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第二章:口渇の原因
口渇の原因 3
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どうせ、大したことではないだろうと高を括っていた。
実際、紬から依頼を受けた翌日、授業をするため教室に入ってきた脇本先生を目視した時は、霊の存在を感じ取ることができなかった。
至って普通。医者が言いそうな言葉で表現するなら、まごうことなき健康体という状態。
何も問題はなく、全ては紬の勝手な思い込み。
これでこの簡単な依頼は一件落着。授業が終わったら、すぐに結果を報告して安心させてあげるかと、落ちつかなそうにこちらをちらちら見てくる紬を視界の端で認識しつつ思っていたあたしは、その僅か数分後には自らの判断を改めなくてはいけないことに気がついてしまった。
いつも通り、特に面白くもない内容の授業を進めていく脇本先生を観察していると、一瞬だけ微かな残滓のような薄い霊の気配を付着させているのが見えてしまい、あたしは訝しみながら更に意識を集中させ、より緻密な霊視を試みた。
まるで花粉のように、先生の身体に付着する何かの霊体の気配。
本体ではなく、あくまでも残滓。
先生の話す授業内容は完全に聞き流しつつ、ジッと霊視をすること約五分で、漠然とではあるもののその正体に見当をつけることはできた。
先生から感じられる何かしらの気配は、やはり先生に憑りついているモノではなく、別の人に憑りついている霊の気配。
恐らく、先生と一緒に暮らしている家族。または――紬には悪いけど――同棲している女性とか、そっちに憑いている霊の気配が、先生に付着してしまっているだけ。
香水をつけた人と長時間同じ部屋にいると、その匂いが少なからず移ってしまう、それと同じような理屈。
とは言え、問題となるべき霊は先生個人に対して特に攻撃性を見せてはいない様子であるため、正直放っておいても大丈夫と判断できなくもない状況だった。
これを休み時間に紬へ伝え、彼女がどんなリアクションを返してくるか。
そこまで見届けて、ひとまず依頼は完遂したと言えるだろう。
そう思い、休み時間になると同時にあたしの席まで飛んできた紬へ、霊視の結果を伝えると、
「何それ!? 先生って、一人暮らしのはずでしょ? え? 誰と住んでるの?」
真っ先に気にしたのは、霊よりも正体不明な同居人の方だった。
「さすがにそこまでは知らないよ。直接先生に訊いてみたらいいじゃん。とにかく、脇本先生には何も問題はなし。問題なのは、一緒に暮らしてる誰かさんの方で、その人には間違いなく悪い霊が憑いてるはずだよ。どんな霊かとか、その辺りまで詳しく調べることは現状だけじゃ難しいけど。ひとまず、紬からの依頼はこなしたからね。千円ちょうだい」
「あー……うん」
淡々と告げながらあたしが差し出した手の平を見つめ、紬は渋々といった感じで財布を取り出すと、抜き出した千円札を手の平へと載せてきた。
「ありがと。じゃ、これで無事お仕事完了ってことで――」
「いや、待って」
周りの目もあるため、そそくさと千円札を自分の財布へしまいながら話をまとめようとするあたしの声に、紬の声が被さってきた。
何だろうかと手元へ下げていた視線を上向かせると、スッと紬が右手をこちらへと伸ばしてくる。
どうせ、大したことではないだろうと高を括っていた。
実際、紬から依頼を受けた翌日、授業をするため教室に入ってきた脇本先生を目視した時は、霊の存在を感じ取ることができなかった。
至って普通。医者が言いそうな言葉で表現するなら、まごうことなき健康体という状態。
何も問題はなく、全ては紬の勝手な思い込み。
これでこの簡単な依頼は一件落着。授業が終わったら、すぐに結果を報告して安心させてあげるかと、落ちつかなそうにこちらをちらちら見てくる紬を視界の端で認識しつつ思っていたあたしは、その僅か数分後には自らの判断を改めなくてはいけないことに気がついてしまった。
いつも通り、特に面白くもない内容の授業を進めていく脇本先生を観察していると、一瞬だけ微かな残滓のような薄い霊の気配を付着させているのが見えてしまい、あたしは訝しみながら更に意識を集中させ、より緻密な霊視を試みた。
まるで花粉のように、先生の身体に付着する何かの霊体の気配。
本体ではなく、あくまでも残滓。
先生の話す授業内容は完全に聞き流しつつ、ジッと霊視をすること約五分で、漠然とではあるもののその正体に見当をつけることはできた。
先生から感じられる何かしらの気配は、やはり先生に憑りついているモノではなく、別の人に憑りついている霊の気配。
恐らく、先生と一緒に暮らしている家族。または――紬には悪いけど――同棲している女性とか、そっちに憑いている霊の気配が、先生に付着してしまっているだけ。
香水をつけた人と長時間同じ部屋にいると、その匂いが少なからず移ってしまう、それと同じような理屈。
とは言え、問題となるべき霊は先生個人に対して特に攻撃性を見せてはいない様子であるため、正直放っておいても大丈夫と判断できなくもない状況だった。
これを休み時間に紬へ伝え、彼女がどんなリアクションを返してくるか。
そこまで見届けて、ひとまず依頼は完遂したと言えるだろう。
そう思い、休み時間になると同時にあたしの席まで飛んできた紬へ、霊視の結果を伝えると、
「何それ!? 先生って、一人暮らしのはずでしょ? え? 誰と住んでるの?」
真っ先に気にしたのは、霊よりも正体不明な同居人の方だった。
「さすがにそこまでは知らないよ。直接先生に訊いてみたらいいじゃん。とにかく、脇本先生には何も問題はなし。問題なのは、一緒に暮らしてる誰かさんの方で、その人には間違いなく悪い霊が憑いてるはずだよ。どんな霊かとか、その辺りまで詳しく調べることは現状だけじゃ難しいけど。ひとまず、紬からの依頼はこなしたからね。千円ちょうだい」
「あー……うん」
淡々と告げながらあたしが差し出した手の平を見つめ、紬は渋々といった感じで財布を取り出すと、抜き出した千円札を手の平へと載せてきた。
「ありがと。じゃ、これで無事お仕事完了ってことで――」
「いや、待って」
周りの目もあるため、そそくさと千円札を自分の財布へしまいながら話をまとめようとするあたしの声に、紬の声が被さってきた。
何だろうかと手元へ下げていた視線を上向かせると、スッと紬が右手をこちらへと伸ばしてくる。
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