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第四章:矛盾の解明
第四章:矛盾の解明 28
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【10】
渡辺が梅木家の蔵へ向かったときには、既に村長の遺体は床へ下ろされ白いシーツを被せられていた。
狭くはないが、決して広いとも言えない蔵の中には、渡辺を含め四人の人間が立っている。
全員息を詰めたように深刻な表情で疲れを滲ませ、シーツを被せた三つの塊を見下ろしていた。
「……何なんだろうな、これは」
雀の鳴き声だけが入り込む蔵の中、自警団の呟きが頼りなく反響する。
「犯人の奴は、梅木家にどんな恨みがあるんだ? この村で、殺さなきゃならんほど繁信たちを嫌ってた奴がいたか?」
遺体から周囲に視線を這わせ、初老の男が問う。
「いえ、少なくとも自分には見当がつきませんね。確かに吉田さんや他一部の人たちとは不仲な部分がありましたが、殺人を犯してしまうほどの殺意を抱いていたとは到底思えません。まして、村長一人ではなく一家をターゲットにしているのなら尚更動機が浮かばない」
顎に手をやり、枝橋が唸る。
この青年が元警察だというのは、村人全員が把握している。
故に、二年前ここへ越してきた当時はことあるごとに頼りにされ、まるで村に駐在所ができたみたいだと喜ぶ者もいたのだ。
ただ、越してきて半年くらい過ぎた頃だったか、一緒にこの村へ来た妻を病気で亡くし一時期は自宅に引きこもっていたことがあった。
近所の住民も心配し、毎日のように差し入れを持っていったりしながら様子を見ていたらしいが、本格的に立ち直る兆しを見せたのは妻がいなくなってさらに半年は経過した頃だっただろう。
渡辺自身はその件に深く関わっていなかったので、詳しいことは知らない。
所詮は又聞きしただけの情報にすぎないが、今こうして伴侶の死を乗り越えここにいるということは尊敬できることであり、同時に年長者としてはみじめな気分にもなってしまう。
「そういえば……」
思考を切り替えるため、渡辺は意識を現実に戻す。
「さっき野島さんから聞いたんですけど、吉田さん今日娘さんの家から戻る予定らしいですよ。うまくいけば、早い段階で救助が来てくれるかもしれないって」
泊まりにきている学生たちへ朝食の準備をしている最中、そんな話を教えてもらった。
「ああ、そういえばそんなことを言っていましたね。吉田さんが戻ってきてくれるなら、橋の件にも気づいてもらえる。確かに、少しは希望が湧いてくる話です」
枝橋は渡辺を見つめ返し、大きく頷いた。
「それじゃあ、もうこれ以上面倒な事件は起きないってことか。ったく、やっと一息つけるぜ」
枝橋とやり取りをする渡辺の背後で、昇が独り言のような呟きを吐いたのが聞こえた。
渡辺同様、他の二人にも聞こえたらしく、睨むようにして村長の甥を見つめる。
「昇さん、自分の親族が殺されているのにそんな言葉はないでしょう。まして村長はあなたを家に招き入れてくれた恩人のはずだ。もう少し――」
「あー、はい、わかってますよ」
話しかける枝橋を両掌で制し、昇は小刻みに首を揺らす。
「もちろん爺さんには感謝してるし、恩もある。俺が言いたいのは、さっさと警察が来てくれるなら犯人も捕まるだろうし、残ってる婆さんや俺も安心できるって話です。殺されたこの人らだって、いつまでもこんな所に寝かされてたら嫌なはずでしょう?」
渡辺が梅木家の蔵へ向かったときには、既に村長の遺体は床へ下ろされ白いシーツを被せられていた。
狭くはないが、決して広いとも言えない蔵の中には、渡辺を含め四人の人間が立っている。
全員息を詰めたように深刻な表情で疲れを滲ませ、シーツを被せた三つの塊を見下ろしていた。
「……何なんだろうな、これは」
雀の鳴き声だけが入り込む蔵の中、自警団の呟きが頼りなく反響する。
「犯人の奴は、梅木家にどんな恨みがあるんだ? この村で、殺さなきゃならんほど繁信たちを嫌ってた奴がいたか?」
遺体から周囲に視線を這わせ、初老の男が問う。
「いえ、少なくとも自分には見当がつきませんね。確かに吉田さんや他一部の人たちとは不仲な部分がありましたが、殺人を犯してしまうほどの殺意を抱いていたとは到底思えません。まして、村長一人ではなく一家をターゲットにしているのなら尚更動機が浮かばない」
顎に手をやり、枝橋が唸る。
この青年が元警察だというのは、村人全員が把握している。
故に、二年前ここへ越してきた当時はことあるごとに頼りにされ、まるで村に駐在所ができたみたいだと喜ぶ者もいたのだ。
ただ、越してきて半年くらい過ぎた頃だったか、一緒にこの村へ来た妻を病気で亡くし一時期は自宅に引きこもっていたことがあった。
近所の住民も心配し、毎日のように差し入れを持っていったりしながら様子を見ていたらしいが、本格的に立ち直る兆しを見せたのは妻がいなくなってさらに半年は経過した頃だっただろう。
渡辺自身はその件に深く関わっていなかったので、詳しいことは知らない。
所詮は又聞きしただけの情報にすぎないが、今こうして伴侶の死を乗り越えここにいるということは尊敬できることであり、同時に年長者としてはみじめな気分にもなってしまう。
「そういえば……」
思考を切り替えるため、渡辺は意識を現実に戻す。
「さっき野島さんから聞いたんですけど、吉田さん今日娘さんの家から戻る予定らしいですよ。うまくいけば、早い段階で救助が来てくれるかもしれないって」
泊まりにきている学生たちへ朝食の準備をしている最中、そんな話を教えてもらった。
「ああ、そういえばそんなことを言っていましたね。吉田さんが戻ってきてくれるなら、橋の件にも気づいてもらえる。確かに、少しは希望が湧いてくる話です」
枝橋は渡辺を見つめ返し、大きく頷いた。
「それじゃあ、もうこれ以上面倒な事件は起きないってことか。ったく、やっと一息つけるぜ」
枝橋とやり取りをする渡辺の背後で、昇が独り言のような呟きを吐いたのが聞こえた。
渡辺同様、他の二人にも聞こえたらしく、睨むようにして村長の甥を見つめる。
「昇さん、自分の親族が殺されているのにそんな言葉はないでしょう。まして村長はあなたを家に招き入れてくれた恩人のはずだ。もう少し――」
「あー、はい、わかってますよ」
話しかける枝橋を両掌で制し、昇は小刻みに首を揺らす。
「もちろん爺さんには感謝してるし、恩もある。俺が言いたいのは、さっさと警察が来てくれるなら犯人も捕まるだろうし、残ってる婆さんや俺も安心できるって話です。殺されたこの人らだって、いつまでもこんな所に寝かされてたら嫌なはずでしょう?」
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