桜の喪失を救うために

雪鳴月彦

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不穏の兆し

不穏の兆し

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 遠ざかっていく少女の後ろ姿を、僕はじっと観察する。

 小柄な体格と、長い黒髪。オレンジジュースを片手に何やら喋りながら歩く彼女の名は、サクラ=クラウン=ケフェリウス。

「夜月桜、ね。どうなっているのか気になっていたけど、まさか人間に紛れ込んで生きる知恵を身につけていたとは」

 記憶と知識を司る悪魔。それが彼女の正体であることを、自分は知っている。

 一緒に歩いている二人は友達だろうか。

 突然現れたはずのサクラをあれほど自然に受け入れているということは、転校生として身分を偽っているか、或いは――。

 ――自分の能力で、大規模な記憶の捏造を施したか? 下手すればこの町そのものが既に……。

 ぐるりと周囲を歩く人波を見渡す。ここを行き交うほぼ全員が、サクラの能力に支配されているかもしれないという可能性。

「……面白いな」

 思わずにやけそうになるのをなんとか堪える。

 ――あいつが着ていた制服は見覚えがある。居場所がわかった以上、僕も大人しく様子を見てる必要はないか。

 せっかく手に入れた玩具を野放しにしておくのももったいない。せいぜい楽しませてもらわないと。

 ――いざとなれば、いつでも始末できるしな。

 悪魔である彼女の血は、何色なのだろう。物理的に致命傷を与えれば、どれくらいの損傷で死亡するのか。

 そして死ぬ間際、どんな事を考えながら生き絶えていくのか……。

「果てさて、出来損ないの悪魔さんは、どんな“物語”を見せてくれるかな?」

 喉の奥で笑いながら、僕は歩き去る悪魔をその姿が消えるまで見つめ続けていた。
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