電子探偵イデア~殺意に染まる白銀~

雪鳴月彦

文字の大きさ
84 / 125
第三章:死者が増える

第三章:死者が増える 3

しおりを挟む
        2

 寝付けないまま夜が明けるのではと危惧していたけど、あたしの身体はしっかりとセットした目覚ましが鳴り響くまで爆睡をしてくれていた。

 そのおかげと言うべきか、頭の中はそれなりにクリアで、夜更かしした翌朝みたいな倦怠感はいっさい感じずに済んでいる。

 静かに身を起こし、窓へ近づきカーテンを捲れば昨日と変わらない銀世界が静謐な空間を作り上げていた。

 現在時刻は七時半。既に太陽が地上を照らし、空には雲が若干あるものの、快晴と言っても差し支えないくらい気分良く青空が広がっている。

「良かった。取りあえず雪は降らなかったかぁ」

 独り言を呟きながら欠伸をして、あたしはカーテンから顔を引っ込めクルリと振り返る。

 そして、何気なく布団にくるまったままの奈子へ視線をやると、パッチリと開いた二つの目玉がこちらを見ていたことに気がついた。

「……起きてたの?」

「うん、希が歩く気配で目が覚めた。眠りが浅かったのかな、いまいち頭が冴えないや」

 言いながら、奈子は布団の中でモゾリと動いて仰向けになる。

「ま、こんな状況で深い眠り堪能できたら、それはそれで心臓に毛が生えてんのかって話だと思うけど。それも剛毛」

 確かにそうだなと思う反面、自分はしっかり寝てしまっていたため同意ができず、サラリと奈子の言うことを流しごまかしておく。

「さて、と。あたしは一足先にシャワー浴びて歯磨いちゃうからね。イデアも充電終わってるから、早めに起動してあげないと何か言われそう」

「何かって?」

「希、今朝はどうしてすぐに起動させてくれなかったのかしら? とか。こう、首をクイッと傾げながら」

 あたしが即興でイデアの物真似をしてみせると、奈子はこちらを見つめながらフフフフとまんざらでもなさそうな含み笑いを返してきた。

「そんなわけだから、ちょっとバスルーム行ってくるね」

 そそくさと着替えを持ってバスルームへ行き、あたしは眠気を完全に吹き飛ばすため熱めのシャワーを頭から浴びる。

 たぶん、今日は除雪が終わり普通に家へ帰ることができるだろう。

 でも、事件に巻き込まれてしまった以上、帰る前に警察署へ連れていかれて事情聴取とかをされてしまうかもしれない。

 となれば、実際解放されるのは何時くらいになるものなのか。

 こんな経験などしたこともないし、することすら想定したことがないため全然わからない。

「……ふぅ」

 シャワーを止めタオルで頭を拭きながら、あたしは全く予定が読めない一日の始まりに小さな吐息をついた。

 身体を拭いて服を着替え、そのまま洗面所の鏡を見ながら歯を磨く。

「良し、と」

 やることを終わらせ部屋に戻れば、相変わらず奈子は布団にくるまったままぼんやりと天井を見つめていた。

「奈子もシャワー浴びてきなよ」

「んー。起きることを身体が拒んでるんだよね。困ったもので」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

処理中です...