霊媒姉妹の怪異事件録

雪鳴月彦

文字の大きさ
37 / 99
第二章:口渇の原因

口渇の原因 3

しおりを挟む
         2

 どうせ、大したことではないだろうと高を括っていた。

 実際、紬から依頼を受けた翌日、授業をするため教室に入ってきた脇本先生を目視した時は、霊の存在を感じ取ることができなかった。

 至って普通。医者が言いそうな言葉で表現するなら、まごうことなき健康体という状態。

 何も問題はなく、全ては紬の勝手な思い込み。

 これでこの簡単な依頼は一件落着。授業が終わったら、すぐに結果を報告して安心させてあげるかと、落ちつかなそうにこちらをちらちら見てくる紬を視界の端で認識しつつ思っていたあたしは、その僅か数分後には自らの判断を改めなくてはいけないことに気がついてしまった。

 いつも通り、特に面白くもない内容の授業を進めていく脇本先生を観察していると、一瞬だけ微かな残滓ざんしのような薄い霊の気配を付着させているのが見えてしまい、あたしは訝しみながら更に意識を集中させ、より緻密な霊視を試みた。

 まるで花粉のように、先生の身体に付着する何かの霊体の気配。

 本体ではなく、あくまでも残滓。

 先生の話す授業内容は完全に聞き流しつつ、ジッと霊視をすること約五分で、漠然とではあるもののその正体に見当をつけることはできた。

 先生から感じられる何かしらの気配は、やはり先生に憑りついているモノではなく、別の人に憑りついている霊の気配。

 恐らく、先生と一緒に暮らしている家族。または――紬には悪いけど――同棲している女性とか、そっちに憑いている霊の気配が、先生に付着してしまっているだけ。

 香水をつけた人と長時間同じ部屋にいると、その匂いが少なからず移ってしまう、それと同じような理屈。

 とは言え、問題となるべき霊は先生個人に対して特に攻撃性を見せてはいない様子であるため、正直放っておいても大丈夫と判断できなくもない状況だった。

 これを休み時間に紬へ伝え、彼女がどんなリアクションを返してくるか。

 そこまで見届けて、ひとまず依頼は完遂したと言えるだろう。

 そう思い、休み時間になると同時にあたしの席まで飛んできた紬へ、霊視の結果を伝えると、

「何それ!? 先生って、一人暮らしのはずでしょ? え? 誰と住んでるの?」

 真っ先に気にしたのは、霊よりも正体不明な同居人の方だった。

「さすがにそこまでは知らないよ。直接先生に訊いてみたらいいじゃん。とにかく、脇本先生には何も問題はなし。問題なのは、一緒に暮らしてる誰かさんの方で、その人には間違いなく悪い霊が憑いてるはずだよ。どんな霊かとか、その辺りまで詳しく調べることは現状だけじゃ難しいけど。ひとまず、紬からの依頼はこなしたからね。千円ちょうだい」

「あー……うん」

 淡々と告げながらあたしが差し出した手の平を見つめ、紬は渋々といった感じで財布を取り出すと、抜き出した千円札を手の平へと載せてきた。

「ありがと。じゃ、これで無事お仕事完了ってことで――」

「いや、待って」

 周りの目もあるため、そそくさと千円札を自分の財布へしまいながら話をまとめようとするあたしの声に、紬の声が被さってきた。

 何だろうかと手元へ下げていた視線を上向かせると、スッと紬が右手をこちらへと伸ばしてくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

分かりやすい日月神示の内容と解説 🔰初心者向け

蔵屋
エッセイ・ノンフィクション
私は日月神示の内容を今まで学問として研究してもう25年になります。 このエッセイは私の25年間の集大成です。 宇宙のこと、118種類の元素のこと、神さまのこと、宗教のこと、政治、経済、社会の仕組みなど社会に役立たつことも含めていますので、皆さまのお役に立つものと確信しています。 どうか、最後まで読んで頂きたいと思います。  お読み頂く前に次のことを皆様に申し上げておきます。 このエッセイは国家を始め特定の人物や団体、機関を否定して、批判するものではありません。 一つ目は「私は一切の対立や争いを好みません。」 2つ目は、「すべての教えに対する評価や取捨選択は自由とします。」 3つ目は、「この教えの実践や実行に於いては、周囲の事情を無視した独占的排他的言動を避けていただき、常識に照らし合わせて問題を起こさないよう慎重にしていただきたいと思います。 それでは『分かりやすい日月神示 🔰初心者向け』を最後まで、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』 この短歌は私が今年(2025年)元旦に詠んだ歌である。 作家 蔵屋日唱

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

隣人意識調査の結果について

三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」 隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。 一部、確認の必要な点がございます。 今後も引き続き、調査をお願いいたします。 伊佐鷺裏市役所 防犯推進課 ※ ・モキュメンタリー調を意識しています。  書体や口調が話によって異なる場合があります。 ・この話は、別サイトでも公開しています。 ※ 【更新について】 既に完結済みのお話を、 ・投稿初日は5話 ・翌日から一週間毎日1話 ・その後は二日に一回1話 の更新予定で進めていきます。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/1:『はえ』の章を追加。2025/12/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/11/30:『かべにかおあり』の章を追加。2025/12/7の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

処理中です...