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第四章:謎を解く
第四章:謎を解く 20
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立ち退きを要求する連中との関連は不明だが、何かしらのきっかけがあったことは確実だろうし、まずはそこから把握しなくては原因に辿り着くのが遠回りになる。
そう判断して訊ねた問いに、瀬里夏はあっさりと答えを返してきた。
「それはたぶん……この西山さんって人で間違いないと思う」
スマホ画面に並ぶ誹謗中傷の一つを指差され、僕はつられるように視線を移動させる。
「ずっと読んでて、この人が皆を煽ってる感じがしたの。大抵いつも、この人のコメントから嫌がらせが始まるし」
「西山……。和江さんと、どんな関係なんだ?」
「個人的には、ちょっとわからないけど。この人、町長の奥さんだよ。顔が広いから知り合いも多いみたいだし、その横の繋がりでお義母さんもグループに入ったんだと思う」
「町長……ああ、確かにそんな名前だったな。でも、その奥さんが和江さんへ嫌がらせする理由って――あ」
そこで、僕はピンときた。
立ち退きを要請する側には、町長も含まれていると前に瀬里夏から教えられた。
となれば、父親ではなくその奥さん同士でも嫌がらせをして、精神的に追い詰める作戦を仕掛けてくるというのもないとは言い切れない。
「お兄ちゃん?」
突然黙り込む僕を心配そうに見つめる瀬里夏を見つめ返しながら、僕はただ閃いてしまった仮説をどう処理すべきか持て余した。
和江さんの自殺とこのメッセージアプリに残されたやり取り、ここに因果関係を証明する手段はない。
そして、和江さんの死と立ち退きの件が一つに繋がるという証拠もない。
仮にあったとしても、相手が町長では中途半端な証拠や証言など揉み消されかねない。
「とりあえず、葬式が終わって落ち着いたら父さんと話をするから」
結局、この場でもこんなことしか告げることができず、僕はそっと瀬里夏の頭へ撫でるように手を当てた。
★☆★☆★☆★
和江さんの葬儀が終わり初七日も過ぎてから、僕は父親と話をした。
立ち退きの件に関して、父親も始めは寝耳に水であったらしく、突然の勧告を受けたのだという。
条件として、決して安くはない額のお金が用意されると相手側は交渉を続けてきているが、父親は例え十億積まれてもこの土地と店を明け渡す意思はないと断言した。
父親にとって、それだけ先祖代々続く畳屋は大切なものであったということであり、それ故にこの先も交渉は平行線を保つことを暗に伝える言葉でもあった。
「稔たちは、何も心配しなくて良い。父さんがちゃんとこの問題には片をつける。あいつの自殺も……稔が考えた通り町長たちの仕業だろう。本来なら、精神的に追い詰めて引っ越しを決意させたかったのだろうが、こんなことにまでなるとは向こうも思っていなかったはずだ」
話しておきたいことを伝え終えた後、ふぅっと疲れの塊のような大きなため息を漏らしながら父親はそう言葉を吐いた。
「そもそもさ、どうしてここにスポーツジムを建てようって話になったの?」
数秒間の沈黙を挟んで、僕は事のきっかけが何であるのかを訊ねた。
「……あくまで人伝に教えてもらった話だが、矢津哲平という議員が絡んでるらしい」
一瞬、話すかどうかを迷うように視線をさまよわせてから、父親はそう重い口調で告げてきた。
「議員?」
「政治家だ。そいつの知り合いが趣味でジムをオープンしたいと言い出して、適当な場所はないかと矢津に相談をしていたらしいんだ。町長とも付き合いのある男みたいでな、鶴の一声と言うのか、利便性の良い駅前に土地を用意するよう圧力をかけたとかなんとか」
「それで、ここに白羽の矢が立ったっていうこと?」
「ああ。恐らくだが、矢津の妻と西山も交友関係があると聞いたから、今回の件に夫婦で噛んでいる可能性は高いかもしれないな」
肩を竦めるようにそう言って、父親はテーブルに置いていた湯飲みの中身を一気に煽った。
「そんな……たかがそんな理由で父さんたちが苦しめられなきゃいけないなんて、おかしいじゃないか」
あまりにも納得がいかない。
その思い一つで声をあげた僕だったけれど、父親はそれを目線だけで制し、小さく首を横へ動かした。
「お前が憤らなくても良い。父さんがきっちりケリをつける。迷惑をかけないようにするから、お前は自分の人生に集中しろ」
そう判断して訊ねた問いに、瀬里夏はあっさりと答えを返してきた。
「それはたぶん……この西山さんって人で間違いないと思う」
スマホ画面に並ぶ誹謗中傷の一つを指差され、僕はつられるように視線を移動させる。
「ずっと読んでて、この人が皆を煽ってる感じがしたの。大抵いつも、この人のコメントから嫌がらせが始まるし」
「西山……。和江さんと、どんな関係なんだ?」
「個人的には、ちょっとわからないけど。この人、町長の奥さんだよ。顔が広いから知り合いも多いみたいだし、その横の繋がりでお義母さんもグループに入ったんだと思う」
「町長……ああ、確かにそんな名前だったな。でも、その奥さんが和江さんへ嫌がらせする理由って――あ」
そこで、僕はピンときた。
立ち退きを要請する側には、町長も含まれていると前に瀬里夏から教えられた。
となれば、父親ではなくその奥さん同士でも嫌がらせをして、精神的に追い詰める作戦を仕掛けてくるというのもないとは言い切れない。
「お兄ちゃん?」
突然黙り込む僕を心配そうに見つめる瀬里夏を見つめ返しながら、僕はただ閃いてしまった仮説をどう処理すべきか持て余した。
和江さんの自殺とこのメッセージアプリに残されたやり取り、ここに因果関係を証明する手段はない。
そして、和江さんの死と立ち退きの件が一つに繋がるという証拠もない。
仮にあったとしても、相手が町長では中途半端な証拠や証言など揉み消されかねない。
「とりあえず、葬式が終わって落ち着いたら父さんと話をするから」
結局、この場でもこんなことしか告げることができず、僕はそっと瀬里夏の頭へ撫でるように手を当てた。
★☆★☆★☆★
和江さんの葬儀が終わり初七日も過ぎてから、僕は父親と話をした。
立ち退きの件に関して、父親も始めは寝耳に水であったらしく、突然の勧告を受けたのだという。
条件として、決して安くはない額のお金が用意されると相手側は交渉を続けてきているが、父親は例え十億積まれてもこの土地と店を明け渡す意思はないと断言した。
父親にとって、それだけ先祖代々続く畳屋は大切なものであったということであり、それ故にこの先も交渉は平行線を保つことを暗に伝える言葉でもあった。
「稔たちは、何も心配しなくて良い。父さんがちゃんとこの問題には片をつける。あいつの自殺も……稔が考えた通り町長たちの仕業だろう。本来なら、精神的に追い詰めて引っ越しを決意させたかったのだろうが、こんなことにまでなるとは向こうも思っていなかったはずだ」
話しておきたいことを伝え終えた後、ふぅっと疲れの塊のような大きなため息を漏らしながら父親はそう言葉を吐いた。
「そもそもさ、どうしてここにスポーツジムを建てようって話になったの?」
数秒間の沈黙を挟んで、僕は事のきっかけが何であるのかを訊ねた。
「……あくまで人伝に教えてもらった話だが、矢津哲平という議員が絡んでるらしい」
一瞬、話すかどうかを迷うように視線をさまよわせてから、父親はそう重い口調で告げてきた。
「議員?」
「政治家だ。そいつの知り合いが趣味でジムをオープンしたいと言い出して、適当な場所はないかと矢津に相談をしていたらしいんだ。町長とも付き合いのある男みたいでな、鶴の一声と言うのか、利便性の良い駅前に土地を用意するよう圧力をかけたとかなんとか」
「それで、ここに白羽の矢が立ったっていうこと?」
「ああ。恐らくだが、矢津の妻と西山も交友関係があると聞いたから、今回の件に夫婦で噛んでいる可能性は高いかもしれないな」
肩を竦めるようにそう言って、父親はテーブルに置いていた湯飲みの中身を一気に煽った。
「そんな……たかがそんな理由で父さんたちが苦しめられなきゃいけないなんて、おかしいじゃないか」
あまりにも納得がいかない。
その思い一つで声をあげた僕だったけれど、父親はそれを目線だけで制し、小さく首を横へ動かした。
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