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廃病院でサクラと出会ったあの日の夜、俺は記憶を取り戻したいと迫るサクラへ近所にあるお寺と神社の場所だけを教えて廃病院を後にした。というか逃げた。
悪魔が相手なら、警察よりもむしろ神聖な場所に行かせた方が、いろいろと効果があるのではないか。
外国だと教会とかで悪魔払いをしたりするなんて話を聞いたことがあったし、日本ならお寺か神社あたりに任せれば無事に問題解決だろう。
そんなことを考えてのアドバイスだったわけだが、まずこれが既に間違っていた。
翌日の夜、一人自分の部屋で漫画を読んでいると、突然開けていた窓からサクラが飛び込んできたのである。
二階にある部屋の窓から、いきなり黒い物体が飛び込んできたため、この時はさすがの俺も驚いた。
状況が掴めず情けない声をあげながら漫画を投げ出す俺を見下ろし、サクラはふてくされたような表情で詰め寄ると――しかも土足で――ずいっと不機嫌丸出しの顔を近づけてきた。
「嘘つき」
「はぁ? い、いきなり現れて何なんだよお前は!?」
開口一番に告げられたその言葉に、つい間抜けな声を返す。
だが、そんな反応が癪に触ったのか、サクラは更に顔をしかめて言葉を吐き出してきた。
「あなた、神社かお寺に行けばあたしの問題解決するって言ったでしょう?」
「あ、ああ。……行ってきたの?」
「行ったわよ、言われた通りに。で、何? どっちも変なボロ屋が建ってるだけで何にもないじゃない。お寺の方には一応人間が住んでたけど、あなたがあたしの記憶戻せる人なのって聞いたら、最近はそういう変な遊びが流行っているのかい? ってどこか同情するように言われただけだし、何の成果も無かったわ。なんかさ、お寺から帰る時すっごい切ない気分になっちゃった」
「いや、なっちゃった言われても……」
「あなたのせいでしょ!」
ピシャリと告げられ、仕方なく俺は口を閉ざす。その瞬間を待っていたかのように。
「――ちょっと、誰か来てるの?」
突然、部屋の外から姉貴の声が聞こえてきた。
「っ――!」
こんな現場を目撃されるのはあまりにも都合が悪い。
家族に内緒で女子を部屋に連れ込んでいたとか、そんな誤解でもされたら一大事だし、あの姉貴なら真っ先にそういう発想に辿り着くはずだ。
「いや、何でもない! 何でもないから、今すぐ自分の部屋に帰れ!!」
「何を馬鹿みたいに騒いでんの?」
必死の抑制も通じることなく、部屋のドアが呆気なく開かれる。鍵をかけておけば良かったと後悔するも、後の祭りだ。
「だいたい、こんな時間に一人で騒いでるとかいよいよあんたの脳味噌も――って、あれ? お客さん来てたの?」
遠慮のかけらもなく部屋を覗き込んできた姉貴は、サクラの姿を見るなりきょとんとしたような顔になる。
「……へぇ、あんたが女の子を連れ込むなんてねぇ。これはこれは、とんだお邪魔を致しました」
「いや待て。予想通りだけど絶対誤解してるだろ。別にこの子と俺は何の関係もなくて――」
廃病院でサクラと出会ったあの日の夜、俺は記憶を取り戻したいと迫るサクラへ近所にあるお寺と神社の場所だけを教えて廃病院を後にした。というか逃げた。
悪魔が相手なら、警察よりもむしろ神聖な場所に行かせた方が、いろいろと効果があるのではないか。
外国だと教会とかで悪魔払いをしたりするなんて話を聞いたことがあったし、日本ならお寺か神社あたりに任せれば無事に問題解決だろう。
そんなことを考えてのアドバイスだったわけだが、まずこれが既に間違っていた。
翌日の夜、一人自分の部屋で漫画を読んでいると、突然開けていた窓からサクラが飛び込んできたのである。
二階にある部屋の窓から、いきなり黒い物体が飛び込んできたため、この時はさすがの俺も驚いた。
状況が掴めず情けない声をあげながら漫画を投げ出す俺を見下ろし、サクラはふてくされたような表情で詰め寄ると――しかも土足で――ずいっと不機嫌丸出しの顔を近づけてきた。
「嘘つき」
「はぁ? い、いきなり現れて何なんだよお前は!?」
開口一番に告げられたその言葉に、つい間抜けな声を返す。
だが、そんな反応が癪に触ったのか、サクラは更に顔をしかめて言葉を吐き出してきた。
「あなた、神社かお寺に行けばあたしの問題解決するって言ったでしょう?」
「あ、ああ。……行ってきたの?」
「行ったわよ、言われた通りに。で、何? どっちも変なボロ屋が建ってるだけで何にもないじゃない。お寺の方には一応人間が住んでたけど、あなたがあたしの記憶戻せる人なのって聞いたら、最近はそういう変な遊びが流行っているのかい? ってどこか同情するように言われただけだし、何の成果も無かったわ。なんかさ、お寺から帰る時すっごい切ない気分になっちゃった」
「いや、なっちゃった言われても……」
「あなたのせいでしょ!」
ピシャリと告げられ、仕方なく俺は口を閉ざす。その瞬間を待っていたかのように。
「――ちょっと、誰か来てるの?」
突然、部屋の外から姉貴の声が聞こえてきた。
「っ――!」
こんな現場を目撃されるのはあまりにも都合が悪い。
家族に内緒で女子を部屋に連れ込んでいたとか、そんな誤解でもされたら一大事だし、あの姉貴なら真っ先にそういう発想に辿り着くはずだ。
「いや、何でもない! 何でもないから、今すぐ自分の部屋に帰れ!!」
「何を馬鹿みたいに騒いでんの?」
必死の抑制も通じることなく、部屋のドアが呆気なく開かれる。鍵をかけておけば良かったと後悔するも、後の祭りだ。
「だいたい、こんな時間に一人で騒いでるとかいよいよあんたの脳味噌も――って、あれ? お客さん来てたの?」
遠慮のかけらもなく部屋を覗き込んできた姉貴は、サクラの姿を見るなりきょとんとしたような顔になる。
「……へぇ、あんたが女の子を連れ込むなんてねぇ。これはこれは、とんだお邪魔を致しました」
「いや待て。予想通りだけど絶対誤解してるだろ。別にこの子と俺は何の関係もなくて――」
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