電子探偵イデア~殺意に染まる白銀~

雪鳴月彦

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第一章:白に埋まる

第一章:白に埋まる 3

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「え? 冷めてる?」

 自覚のないことを唐突に言われ、あたしは心外だとばかりについわかりやすい反応をしてしまった。

「うん、周りが盛り上がってても常に一定のテンションをキープし続けてるイメージあるよ。きっとさ、そういう部分も見られてたんだろうね皆に。それがのぞみんに男が寄りつかない原因の一つにも――うむっ?」

「あ、それ以上は話広げないで」

 自分にとって都合の悪い方向へ話題が逸れかけたのを察し、あたしは即座に会話を遮断して奈子の口へお菓子を詰め込んでやった。

 しかし、そんな風に自分は見られていたのかと、新しい事実を知ってしまったのは少なからず心に動揺を生み出した。

 普通にしていたつもりなのだけど、ノリの悪い人間と思われていたとは。

「あ、ところでさ、あれどうしたの?」

「ん?」

 詰め込んでやったお菓子を飲み込んだ奈子が、あっさりと話題を変えて会話を仕切り直してくる。

「ほらあの、こないだお父さんから送られてきた。イデアちゃん。元気にしてるの?」

「ああ、あれね。うん、まぁ……元気って言うか故障とかはしてないけど。一応持ってはきてるよ。この間、一日放置してたら文句言われて。貴女とのコミュニケーションを目的に作られているのに、起動してもらえないのは悲しいわ、とか言ってきた」

 P.Uの中に組み込まれた人工知能、イデア。

 彼女が家に届いてから今日まで、一通り操作を試してみてわかったことは二つだけ。

 一つは、P.Uの操作自体はすごく簡単で、機械に全く詳しくないあたしでも普通に使いこなすことは可能だということ。

 そして、もう一つ。こちらがすごい驚きだったのだけれど、イデアは本物の人間と会話をしているのではと錯覚させられてしまうほどに会話の受け答えがリアルでスムーズだということ。

 しかも、一度話した会話の内容は忘れずに記憶し、同じフレーズの言葉をかけても生きた人間と同様にその都度違う反応を返してくるのだ。

 しかも、ジョークや意地悪な意味を込めた言葉もきっちり理解し、それに合わせた言葉やリアクションまで返してくる。

 よくわからないけれど、学習能力があるということなのだろう。

 比較的最近のニュースで、AIにはそういう機能があるみたいなことを解説していたのを聞いた覚えがある。

「ちょっとお話させてよ。わたしのこと覚えてるかな」

「えー? 後で良いでしょ。こんなとこで出したら目立つし恥ずかしいって」

 ほとんど乗客のいないバスの中、イデアを起動させてお喋りなんか始めたら気にされること間違いなしだし、マナーとしても駄目な気がする。

「ペンション行って落ち着いたらで良いでしょ。奈子は少し寝ときなよ」

「嫌よ、寝たら何かもったいないじゃん」

 バスで移動するだけなのに、そんな口を尖らせて否定するほどもったいないことなんてあるだろうか。

 寝不足なら、むしろ今のうちに少しでも休んでおけば良いだろうに。

 言えば何かしら話がこじれそうな気がするため、声には出さずにそう思うだけに留めて、あたしは奈子のお菓子を一つ摘まんで口へと放り込んだ。
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