桜の喪失を救うために

雪鳴月彦

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出会い

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 思っていたよりも小柄で、自分を引っ張り倒すほどの力があるようには到底見えない。

「……あなた、誰?」

 唐突に、少女が口を開いた。

 言われた内容が瞬時には理解できずにポカンとなったが、なんとか気持ちを持ち直す。

「だ……、誰って、そりゃこっちの台詞だよ。いきなり人に襲いかかるような真似して、いったい何考えてんだよお前?」

 密着していた顔を離して、俺は急いで立ち上がる。

 こんな夜中の廃病院で、この少女は何をしていたのか。廃墟マニアの類いか、それともオカルト好きの変わり者か。

「ごめんなさい。敵かなと思ったからつい……」

 申し訳なさそうな声音でそう言葉を返して、少女もゆっくりと屈んでいた身体を元に戻した。

「は? 敵? 一人でサバゲーでもやってんの?」

 ひょっとして、この少女は電波系ってやつか? そんな疑念が浮かび、つい表情が引きつりそうになる。

「サバゲー? 何、それ?」

 訝しげな気配と共に、少女が首を傾げて聞き返す。

「何って、サバイバルゲームの……つっても女子にゃわかんねーのかな。きみさ、ここで何してんの? ひょっとして家出とか?」

 サバゲーの会話をする必要性の無さを冷静に自覚し、俺はもっと本質的な会話を試みることにする。

「いえで? よくわからないけど、あたしがここにいるのは他に隠れて生活できる場所が見つからなかったからで、別に悪いことは何もしてない……つもりだけど」

 最後の方は何故か自信なさげに彼女は言った。

「隠れて生活って、逃亡者じゃあるまいし。まさか、誰かに付け狙われてるわけでもないんだろ? もしそうなら、警察にでも行った方が無難じゃね?」

 粘着質な彼氏にでも追われてるのか。

 もしもそういった理由でここにいたなら、俺に敵意を向けてまで警戒してきたことには納得できる。

 しかし、いつから身を潜めているのか知らないが、何日もこんな場所で乞食みたいな暮らしをしていても仕方がないだろうに。

「けいさつ? そこに行くと、あたしは助けてもらえるの? あたしの記憶を元に戻せる術士とかもいる?」

 まるで何かを期待するような含みで、少女は僅かに声のトーンを上げて訊ねてきた。

「術士?」

 問われた言葉の中に聞き慣れない単語が紛れ込んでいたため、俺は首を捻る。

「体術とかの訓練受けてる人のことか? まぁ、警察だったらそれくらいはやってると思うけど」

「体術じゃなくて、法術とか魔術使える種族じゃないと意味がないでしょう」

「は?」

「自分で記憶を復元できれば一番良いんだろうけど、そんなことはさすがに不可能だし。お願い、あたしの記憶を戻せる術士を誰か紹介して?」

 胸元に手をやりながら、懇願するようにこちらへ詰め寄ってくる少女。

「……ごめん、ちょっと何言ってるかわからない」

 ひょっとすると、これは病院に連れていかなきゃヤバいレベルかもしれない。

 たぶん、何かのアニメにでも毒されたのだろう。

「とりあえずさ、家はどこ? スマホとか持ってないの?」

 これ以上深く関わらない方が良い。

 今更ながらそう理解し、俺はなるべく当たり障りのない返答をしてこの場を去ろうと判断した。
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