鬱な空間が続く。
犯人がこんな場所を死体を連れて移動していたかもしれないと想像すると、その現実とはかけ離れた異常さに寒気が走る。
――ましてや、犯人が動いてたのは夜だもんな。
万が一、そんな状況で遭遇することがあったら、とても正気ではいられない。
そんな不穏な想像を膨らませつつ一人眉をしかめ、俺はじっとりと湿ったような草葉が連なる光景を眺めていた。
藤美荘を出て約十五分程で、藤守神社の前まで到着する。
碧さんの遺体を発見したとき、昇さんが村に連絡をしに行ったことをふと思い出す。
あのときも確か、村長たちを連れて戻ってくるのに三十分くらいかかっていたはずだ。
当然あのときは急いでいただろうから、今よりも車のスピードは出ていたかもしれないが、それでも片道十分前後はかかってしまう距離だろう。
――蓮田と歩いてなんか来てたら、何分かかってたんだか……。
今思い返せば、渡辺さんが通りかかってくれたことは本当に幸運なことだったんだと、あらためて実感した。
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