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第二章:口渇の原因
口渇の原因 4
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その手に摘まむようにして持たれているのは、五百円玉。
「……何?」
「依頼続行。行こう、一緒に。先生の元へ。そして、直接話を聞いてみよう。一緒に暮らしてる人は本当にいるのかと、いるとしたらその人に関して何か悩みを抱えたりはしていないか」
あたしには見せたことがない真面目な顔と声で、紬が言ってくる。
あんたの方が何かに憑かれたんじゃないのと言いたくなるのをひとまず堪え、あたしは目の前に突き出された五百円を指差す。
「……これで動けって?」
「なけなしだよ。もう、お年玉貰うまで財布の中身は三百五円しかない」
確認するあたしへ、頷くことなくそう告げてきた紬は覚悟を決めるように大きく鼻から息をついた。
「そっか。じゃあ、その残りの三百五円も貰おうか」
「……鬼かよ」
「嘘だよ」
機械から出てきたレシートを引き取るのと同じ動作で五百円を貰い受け、あたしはやれやれと心の中で呟きながら立ち上がる。
「貴重なお小遣いを犠牲にしてまで心配するなんて、紬は本当に脇本先生が好きなんだね」
「うるさいなぁ。別にそういうわけじゃ……」
少したじろぐように呻く紬の態度と断言しきれない言葉を聞く限り、やはりまんざらでもなさそうだ。
そんなことを胸中で思いほくそ笑みながら、あたしは
「さ、片付けられる案件はさっさと済ませたいから。職員室に行こうか」
やれやれといった気分で立ち上がり、紬を連れて廊下へと歩きだした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「え? 俺に悩み? いきなり何だ?」
職員室へ入り、真っ直ぐに脇本先生の席へと向かったあたしと紬は、これといった説明も何もしないまま単刀直入に話を切り出した。
「いえ、何か紬が脇本先生のことを気にしているみたいでして。最近になって、先生の様子が変って言うか前みたいに元気がないように見えるらしいんですよね」
この辺りは自分で話してくれないかなと、横目で紬を一瞥するも、当の本人は喋るつもりがないのか神妙な顔で目を伏せて立っているだけ。
「俺の様子が? そんなおかしく見えてるのか?」
これでは仕方ないと気持ちを割り切り、あたしは訝し気な視線を向けてくる先生へと意識を戻す。
「先生、ぶっちゃけた話になりますけど……今現在、誰かと一緒に暮らしてますよね? その人のことで、何かしら悩みというか問題的なものを抱えていたりはしませんか?」
紬のペースに合わせていては、休み時間が終わってしまう。
さっきまではあんなに勇んでいたくせに、本人を前にした途端にしおらしくなるのは、人を巻き込まない時に一人でやっていてほしい。
「は? いや……本当にどうしたんだ急に。お前たち、誰かから何か聞いたりしたのか?」
あたしの言葉に過敏な反応を示した先生は、椅子に預けていた背中を浮かすように離し、身体の向きをこちらへと変えてきた。
「いえ、紬から先生の様子がおかしいって聞いただけです。後のことは全部……えっと、あたしが個人的に見たというか」
基本的に、自分に霊能力があるといった話を自ら他人へ教えることは避けている。
これは面倒事を避ける目的であり、姉妹での決め事ってことになっているため、できる限り破ることはしたくない。
「……何?」
「依頼続行。行こう、一緒に。先生の元へ。そして、直接話を聞いてみよう。一緒に暮らしてる人は本当にいるのかと、いるとしたらその人に関して何か悩みを抱えたりはしていないか」
あたしには見せたことがない真面目な顔と声で、紬が言ってくる。
あんたの方が何かに憑かれたんじゃないのと言いたくなるのをひとまず堪え、あたしは目の前に突き出された五百円を指差す。
「……これで動けって?」
「なけなしだよ。もう、お年玉貰うまで財布の中身は三百五円しかない」
確認するあたしへ、頷くことなくそう告げてきた紬は覚悟を決めるように大きく鼻から息をついた。
「そっか。じゃあ、その残りの三百五円も貰おうか」
「……鬼かよ」
「嘘だよ」
機械から出てきたレシートを引き取るのと同じ動作で五百円を貰い受け、あたしはやれやれと心の中で呟きながら立ち上がる。
「貴重なお小遣いを犠牲にしてまで心配するなんて、紬は本当に脇本先生が好きなんだね」
「うるさいなぁ。別にそういうわけじゃ……」
少したじろぐように呻く紬の態度と断言しきれない言葉を聞く限り、やはりまんざらでもなさそうだ。
そんなことを胸中で思いほくそ笑みながら、あたしは
「さ、片付けられる案件はさっさと済ませたいから。職員室に行こうか」
やれやれといった気分で立ち上がり、紬を連れて廊下へと歩きだした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「え? 俺に悩み? いきなり何だ?」
職員室へ入り、真っ直ぐに脇本先生の席へと向かったあたしと紬は、これといった説明も何もしないまま単刀直入に話を切り出した。
「いえ、何か紬が脇本先生のことを気にしているみたいでして。最近になって、先生の様子が変って言うか前みたいに元気がないように見えるらしいんですよね」
この辺りは自分で話してくれないかなと、横目で紬を一瞥するも、当の本人は喋るつもりがないのか神妙な顔で目を伏せて立っているだけ。
「俺の様子が? そんなおかしく見えてるのか?」
これでは仕方ないと気持ちを割り切り、あたしは訝し気な視線を向けてくる先生へと意識を戻す。
「先生、ぶっちゃけた話になりますけど……今現在、誰かと一緒に暮らしてますよね? その人のことで、何かしら悩みというか問題的なものを抱えていたりはしませんか?」
紬のペースに合わせていては、休み時間が終わってしまう。
さっきまではあんなに勇んでいたくせに、本人を前にした途端にしおらしくなるのは、人を巻き込まない時に一人でやっていてほしい。
「は? いや……本当にどうしたんだ急に。お前たち、誰かから何か聞いたりしたのか?」
あたしの言葉に過敏な反応を示した先生は、椅子に預けていた背中を浮かすように離し、身体の向きをこちらへと変えてきた。
「いえ、紬から先生の様子がおかしいって聞いただけです。後のことは全部……えっと、あたしが個人的に見たというか」
基本的に、自分に霊能力があるといった話を自ら他人へ教えることは避けている。
これは面倒事を避ける目的であり、姉妹での決め事ってことになっているため、できる限り破ることはしたくない。
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