坂宮高校ミスオカ研の事件録~藤咲村の惨劇~

雪鳴月彦

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第三章:藤花に消えた死体

第三章:藤花に消えた死体 25

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 おそるおそる声をかけ、昇さんは竜久さんの頭を揺する。

 それから、首元の花房を払いのけると、脈を測るようにそっと喉の辺りに手を当てた。

「……脈がねぇ。死んでやがる」

 呻くように告げて、昇さんは屈めていた身体を戻すと、怪訝そうな顔で周囲を窺った。

「どういうことだ? 何で竜久がこんな場所に……」

 難しい表情で何事かを思案する彼の横に、追いついた蓮田が無言で並んだ。

「お、おい、下手に触ったりすんなよ」

 かけられる声には反応せず、蓮田は竜久さんを見つめ、それから花房の山とその周辺をゆったりとした動作で眺める。

「とりあえず、誰か呼んできた方が良いのでは?」

 そんな後輩を尻目に、冷静な言葉を部長が口にした。

「あ、ああ……そうか。そうだな。とりあえず家に戻って、自警団の連中に伝えるか」

 自分に言い聞かせるよう声に出しそう言うと、昇さんは俺たち一同へ車を指差し戻るよう促す。

「お前らも車に乗れ。さすがに、残して行くわけにはいかねぇからよ」

 ここは素直に従っておかなければ問題になるか。

 判断を仰ぐ意味も込めて、部長と視線を交わす。

 ほんの僅かに逡巡する素振りを見せたが、部長はすぐに頷いた。

「桜、戻るぞ。立てるか?」

 腰を抜かしたようにへたり込んだままの幼なじみの肩を叩き、呼びかける。

 間近で見てしまった死体に完全に放心状態となった桜は、身動きできぬまま見開いた瞳に涙を浮かべている。

 出会ったばかりの他人とは言え、死んだ姿を目の当たりにしてしまった以上、日常と変わらない対応を期待する方が酷か。

「無理矢理でもいいから立たせろよ。一人だけ置いていくなんてしたくねぇんだろ?」

「わかってますよ」

 急かすような昇さんの言葉に、若干のイラつきを覚える。

 ただの女子高生に過ぎない少女が、ショックを受けて動けずにいるのだ。

 普通こういう場合、年長者が率先して肩を貸すくらいの気配りはしてくれても良いのではないのか。

 そんな毒づきを胸中でしつつ、部長と二人で桜を立ち上がらせる。

「さぁ、ゆっくりで大丈夫だから車に戻ろう。蓮田くんもこっちへ」

 まだ死体の周りを彷徨いていた後輩にも、部長は戻るよう指示をだした。

 足元に見える血に染まった顔をもう一度だけ確認し、蓮田はこちらへ身体を向けた。

 いったい、何を思って周囲を観察などしていたのか。

 その無表情さからは何一つ読み取ることはできなかったが、今はこの場を離れ人を呼ぶことが先決だ。

 桜のことも部屋に戻らせて、しばらくは安静にさせておかなければいけない。

 掴む桜の腕が、痙攣したように揺れている。

 先に車へ走っていった昇さんがエンジンをかけ、車体を方向転換させた。

「さぁ、桜くん」

 後部座席のドアを開け、部長が桜の背中に手を添える。

 おぼつかない足取りで車内に入る桜を確認しドアを閉め、反対側から俺と蓮田が乗り込んだ。

「少しだけとばすぞ」

 助手席に部長が座るのを横目で見て、昇さんがアクセルを強く踏む。

 またも薄暗い木々のトンネルを進むなか、言葉に変換できない重い空気が沈黙したままのし掛かる。

 隣の桜は無言で背中を丸め、蒼白になりながらきつく目を瞑っている。

 その背へそっと手をやって、少しでも気分を落ち着けることができればと優しく擦ってやりながら、俺は鼻から深く息をついた。
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