病み憑き

雪鳴月彦

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第三章:風岡夏純――①

風岡夏純――①

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「馬鹿馬鹿しい、そんなものいないよ」

 突拍子もない恋人の言葉に、晴樹はつい苦笑を漏らしてしまった。

「目の錯覚とか、他の何かと見間違えたってことはないの?」

「そんなのあるわけないでしょ? かなりじっくり見ちゃったんだから。あれが錯覚なら、私の目がかなり異常ってことになっちゃうわ」

 まともに相手をされていないと悟ったのか、茜は少しだけ不機嫌そうな含みを言葉に込めてくる。

「って言うか、晴樹は今どこにいるの? そこ、自分のアパートじゃないわよね?」

「は? いや、自分の部屋にいるけど、どうして?」

 前触れなく変わった話題にきょとんとなりながら、晴樹は自分のいる部屋の中を見回す。

「だって、さっきからずっと側で誰か喋ってるでしょう? よく聞き取れないけど、ボソボソ声がしてるわよ。テレビでも買ったの?」

「いや、そんなの買ってないし、誰もいない。一人だよ」

 晴樹が暮らすのは八階建てマンションの一室。
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