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第三章:藤花に消えた死体
第三章:藤花に消えた死体 22
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特に深く考えてもいない様子で簡単に告げる村長の甥へ、部長は何かを期待するような目線を向ける。
「でも、家の中にはいないわけですよね? 殺人事件が起きてる場所で突然いなくなるなんて、僕には不自然な気がするんですよ」
「……何が言いたいんだ?」
「昇さん、もし迷惑でなければ僕たちを、巨大藤まで連れていってもらえませんか? この花弁も気にかかるし、巨大藤をもう一度よく見てみたいと思っていたので」
「……」
他人を値踏みするときのような仕草で眼球を動かし、昇さんはしばらく部長をねめつける。
さすがに図々し過ぎたのではないか。そんな不安が胸中に浮き上がりヒヤヒヤしかけたが、覚悟していたのとは裏腹に肯定的な返事が返されてきた。
「……俺個人の車はねぇから、渡辺さんの借りるか」
二日目の朝に乗せてもらった、あの車のことか。蓮田と二人で散歩をしたときのことが脳裏に巡る。
「ありがとうございます。すみません、勝手なことを頼んでしまって」
「良いさ。もともと暇だし、勝手にいなくなる竜久の責任だ」
上辺だけの部長の謝辞に、肩を竦めて答えてみせ、
「あんなつまらん場所行くなら、釣りにでも連れて行きてぇとこだけど。外出たら、藤美荘の駐車場で待ってな。渡辺さんに話してくるからよ」
昇さんはそう続けた。
「はい、わかりました」
頷いて、部長はほんの微かに微笑を深める。
してやったり、とでも思っているのかと呆れともつかない感想を抱くが、あえて気づかないふりをしておいた。
「それじゃあ、外へ戻ろうか。無意味にうろうろしていても申し訳ないし。ほら、蓮田くんも部屋から出て」
部長の一声で、全員玄関へと引き返しはじめる。
念のためと、最後に昇さんが自室を覗いて確かめたがやはり誰の姿もないようで、すぐに顔を引っ込めた。
「なんか無駄骨ばっかり。竜久さん、どこにいるんだろ」
古い木の床を踏みしめながら、愚痴るような含みを持たせ桜がぼやいた。
「さぁ、案外その辺にいそうな気がするけどな」
適当に告げ、縁側から見える庭を眺める。
蔵とは反対側であるため人気はなく、花壇に植えられた黄色い花が、太陽の光を浴びて気持ち良さげに並んでいるだけの景色だった。
「ちと婆さんの部屋も見てくるから、先に行ってろ。車のキー借りたら合流するからよ」
玄関に到着すると同時に、昇さんはあの押し殺したような泣き声が聞こえた部屋の方向を示して、そんなことを言った。
「あ、はい」
返事をしながら、やはりあれは千賀子さんの漏らす声で間違いなかったかと納得する。
「じゃあ、言われた通りに僕たちは駐車場へ移動しよう」
一同靴を履き終え、外へ出る。
蔵の付近は、やはりまだ人がいる。
「こんだけ人がいたら、誰かが気づくよな」
「竜久さんのことかい?」
独り言のつもりだったが、反応したのは部長だった。
「ええ。玄関に竜久さんのものらしき靴も確かに残ってますし、やっぱりまだ中にいるってことなんじゃないかなって」
振り返り、玄関に置かれた靴を見る。
使っていない長靴などに混じって、あからさまに若者向けの靴が一足置いてある。昇さんの靴ではないし、村長や晴也さんが履く柄とも思えない。
つまりは、消去法でいけば竜久さんの私物だ。
「案外、千賀子さんの部屋にいたりするんじゃない? 何だかんだで、お母さんを心配したりして」
周囲で動き回る大人たちを眺めながら、桜が告げる。
「うん、それならそれで何事もなくて結構だ。そのときは竜久さんも一緒に来るだろうから、巨大藤の調査がてらにまたいろいろと話を聞かせてもらおう」
吹き抜ける温い風に目をすがめつつ、部長が話をまとめる。
周りの村民からすれば面倒なガキたちだと思われてやしないかと、ここまでの部長の言動に今更ながらそんな不安に苛まれる。
知らず口元を歪めそうになりながら、俺は村長宅の門をくぐり外へ出た。
「でも、家の中にはいないわけですよね? 殺人事件が起きてる場所で突然いなくなるなんて、僕には不自然な気がするんですよ」
「……何が言いたいんだ?」
「昇さん、もし迷惑でなければ僕たちを、巨大藤まで連れていってもらえませんか? この花弁も気にかかるし、巨大藤をもう一度よく見てみたいと思っていたので」
「……」
他人を値踏みするときのような仕草で眼球を動かし、昇さんはしばらく部長をねめつける。
さすがに図々し過ぎたのではないか。そんな不安が胸中に浮き上がりヒヤヒヤしかけたが、覚悟していたのとは裏腹に肯定的な返事が返されてきた。
「……俺個人の車はねぇから、渡辺さんの借りるか」
二日目の朝に乗せてもらった、あの車のことか。蓮田と二人で散歩をしたときのことが脳裏に巡る。
「ありがとうございます。すみません、勝手なことを頼んでしまって」
「良いさ。もともと暇だし、勝手にいなくなる竜久の責任だ」
上辺だけの部長の謝辞に、肩を竦めて答えてみせ、
「あんなつまらん場所行くなら、釣りにでも連れて行きてぇとこだけど。外出たら、藤美荘の駐車場で待ってな。渡辺さんに話してくるからよ」
昇さんはそう続けた。
「はい、わかりました」
頷いて、部長はほんの微かに微笑を深める。
してやったり、とでも思っているのかと呆れともつかない感想を抱くが、あえて気づかないふりをしておいた。
「それじゃあ、外へ戻ろうか。無意味にうろうろしていても申し訳ないし。ほら、蓮田くんも部屋から出て」
部長の一声で、全員玄関へと引き返しはじめる。
念のためと、最後に昇さんが自室を覗いて確かめたがやはり誰の姿もないようで、すぐに顔を引っ込めた。
「なんか無駄骨ばっかり。竜久さん、どこにいるんだろ」
古い木の床を踏みしめながら、愚痴るような含みを持たせ桜がぼやいた。
「さぁ、案外その辺にいそうな気がするけどな」
適当に告げ、縁側から見える庭を眺める。
蔵とは反対側であるため人気はなく、花壇に植えられた黄色い花が、太陽の光を浴びて気持ち良さげに並んでいるだけの景色だった。
「ちと婆さんの部屋も見てくるから、先に行ってろ。車のキー借りたら合流するからよ」
玄関に到着すると同時に、昇さんはあの押し殺したような泣き声が聞こえた部屋の方向を示して、そんなことを言った。
「あ、はい」
返事をしながら、やはりあれは千賀子さんの漏らす声で間違いなかったかと納得する。
「じゃあ、言われた通りに僕たちは駐車場へ移動しよう」
一同靴を履き終え、外へ出る。
蔵の付近は、やはりまだ人がいる。
「こんだけ人がいたら、誰かが気づくよな」
「竜久さんのことかい?」
独り言のつもりだったが、反応したのは部長だった。
「ええ。玄関に竜久さんのものらしき靴も確かに残ってますし、やっぱりまだ中にいるってことなんじゃないかなって」
振り返り、玄関に置かれた靴を見る。
使っていない長靴などに混じって、あからさまに若者向けの靴が一足置いてある。昇さんの靴ではないし、村長や晴也さんが履く柄とも思えない。
つまりは、消去法でいけば竜久さんの私物だ。
「案外、千賀子さんの部屋にいたりするんじゃない? 何だかんだで、お母さんを心配したりして」
周囲で動き回る大人たちを眺めながら、桜が告げる。
「うん、それならそれで何事もなくて結構だ。そのときは竜久さんも一緒に来るだろうから、巨大藤の調査がてらにまたいろいろと話を聞かせてもらおう」
吹き抜ける温い風に目をすがめつつ、部長が話をまとめる。
周りの村民からすれば面倒なガキたちだと思われてやしないかと、ここまでの部長の言動に今更ながらそんな不安に苛まれる。
知らず口元を歪めそうになりながら、俺は村長宅の門をくぐり外へ出た。
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