158 / 173
第五章:幕引きと抵抗
第五章:幕引きと抵抗 16
しおりを挟む
声のする場所、繁信が私室としている部屋へと近づきそっと耳を側立てると、繁信と千賀子のやり取りする会話がはっきりと聞こえた。
「――やっぱり、何でも良いから仕事をさせるべきですよ。このままにしておいたら、二人とも自立することができないままじゃないですか」
最初に耳に入ったのは、千賀子の声。
「碧さんが子供を産めない以上、せめて竜久には孫の顔を見せてもらわないと……」
「そう焦るものでもないだろう。結婚と言っても、しようと思ってできるものでもない。ここで急かしたりすれば、余計に嫌がるだけじゃないか」
どうやら、俺と竜久の話をしているというのはすぐに把握した。
「急かしたくもなりますよ。こんな引きこもるような生活をいつまでも続けて、結婚の機会なんていつ訪れるって言うんです? お見合いだって避けているようだし、このままじゃ年齢的にも手遅れになりかねないじゃありませんか」
竜久の非恋愛体質は自分も知っている。本人から、結婚話を避けて逃げていることも、愚痴として聞かされたりしている。
他人の相手をするよりも、自分のことに時間を使いたい。恋愛なんて、する必要性がピンとこない。
確か、そんなことを話していたか。
「それに、昇のことだって心配じゃありませんか?」
あの子だってこのままじゃ……。
そう呻く千賀子に、繁信は困ったようなため息をついたのがわかった。
「大丈夫だ。仮に結婚が無理でも、全員不便のない暮らしをさせてやるくらいの遺産はあるだろう。晴也たち夫婦のことも含めたって、二億の金を三人で分配すれば不自由することはまずない。それだけでも十分じゃないか」
――!
叔父の告げた言葉に、俺は耳を疑った。
それなりの財産はある家だと予測してはいたが、聞かされた数字はそんなものを軽く上回っていた。
――二億……。そんだけの金があれば、人生一発逆転できるじゃねぇか!
「彼らが生きていく分には良いでしょうけど、私は孫の顔が見たいんですよ。あなただって、それは望んでいるでしょう?」
「まぁ……それはそうだが。しかし――」
部屋の中ではまだ話が続いていたが、もはや耳に入ってはいなかった。
頭に浮かぶのは、どうにかして二億の遺産とやらを独り占めする方法。
――今まで散々苦労してきたんだ。ここらで報われたって良いだろ。
遺産を手にするには、どうしなければいけないか。
その答え自体は単純だった。
一つは、梅木家全員から了承を貰い、遺産の全額を自分が引き継ぐこと。
しかし、これはまず絶望的だと瞬時に破棄した。
そんなうまい話がまかり通るわけがない。全員一致で反対されて終わりだ。
ならば――。
――この家の人間が全員消えれば、全ての財産は俺一人のものになる。
梅木家に、親族は他に存在しない。何ともシンプルな話ではないか。
――だが、どうやって五人も始末すれば良い? 警察に捕まったんじゃあ意味がねぇし……。
逡巡する俺の思考に、今聞いたばかりの会話が蘇る。
竜久が結婚話を避けている事実。
「……そうだ。あいつをうまく利用すればあるいは」
一人ではなく、共犯者を用意して使い捨てれば。
反射的な閃きと同時に、俺は踵を返して自室のある方向へと引き返していく。
そしてすぐ隣にある竜久の部屋の前まで移動し、襖を叩いた。
「――やっぱり、何でも良いから仕事をさせるべきですよ。このままにしておいたら、二人とも自立することができないままじゃないですか」
最初に耳に入ったのは、千賀子の声。
「碧さんが子供を産めない以上、せめて竜久には孫の顔を見せてもらわないと……」
「そう焦るものでもないだろう。結婚と言っても、しようと思ってできるものでもない。ここで急かしたりすれば、余計に嫌がるだけじゃないか」
どうやら、俺と竜久の話をしているというのはすぐに把握した。
「急かしたくもなりますよ。こんな引きこもるような生活をいつまでも続けて、結婚の機会なんていつ訪れるって言うんです? お見合いだって避けているようだし、このままじゃ年齢的にも手遅れになりかねないじゃありませんか」
竜久の非恋愛体質は自分も知っている。本人から、結婚話を避けて逃げていることも、愚痴として聞かされたりしている。
他人の相手をするよりも、自分のことに時間を使いたい。恋愛なんて、する必要性がピンとこない。
確か、そんなことを話していたか。
「それに、昇のことだって心配じゃありませんか?」
あの子だってこのままじゃ……。
そう呻く千賀子に、繁信は困ったようなため息をついたのがわかった。
「大丈夫だ。仮に結婚が無理でも、全員不便のない暮らしをさせてやるくらいの遺産はあるだろう。晴也たち夫婦のことも含めたって、二億の金を三人で分配すれば不自由することはまずない。それだけでも十分じゃないか」
――!
叔父の告げた言葉に、俺は耳を疑った。
それなりの財産はある家だと予測してはいたが、聞かされた数字はそんなものを軽く上回っていた。
――二億……。そんだけの金があれば、人生一発逆転できるじゃねぇか!
「彼らが生きていく分には良いでしょうけど、私は孫の顔が見たいんですよ。あなただって、それは望んでいるでしょう?」
「まぁ……それはそうだが。しかし――」
部屋の中ではまだ話が続いていたが、もはや耳に入ってはいなかった。
頭に浮かぶのは、どうにかして二億の遺産とやらを独り占めする方法。
――今まで散々苦労してきたんだ。ここらで報われたって良いだろ。
遺産を手にするには、どうしなければいけないか。
その答え自体は単純だった。
一つは、梅木家全員から了承を貰い、遺産の全額を自分が引き継ぐこと。
しかし、これはまず絶望的だと瞬時に破棄した。
そんなうまい話がまかり通るわけがない。全員一致で反対されて終わりだ。
ならば――。
――この家の人間が全員消えれば、全ての財産は俺一人のものになる。
梅木家に、親族は他に存在しない。何ともシンプルな話ではないか。
――だが、どうやって五人も始末すれば良い? 警察に捕まったんじゃあ意味がねぇし……。
逡巡する俺の思考に、今聞いたばかりの会話が蘇る。
竜久が結婚話を避けている事実。
「……そうだ。あいつをうまく利用すればあるいは」
一人ではなく、共犯者を用意して使い捨てれば。
反射的な閃きと同時に、俺は踵を返して自室のある方向へと引き返していく。
そしてすぐ隣にある竜久の部屋の前まで移動し、襖を叩いた。
0
あなたにおすすめの小説
小説探偵
夕凪ヨウ
ミステリー
20XX年。日本に名を響かせている、1人の小説家がいた。
男の名は江本海里。素晴らしい作品を生み出す彼には、一部の人間しか知らない、“裏の顔”が存在した。
そして、彼の“裏の顔”を知っている者たちは、尊敬と畏怖を込めて、彼をこう呼んだ。
小説探偵、と。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~
水無月礼人
ミステリー
子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。
故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。
嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。
不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。
※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。
【アルファポリス】でも公開しています。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる