電子探偵イデア~殺意に染まる白銀~

雪鳴月彦

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第一章:白に埋まる

第一章:白に埋まる 12

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「んー? もっとかかるんじゃないの? 車だからまだ良かったけど、徒歩であの雪が残る道を踏破するなんて、素人が考えるよりずっと苦労すると思うけど」

「……確かに。ってなると、一時間半から二時間くらいは覚悟しなきゃいけないわけか。間違っても外に出ようなんて思えないね」

 奈子の返答を参考に結論を出し、あたしはイデアを見つめて小さく頷いた。

「そう。それは賢明ね。今夜から明日の朝にかけて、この近辺はかなりまとまった雪が降る予報が発表されているわ。万が一、歩いて下山なんてしたら凍死することは避けられないはずよ」

「え、マジ? イデアちゃんそんなことわかるの?」

 ポーカーフェイスに似合う淡々とした喋り方をするイデアへ、ずずいと距離を詰めて近づき、奈子が驚いたような顔をする。

「うん、あたしも最初はびっくりしたんだけど、イデアってGPSや自分で情報検索したりする機能を持ってるみたいなんだよね。ただ、あくまでイデア本人が自動で検索をするから、あたしにはコントロールできないんだけどさ」

 何と言うべきなのか、イデアは意思を持った検索システムにもなっているようで、こちらの発言を勝手に調べたりするときがあるのだ。

 そのせいで、迂闊に嘘や適当なことを言えず、話の流れ次第ではほぼ負け戦確定な舌戦を強いられたこともあった。

「すごい便利だねイデアちゃん。ねぇ、イデアちゃんってそのうち量産される予定とかないの?」

 あたしの手からP.Uを取り上げるようにして奪い、奈子はイデアを自らの顔へ近づける。

「量産? さぁ。そんな情報はないけれど、どうして?」

 イデアの小さな顔が、コトリと傾き疑問を表現する仕草を作る。

「え? だってイデアちゃんプロトタイプってやつなんでしょ? ってことは、そのうち完全版イデアちゃんが作られるってことじゃないの?」

「ああ、それなら簡単な話だわ。確かに私はまだプロトタイプだけれども、いずれマスターにアップデートをしてもらって、今よりももう少し性能を良くしてもらえる予定があるの。あまり詳しいことは私自身も教えてもらっていないけれど」

「えぇ? マジかぁ。じゃあ結局、希一人の独占アイテムになっちゃうじゃん。つまんないなぁ」

 一切の期待を持たせようとしないイデアの返答に、奈子はP.Uを返してくると、唇を尖らせながらベッドへ向かい仰向けに寝転んだ。

「どうせ市販されるようなことになっても、値段高くて手がだせないんじゃないの? これだけ高性能な機械なら最新モデルのスマホなんかより良い値段しそうな気がするけど」

 最低でも十万円前後。これより更に高性能なんてことになったら、そこそこ高いパソコンに匹敵してしまうのではなかろうか。

 もし正式に商品化なんかしても、あたしは絶対に買わないだろう。そんな金銭的余裕は百パーセントない。

「わたしは買うよ。頑張ってお金貯めれば、三ヶ月くらいでどうにかできる自信あるし。そしたら、毎晩話相手になってもらうの。バイト先の店長が性格悪くてムカつくとか、おつぼね調子乗り過ぎてるとか」

「愚痴ばっかじゃん」

「仕方ないでしょ。愚痴だからこそ聞いてもらうのよ。他の人になんか話しても嫌がられるだけだもん」
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