93 / 173
第三章:藤花に消えた死体
第三章:藤花に消えた死体 28
しおりを挟む
「この子、藤の木の近くに何か忘れもんしたって言ってんだけど、どうしたもんかな?」
「忘れ物?」
訝しく思いながら、蓮田へ顔を向ける。
彼女は無言を一貫したままこちらと視線を合わせ、ただじっと見つめ返してくるだけだったが。
息を吐き、仕方なく自分から声をかける。
「蓮田、忘れもんって、いったい何を置いてきたんだ?」
竜久さんの遺体を観察し、その周囲をうろうろしていたのを思いだす。
落し物でもしたとすればあのタイミングだと予測できるが、果たして彼女に落すような荷物があっただろうか。
いつも持ち歩いている黄色のポーチは、今も本人の膝の上だ。
ポケットにでも入れていた何かを、偶然落っことしたという可能性くらいしか思いつかないが、どうにもピンとこない。
そんな俺の疑問に対する蓮田からの回答は、
「……大事なものです」
というシンプル極まりないものであった。
「いや、そりゃ取りに戻るくらいだから大事なものだろうけどよ。いったいそれが何なのかって――」
訊いてるんだよ。
そう言い終える前に。
蓮田が、俺の瞳を真っ直ぐに見つめたまま後部座席、自分の横をポンポンと静かに叩いた。
「よろしければ、長沢先輩も一緒にどうぞ……」
「――はぁ?」
思わず間抜けな声を出しながら、叩かれたシートと後輩の能面顔とを見比べる。
「一緒にって、お前なぁ、こんなときにそんな呑気なこと言うんじゃねぇよ」
「いや、話が長引くんだったら、いっそ乗ってくれねぇかな?」
俺らのやり取りを遮るように声を割り込ませ、そう告げたのは昇さんだった。
「ここでもたもたされてもこっちが困るしよ。てか、その子のことも連れて行くんなら、見ててくれると助かんだわ」
「はぁ……」
反論の余地を見逃し、曖昧に返事をする。それからまた後輩へ目を戻し、意思確認の意味で問いかける。
「蓮田、お前本気であそこに戻るつもりか? 最悪、いや、確実にみんなの邪魔になるぞ?」
「……大丈夫です。用が済んだら、車の中で大人しくしています」
すまし顔で、さらりと答える蓮田。
「……絶対だな?」
「はい」
また勝手に動き回られては堪らないと念を押す俺にコクリと頷き、蓮田はまた外へ顔を背けてしまう。
仕方なく昇さんへ視線を戻すと、どうしようもないなと言いたげに肩を竦めて見せてくる。
一度藤美荘を振り返り、自分の選ぶべき選択肢を頭に浮かべた。
――どうしようもねぇな。
今、蓮田のお目付け役には自分しかなれない。
桜には部長が付き添っているし、由奈さんたちも近くにいる。
「……俺も、一緒に行かせてもらいます」
「おう、早く乗りな」
覚悟を決めて告げる俺に、昇さんが後部座席を顎で示した。
すぐに乗り込み、発車の振動に揺られながらシートベルトを締めた。
「枝橋さんあたりに説教されても、自己責任で対処してくれよ。あいつに何だかんだ言われるのは、煩わしくてマジで嫌だから」
「まぁ、なんとかやってみます」
前方を見つめたまま言ってくる昇さんに頷きながら答え、横に座る後輩の様子を確かめる。
「……」
「忘れ物?」
訝しく思いながら、蓮田へ顔を向ける。
彼女は無言を一貫したままこちらと視線を合わせ、ただじっと見つめ返してくるだけだったが。
息を吐き、仕方なく自分から声をかける。
「蓮田、忘れもんって、いったい何を置いてきたんだ?」
竜久さんの遺体を観察し、その周囲をうろうろしていたのを思いだす。
落し物でもしたとすればあのタイミングだと予測できるが、果たして彼女に落すような荷物があっただろうか。
いつも持ち歩いている黄色のポーチは、今も本人の膝の上だ。
ポケットにでも入れていた何かを、偶然落っことしたという可能性くらいしか思いつかないが、どうにもピンとこない。
そんな俺の疑問に対する蓮田からの回答は、
「……大事なものです」
というシンプル極まりないものであった。
「いや、そりゃ取りに戻るくらいだから大事なものだろうけどよ。いったいそれが何なのかって――」
訊いてるんだよ。
そう言い終える前に。
蓮田が、俺の瞳を真っ直ぐに見つめたまま後部座席、自分の横をポンポンと静かに叩いた。
「よろしければ、長沢先輩も一緒にどうぞ……」
「――はぁ?」
思わず間抜けな声を出しながら、叩かれたシートと後輩の能面顔とを見比べる。
「一緒にって、お前なぁ、こんなときにそんな呑気なこと言うんじゃねぇよ」
「いや、話が長引くんだったら、いっそ乗ってくれねぇかな?」
俺らのやり取りを遮るように声を割り込ませ、そう告げたのは昇さんだった。
「ここでもたもたされてもこっちが困るしよ。てか、その子のことも連れて行くんなら、見ててくれると助かんだわ」
「はぁ……」
反論の余地を見逃し、曖昧に返事をする。それからまた後輩へ目を戻し、意思確認の意味で問いかける。
「蓮田、お前本気であそこに戻るつもりか? 最悪、いや、確実にみんなの邪魔になるぞ?」
「……大丈夫です。用が済んだら、車の中で大人しくしています」
すまし顔で、さらりと答える蓮田。
「……絶対だな?」
「はい」
また勝手に動き回られては堪らないと念を押す俺にコクリと頷き、蓮田はまた外へ顔を背けてしまう。
仕方なく昇さんへ視線を戻すと、どうしようもないなと言いたげに肩を竦めて見せてくる。
一度藤美荘を振り返り、自分の選ぶべき選択肢を頭に浮かべた。
――どうしようもねぇな。
今、蓮田のお目付け役には自分しかなれない。
桜には部長が付き添っているし、由奈さんたちも近くにいる。
「……俺も、一緒に行かせてもらいます」
「おう、早く乗りな」
覚悟を決めて告げる俺に、昇さんが後部座席を顎で示した。
すぐに乗り込み、発車の振動に揺られながらシートベルトを締めた。
「枝橋さんあたりに説教されても、自己責任で対処してくれよ。あいつに何だかんだ言われるのは、煩わしくてマジで嫌だから」
「まぁ、なんとかやってみます」
前方を見つめたまま言ってくる昇さんに頷きながら答え、横に座る後輩の様子を確かめる。
「……」
0
あなたにおすすめの小説
小説探偵
夕凪ヨウ
ミステリー
20XX年。日本に名を響かせている、1人の小説家がいた。
男の名は江本海里。素晴らしい作品を生み出す彼には、一部の人間しか知らない、“裏の顔”が存在した。
そして、彼の“裏の顔”を知っている者たちは、尊敬と畏怖を込めて、彼をこう呼んだ。
小説探偵、と。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~
水無月礼人
ミステリー
子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。
故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。
嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。
不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。
※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。
【アルファポリス】でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる