電子探偵イデア~殺意に染まる白銀~

雪鳴月彦

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第二章:救助を待つ

第二章:救助を待つ 33

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 そそくさと窓を閉め、P.Uを持つ手を擦りながらあたしが呻くと、イデアはあたしを見つめ

「温度を肉体で体感できるのは、生物だけの特権だと思うけれど。私には永遠に理解しきれない感覚だわ」

 すました顔でそう言うと、不意に何かを察したかのようにリビング内を見渡し始めた。

「ん? どしたの? 何か気になることでもあった?」

 あたしも一緒になって室内を見てみるが、特別な変化は見受けられないように思える。

 ただ、一人でうろうろしながら立っているあたしのことがいい加減気になってきたのだろう、岩瀬さんが何度か視線を向けてきているのがわかったくらいか。

「…………」

 無言のまま、イデアは小さな頭を傾けながら天井を眺め始めてしまっている。

 これが人間なら完全に変わった人扱いだよなと、ふとそんなことを思いちょっとだけニヤけそうになってしまったけれど、そこはどうにか堪えておいた。

「……ねぇ、希。適当で構わないから、少しリビング内を歩き回ってもらえるかしら?」

 天井へと傾けた首を、お人形みたいに動かしてあたしを見たイデアは、目的のよくわからないことを言ってきた。

「ん? 歩き回るって、普通に?」

「ええ。リビング内を一通り、まんべんなく歩いてみてくれるかしら」

「ま、まぁ良いけど」

 このまま死体発見現場を調べてるよりは良いやと、あたしは頼まれた通りにリビングの中を適当に歩き始めた。

「……希、何うろうろしてんの?」

 そんなあたしを速攻で不審に思ったらしい奈子が、おかしなものを見るような顔をして問いかけてくる。

「わかんない。イデアが歩けって言うから歩いてるだけ。あんまり意識して見ないで、何か恥ずかしいから」

 奈子や岩瀬さんたちの視線を感じ、あたしはわざとおどけるように答えておく。

「最近は本当に、色んな機械が出てくるわよね。自分が小さい頃なんて、白黒みたいな画面の携帯ゲーム機が流行ってたりしたのに、今じゃ画面から飛び出して会話ができるんだもんね。凄い進化」

 そんなあたしを微笑ましそうに見て、名取さんはしみじみとした口調で言ってくる。

 イデアの言葉どおり、まだP.Uをゲーム機の類と思い込んでいるのだとわかり、あたしは少しホッとした。

 これなら確かに、事件について調べているとは疑われ難いかもしれない。

「望月さんも、良かったらコーヒーでも淹れましょうか? 釜石さんの分を用意するついでだし」

「あ、はい。是非ともお願いします」

「ちょっとだけ待っててね」

 あたしの返事を聞くと同時に立ち上がり、名取さんは軽やかな足取りでダイニングへと消えていく。

 それと入れ替わるように、広くもないリビング内を一通り歩き終えたあたしはソファーへと歩み寄りそのまま腰を落ち着けた。

「イデア、ちょっと休憩するね」

「構わないわ。もう確かめたいことの確認は済んだから」

 テーブルにP.Uを置きながらかけたあたしの言葉へ、イデアはあっさりと許可を出す。

「え? 終わったの? 今のだけで?」
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