145 / 173
第五章:幕引きと抵抗
第五章:幕引きと抵抗 3
しおりを挟む
【3】
不幸なことは重なるが、嘆いていてももはやどうしようもない。突き付けられた現実を受け入れ、それにできる限りの対応をする。
今の自分にできるのは、それだけだ。
吉田が村に戻るのが今日であれば、既に橋の状態は確認済みである可能性は濃厚。
ならば、こちらも一刻も早く次なる一手を打たなければ手遅れになってしまう。
――幸い、というべきか。
次に殺すと決めたターゲット、梅木千賀子は現在自室にはいない。付き添い係に促され、風呂に入っている最中だ。
そして、その付き添い係も、今は一時的に自宅へ戻っているため不在。
つまり、この家の中には梅木家の人間二人だけが残っているだけ、ということになる。
――邪魔者がいないのは、好都合。このまま計画を進めてしまうのが手っ取り早い。
今自分がいるのは、梅木千賀子の使っている和室。
部屋の中央には、敷かれたままの布団が一組。
寝ていないわけではないのだろうが、布団には乱れた様子が見当たらない。ひょっとしたら、付き添い係が敷き直していったのかもしれない。
ともあれ。
ここでこのまま待てば、あの老婆は戻ってくる。
そうしたら、すぐにでも息の根を止めて天井から吊るしてしまおう。
その後に、残る一人を……。
付き添い係も、そうすぐには戻ってこれないようなことを言っていた。時間はどうにかできるはず。
ほんの微かに、廊下で物音が聞こえたような気がして、息を止める。
しん……と静まりかえる空間に、僅かな音が紛れ込んでいた。
――来た!
誰かが歩く、微小な衣擦れの音。それが、少しずつこちらへ、部屋の入り口へと近づいてくる。
手にしたロープを強く握り締め、襖の横へ移動する。
戸が開き、相手が入ってきた瞬間に狙いを定め、油断しているところを一気に仕止めてしまおう。
足音が、襖一枚を隔てて止まった。
神経を集中し、相手が姿を見せるその時を待つ。
カタリッと、襖が鳴った。
まるで遠慮がちな動作でゆっくりと開かれていく襖を、睨むように凝視する。
胸元にロープを掲げ、相手の首へ巻き付ける瞬間をイメージする。
開かれた先の廊下から、ユラリとした足取りで相手が部屋に身体を入れてきた。
――今だ!
ほとんど反射的に飛び付き、相手の首にロープを巻き付けようとした瞬間。
「おっと! 危ねぇな」
「――なっ!?」
伸ばした腕が、強い力で掴まれた。
驚いて目を見開き相手を見ると、そこに立つのは老婆、梅木千賀子とは似ても似つかぬ男の姿。
顔は知っている。自警団メンバーの一人で、腕っぷしが強いと評判の男だ。
「おいおい、いきなりこんなもん握って突っ込んでくるんじゃねぇよ」
男はニヤリと笑い、自分が持つロープを強引に奪う。
「…………」
あまりにも想定外の展開に、言葉を失う。
「……さて、この辺りで終わりにしませんか? 千賀子さんを殺すつもりで、この部屋に潜んでいたんですよね?」
廊下から、男とは別の声が聞こえてきた。
「吉田さんが戻るとなると、あなたに残された時間は少ない。このタイミングで千賀子さんを一人にすれば、間違いなく何かしらのアクションを起こすと思っていました」
男の後ろからひょっこり顔を覗かせたのは、旅行に来ている学生の一人。
野島孝介。
不幸なことは重なるが、嘆いていてももはやどうしようもない。突き付けられた現実を受け入れ、それにできる限りの対応をする。
今の自分にできるのは、それだけだ。
吉田が村に戻るのが今日であれば、既に橋の状態は確認済みである可能性は濃厚。
ならば、こちらも一刻も早く次なる一手を打たなければ手遅れになってしまう。
――幸い、というべきか。
次に殺すと決めたターゲット、梅木千賀子は現在自室にはいない。付き添い係に促され、風呂に入っている最中だ。
そして、その付き添い係も、今は一時的に自宅へ戻っているため不在。
つまり、この家の中には梅木家の人間二人だけが残っているだけ、ということになる。
――邪魔者がいないのは、好都合。このまま計画を進めてしまうのが手っ取り早い。
今自分がいるのは、梅木千賀子の使っている和室。
部屋の中央には、敷かれたままの布団が一組。
寝ていないわけではないのだろうが、布団には乱れた様子が見当たらない。ひょっとしたら、付き添い係が敷き直していったのかもしれない。
ともあれ。
ここでこのまま待てば、あの老婆は戻ってくる。
そうしたら、すぐにでも息の根を止めて天井から吊るしてしまおう。
その後に、残る一人を……。
付き添い係も、そうすぐには戻ってこれないようなことを言っていた。時間はどうにかできるはず。
ほんの微かに、廊下で物音が聞こえたような気がして、息を止める。
しん……と静まりかえる空間に、僅かな音が紛れ込んでいた。
――来た!
誰かが歩く、微小な衣擦れの音。それが、少しずつこちらへ、部屋の入り口へと近づいてくる。
手にしたロープを強く握り締め、襖の横へ移動する。
戸が開き、相手が入ってきた瞬間に狙いを定め、油断しているところを一気に仕止めてしまおう。
足音が、襖一枚を隔てて止まった。
神経を集中し、相手が姿を見せるその時を待つ。
カタリッと、襖が鳴った。
まるで遠慮がちな動作でゆっくりと開かれていく襖を、睨むように凝視する。
胸元にロープを掲げ、相手の首へ巻き付ける瞬間をイメージする。
開かれた先の廊下から、ユラリとした足取りで相手が部屋に身体を入れてきた。
――今だ!
ほとんど反射的に飛び付き、相手の首にロープを巻き付けようとした瞬間。
「おっと! 危ねぇな」
「――なっ!?」
伸ばした腕が、強い力で掴まれた。
驚いて目を見開き相手を見ると、そこに立つのは老婆、梅木千賀子とは似ても似つかぬ男の姿。
顔は知っている。自警団メンバーの一人で、腕っぷしが強いと評判の男だ。
「おいおい、いきなりこんなもん握って突っ込んでくるんじゃねぇよ」
男はニヤリと笑い、自分が持つロープを強引に奪う。
「…………」
あまりにも想定外の展開に、言葉を失う。
「……さて、この辺りで終わりにしませんか? 千賀子さんを殺すつもりで、この部屋に潜んでいたんですよね?」
廊下から、男とは別の声が聞こえてきた。
「吉田さんが戻るとなると、あなたに残された時間は少ない。このタイミングで千賀子さんを一人にすれば、間違いなく何かしらのアクションを起こすと思っていました」
男の後ろからひょっこり顔を覗かせたのは、旅行に来ている学生の一人。
野島孝介。
0
あなたにおすすめの小説
小説探偵
夕凪ヨウ
ミステリー
20XX年。日本に名を響かせている、1人の小説家がいた。
男の名は江本海里。素晴らしい作品を生み出す彼には、一部の人間しか知らない、“裏の顔”が存在した。
そして、彼の“裏の顔”を知っている者たちは、尊敬と畏怖を込めて、彼をこう呼んだ。
小説探偵、と。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~
水無月礼人
ミステリー
子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。
故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。
嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。
不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。
※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。
【アルファポリス】でも公開しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる