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序章
序章
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「…………」
穏やかと表現する以外にないくらい静かな波の音を聞きながら大きく深呼吸をして、幸子は橋の先へ意識を逸らした。
この大橋を抜けた先は、店などがほとんどない工場や寂れたアパートなどが立ち並ぶエリアとなり、一気に面白みの薄れる空間へと変容してしまう。
そのため、日中はまず立ち寄ることのない場所ではあるのだがこのランニングのときだけは特別で、大橋を渡りきってから少し先にあるコンビニでジュースを買って飲むまでが、幸子の行動パターンとなり定着している。
そこから今度は同じ道を引き返し家まで戻り、軽くシャワーを浴びた後制服へ着替えて登校という流れが日常だった。
だから、本当なら今日もまたそういう一日の始まりを迎える予定だった。
ランニングを再開し大橋を渡り終えた幸子は、橋の入口のすぐ脇にある草むらへチラリと視線を向けた。
ぼんやりとした外灯の光が照らすその草むらは、冬でも緑を残す草やすすきの残骸のような枯れ草が大人の背丈ほどにも伸びその先の光景を覆い隠している。
橋の入口ということもあり、人通りは決して少なくない場所なのだが、年中ほとんど手入れをされることもなく常に背丈の長い雑草に覆われたその一角に、幸子は歩きながら近づいていった。
基本的に誰でもそうであろうが、普段の幸子ならばこんな面白みも何もない所へいちいち近づこうなどとは思ったりはしないし、実際今までもあまり意識などはしなかったのだが。
一見すれば、よくわからない。
幸子の視力は両目共に二、◯だが、その視力をもってしても見逃してしまうくらい僅かに、好き勝手に生える草を掻き分けたような痕跡がそこにはあった。
「……」
誰かが最近、この中へ進入したことを示す痕跡。近所の子供か、川の管理をしている専門の業者か。
可能性を考えようとすれば、いくらでも候補は思いつく。
幸子は足を止めて一度振り向くと、ぐるりと周囲を見回した。当然、人の姿はない。
風も吹いてはいないため、目の前に群生する草たちも揺れることもなく、黒いシルエットを浮かび上がらせているのみ。
そんな物悲しくもある風景に暫し見入ってから、幸子はガサガサと遠慮のない音を響かせつつ草むらの中へと入り込んでいった。
本来なら、こんな所に寄るつもりはなかった。
しかし、幼少期から好奇心だけは旺盛だった生まれつきの性格が災いし、どうしてもこの先にあるものを覗かずにはいられない衝動が湧き上がってしまった。
幼稚園や小学生の頃には、近所にあった廃屋が気になれば一人でもその日のうちに忍び込んだし、珍しいと思った生き物は微塵の躊躇いもなく素手で掴み持ち帰った。
見てみたい、知りたいと思いそれが自分の力で可能なものは――要は大人の協力が不要な範囲のものは――いくらでも貪欲に追求した。
そういう部分では、すごく積極的で学習意欲の高い子供だったんだなと、幸子は自分を振り返ることがあった。
穏やかと表現する以外にないくらい静かな波の音を聞きながら大きく深呼吸をして、幸子は橋の先へ意識を逸らした。
この大橋を抜けた先は、店などがほとんどない工場や寂れたアパートなどが立ち並ぶエリアとなり、一気に面白みの薄れる空間へと変容してしまう。
そのため、日中はまず立ち寄ることのない場所ではあるのだがこのランニングのときだけは特別で、大橋を渡りきってから少し先にあるコンビニでジュースを買って飲むまでが、幸子の行動パターンとなり定着している。
そこから今度は同じ道を引き返し家まで戻り、軽くシャワーを浴びた後制服へ着替えて登校という流れが日常だった。
だから、本当なら今日もまたそういう一日の始まりを迎える予定だった。
ランニングを再開し大橋を渡り終えた幸子は、橋の入口のすぐ脇にある草むらへチラリと視線を向けた。
ぼんやりとした外灯の光が照らすその草むらは、冬でも緑を残す草やすすきの残骸のような枯れ草が大人の背丈ほどにも伸びその先の光景を覆い隠している。
橋の入口ということもあり、人通りは決して少なくない場所なのだが、年中ほとんど手入れをされることもなく常に背丈の長い雑草に覆われたその一角に、幸子は歩きながら近づいていった。
基本的に誰でもそうであろうが、普段の幸子ならばこんな面白みも何もない所へいちいち近づこうなどとは思ったりはしないし、実際今までもあまり意識などはしなかったのだが。
一見すれば、よくわからない。
幸子の視力は両目共に二、◯だが、その視力をもってしても見逃してしまうくらい僅かに、好き勝手に生える草を掻き分けたような痕跡がそこにはあった。
「……」
誰かが最近、この中へ進入したことを示す痕跡。近所の子供か、川の管理をしている専門の業者か。
可能性を考えようとすれば、いくらでも候補は思いつく。
幸子は足を止めて一度振り向くと、ぐるりと周囲を見回した。当然、人の姿はない。
風も吹いてはいないため、目の前に群生する草たちも揺れることもなく、黒いシルエットを浮かび上がらせているのみ。
そんな物悲しくもある風景に暫し見入ってから、幸子はガサガサと遠慮のない音を響かせつつ草むらの中へと入り込んでいった。
本来なら、こんな所に寄るつもりはなかった。
しかし、幼少期から好奇心だけは旺盛だった生まれつきの性格が災いし、どうしてもこの先にあるものを覗かずにはいられない衝動が湧き上がってしまった。
幼稚園や小学生の頃には、近所にあった廃屋が気になれば一人でもその日のうちに忍び込んだし、珍しいと思った生き物は微塵の躊躇いもなく素手で掴み持ち帰った。
見てみたい、知りたいと思いそれが自分の力で可能なものは――要は大人の協力が不要な範囲のものは――いくらでも貪欲に追求した。
そういう部分では、すごく積極的で学習意欲の高い子供だったんだなと、幸子は自分を振り返ることがあった。
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