猟奇に染まる聖夜の殺人

雪鳴月彦

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序章

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 十一月にもなると、早朝は震える程には寒い。

 太陽が早く昇る夏場とは違い、五時半という時間帯はまだ部屋の中は真っ暗なままだ。

 そんな寒さと暗闇が混ざり合う空間の中で目を覚まし、エアコンもストーブも点けることなくモソモソとウインドブレーカーへ着替えると、布施ふせ幸子さちこはまだ就寝中の家族を起こさぬよう忍び足で階段を下り玄関まで向かい、履き慣れたスニーカーへそっと足を入れた。

「…………」

 そのままゆっくりと鍵を外し、外へ出る。

 喉と肺を痛めつけるかのようにキンキンと冷えた空気を吸い込みながら道路へと移動し、まだ星の輝く空を見上げて白い息を吐き出す。

 中学校に入学してすぐ陸上部へ所属し、それから今日までの五年半。こうして毎日早朝ランニングをすることが幸子の日課となっていた。

 勢力の強い台風や豪雪でも降ったりすればやむを得ず中止にしてきたが、それ以外では高熱でも出ない限り一日もサボることなく続けてきた習慣だった。

 このことを友人たちへ話した際に、凄いだの立派だのとおだてられたりしたものだが、だからと言って特に目標があるわけでもない。

 部員の中で一番になりたいとか、全国大会に出場して良い成績を残したいなどの考えや欲求は一切持っておらず、ただ単に高校卒業までの六年間は継続してやりきってみるという、漠然とした思いを浮かべての行動でしかなかった。

 実際、幸子はそれほど成績優秀な部員ではない。

 普段の練習も大会本番も常に手を抜き、その中において当たり障りない位置をキープするように加減をしてきた。

 この早朝ランニングのように自らの意志で始めた楽しいことには本気になれるが、それ以外の興味の薄い事柄にはどこまでも適当で無関心なのが、布施幸子という人間の一番の特徴であろう。

 少なくとも、幸子自身はそう自己評価している。

(まぁ、どうでも良いけどね)

 そんな己の積み重ねてきた六年の回想を鼻息一つで吹き飛ばし、幸子は人の気配が希薄な暗闇を走りだす。

 日の出はまだ、もう少し先。少なくともそれまでの間、早朝の町はほぼ無人の空間でいてくれる。

 住宅街を抜け、緩く長い坂道を下り大通りへ。そのまま五百メートルも直進すると、町で一番広い交差点へと到着しそこを左折した。

 そうして、更に十五分ほども走ると、外灯が点在する視界の先に大きな橋と、それに隣接するように広がる広大な海原が飛び込んでくる。

 幸子は大橋のちょうど真ん中で足を止め、まだ黒いタールのような海面をぼんやりと眺める。

 これもまた、幸子の日課だった。春夏秋冬、いつもこの時間帯にこの場所を訪れ、五分ほどの間波の音に耳を澄ませるのだ。

 夏場は散歩に出歩く老人や自分と同じようにランニングをする者の姿が目立つけれども、この季節ともなればそういう輩は身を潜めてしまい滅多なことでは現れない。

 完全に――と言っても車や歩行者が通ることもたまにはあるが――孤独を楽しめる安らかな時間。
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