電子探偵イデア~殺意に染まる白銀~

雪鳴月彦

文字の大きさ
80 / 125
第二章:救助を待つ

第二章:救助を待つ 47

しおりを挟む
        9

 いったい、誰が主人を殺したのか。

 夕食を終えてからずっと、リビングのソファーへ静かに座りながら、矢津 彩也子はひたすらそれだけを考え続けていた。

 どう考えても、事故や自殺などではない。

 主人には自殺をするほどの悩みなどあるわけがないし、夜中に氷点下になるような外へ一人で出ていく用事も思いつかない。

となれば、残る可能性は何者かに殺されたということだけ。

 しかし、今このペンションにいる人間たちの中で主人に恨みを持つ者などいるだろうか。

 年に一回、年末年始を避けたこの時期に泊まりに来ているが、特にここで問題を起こした過去は夫婦共に一度としてない。

 宿泊している岩瀬という男も、あくまで顔見知り程度というだけで、このペンション以外ではすれ違った経験すらないはずである。

 今年新たに現れたあの若い二人組の女は、問題外だろう。

 顔も名前も聞いたことすらない赤の他人だ。

 となると、いったい誰に主人は殺された?

 わからない、というシンプルな答えだけが、彩也子の頭に浮かぶ。

 今集まるメンバーの中に、主人を殺す必要性がある人物など間違いなく存在しない。

(それじゃあ、どうして……?)

「あの……」

 同じ疑問を幾度となく堂々巡りさせていた彩也子の耳へ、心配するようなオーナーの声が入り込んできた。

「矢津さん。今夜は、お部屋の方はどうなさいますか?」

「え?」

 ハッとしながら下げていた顎を上向かせると、心苦しそうに表情を固くするオーナーが、じっと彩也子を見つめていた。

「お部屋……?」

 問われた意味がよくわからず、困惑しながら彩也子が聞き返す。

「はい。その……旦那様がああいうことになってしまいましたし、お一人で過ごすのは抵抗があるのではないかと思いまして。それで、もしよろしければ西山さんのお部屋を二人で使っていただくことも考えたのですが」

「ああ……」

 チラリとオーナーの背後を見れば、既に話をしたのか西山が立って彩也子を見ていた。

 確かに、一人になるのは心細い。

 友人と共にいた方が気持ち的には楽だろう。

 悩む理由もなく、即答するように頷きかけた彩也子だったが、そこでふとある可能性が脳内をよぎりピタリと首の動きを止めた。

 そう言えば、この西山はどうなのだろう。

 無条件で信用してしまっていたが、ある意味一番自分たち夫婦と深い関係があるのは西山だけだ。

(……まさか?)

 これまでを思い返してみて、いくつか根に持たれるような出来事に心当たりはある。

 だが、殺意を持たれるほどのことをした覚えまではない。

(裏切り……いえ、彼女がわたしたち夫婦を裏切って、得をすることなんて何もないはずだわ)

「矢津さん? どうかされましたか?」

 視線を伏せて逡巡する彩也子の顔を、オーナーが心配そうに覗き込んだ。

「え? あ、ああいえ、何でもありません。ちょっと、ぼーっとしてしまって。あの、お部屋の件はわたし一人でも大丈夫です。しっかり鍵をかけておけば心配はないでしょう? お心遣いには感謝致します」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...