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夜の訪問者
夜の訪問者
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「難しい説明苦手だからうまく言えないけど、この世界には法律っていうのがあるでしょう? それと似たようなもの。種族ごとに代々伝えられてる風習とか、そういう感じのことを想像してもらえれば」
「……あー、わかるようなわからんような」
そういった規則や風習があったとしても、やはりそれを破る仲間が出てくることは否めないんじゃないか。
この世界の法律や風習だって、ニュースを見れば毎日のように破られているわけだし。
殺人、窃盗、詐欺、誘拐、暴力。身近なものなら、信号無視や自転車の二人乗り。
いとも簡単に、決め事なんか破られるのだ。
桜の住む世界やそこで暮らす住民たちにどれほどのモラルや良識があるのかは知らないが、そこにあるルールが絶対に破られないなんてことは決して断言などできないはずだ。
「なぁ、桜――」
「それで明日の夜なんだけどさ」
こちらの声に被せるようにして、桜も同時に口を開いた。
仕方なく、俺は発言を飲み込む。
「もう一度、あの本屋に行ってみようと思うの。ひょっとしたら何かわかるかもしれないし」
「本屋に? 夜に行っても店閉まってるだろ」
「そうかもしれないけど、手掛かりくらい見つけられるかもしれないじゃない?」
「うーん……」
じゃない? と言われても俺には判断のしようがないわけで。
「相手はあたしのことを知ってるかもしれない。それはつまり、あたしがこの世界に来た理由や記憶を無くした原因も知ってる可能性があるってことでしょ? 正体を突き止めて、話を聞き出す必要があるわ」
ぐっと拳を固める桜。
そんなうまくいくものなのかと疑念を抱いてしまうが、それ以外に記憶を戻す当てがあるかと言われたらないのも現実である。
「つーかさぁ、大丈夫だろうな?」
胡散臭げに俺が言うと、桜は
「何が?」
と首を傾げた。
「お前の正体知ってるってことは、下手すればそいつも特殊な能力を持ってるんじゃねーのか?」
他人の記憶を自由に操作するだけでなく、更に得体の知れない奴まで現れてしまっては、正直俺には荷が重すぎる。
しかし、そんなこちらの心配をよそに桜はひらひらと手を振ってみせてきた。
「その辺は心配しなくて良いよ。あたしが守ってあげるから」
「いや、守る言われても……」
いくら相手が悪魔とはいえ、女子の口からそういうことを言われると、男の身としては情けない気持ちが湧き上がってしまうのだが……。
というか、こいつのこの無駄に不安も迷いも無い自信は、いったいどこから出てくるのだろう。
「もし自分よりとんでもない力を持った相手だったら、どうするつもりだよ?」
「ないない。仮にそんなのがこの世界に来てるとしたら、とっくに大騒ぎになってると思うけど?」
余裕ぶった表情でさらりと答え、桜はテレビの前に移動する。それから、遊んだままになって片付けずにいたゲーム機へと目をつけた。
「あ、ちょっとゲームやらせてよ。まだやったことないんだよね。スイッチはこれ?」
「おいコラ。勝手に人のもんいじんなよ」
こちらの返事を聞くこともなくテレビとゲームのスイッチを入れる悪魔へ、俺は批難の声を浴びせながら舌打ちを鳴らす。
「結局遊びに来たのかお前は……」
桜が感じたという不穏な気配。それが果たしてどういったものなのか。
――大事な局面かもしれないだろうに、もう少し深刻になれよな馬鹿悪魔。
漠然とした嫌な予感を胸に潜ませつつ、俺はお気楽に格ゲーを始めた桜へがっくりと肩を落とした。
「……あー、わかるようなわからんような」
そういった規則や風習があったとしても、やはりそれを破る仲間が出てくることは否めないんじゃないか。
この世界の法律や風習だって、ニュースを見れば毎日のように破られているわけだし。
殺人、窃盗、詐欺、誘拐、暴力。身近なものなら、信号無視や自転車の二人乗り。
いとも簡単に、決め事なんか破られるのだ。
桜の住む世界やそこで暮らす住民たちにどれほどのモラルや良識があるのかは知らないが、そこにあるルールが絶対に破られないなんてことは決して断言などできないはずだ。
「なぁ、桜――」
「それで明日の夜なんだけどさ」
こちらの声に被せるようにして、桜も同時に口を開いた。
仕方なく、俺は発言を飲み込む。
「もう一度、あの本屋に行ってみようと思うの。ひょっとしたら何かわかるかもしれないし」
「本屋に? 夜に行っても店閉まってるだろ」
「そうかもしれないけど、手掛かりくらい見つけられるかもしれないじゃない?」
「うーん……」
じゃない? と言われても俺には判断のしようがないわけで。
「相手はあたしのことを知ってるかもしれない。それはつまり、あたしがこの世界に来た理由や記憶を無くした原因も知ってる可能性があるってことでしょ? 正体を突き止めて、話を聞き出す必要があるわ」
ぐっと拳を固める桜。
そんなうまくいくものなのかと疑念を抱いてしまうが、それ以外に記憶を戻す当てがあるかと言われたらないのも現実である。
「つーかさぁ、大丈夫だろうな?」
胡散臭げに俺が言うと、桜は
「何が?」
と首を傾げた。
「お前の正体知ってるってことは、下手すればそいつも特殊な能力を持ってるんじゃねーのか?」
他人の記憶を自由に操作するだけでなく、更に得体の知れない奴まで現れてしまっては、正直俺には荷が重すぎる。
しかし、そんなこちらの心配をよそに桜はひらひらと手を振ってみせてきた。
「その辺は心配しなくて良いよ。あたしが守ってあげるから」
「いや、守る言われても……」
いくら相手が悪魔とはいえ、女子の口からそういうことを言われると、男の身としては情けない気持ちが湧き上がってしまうのだが……。
というか、こいつのこの無駄に不安も迷いも無い自信は、いったいどこから出てくるのだろう。
「もし自分よりとんでもない力を持った相手だったら、どうするつもりだよ?」
「ないない。仮にそんなのがこの世界に来てるとしたら、とっくに大騒ぎになってると思うけど?」
余裕ぶった表情でさらりと答え、桜はテレビの前に移動する。それから、遊んだままになって片付けずにいたゲーム機へと目をつけた。
「あ、ちょっとゲームやらせてよ。まだやったことないんだよね。スイッチはこれ?」
「おいコラ。勝手に人のもんいじんなよ」
こちらの返事を聞くこともなくテレビとゲームのスイッチを入れる悪魔へ、俺は批難の声を浴びせながら舌打ちを鳴らす。
「結局遊びに来たのかお前は……」
桜が感じたという不穏な気配。それが果たしてどういったものなのか。
――大事な局面かもしれないだろうに、もう少し深刻になれよな馬鹿悪魔。
漠然とした嫌な予感を胸に潜ませつつ、俺はお気楽に格ゲーを始めた桜へがっくりと肩を落とした。
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