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二人きりの会話
二人きりの会話
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「真剣な顔するから何かと思えば、そのことか。わざわざ二人きりにするほどの話でもないじゃん」
「は? 何が?」
「気を利かせて二人だけになるように、他の人追い払ったってこと。あの人たちに悪いことしちゃったかな」
屋上の出入口を振り返り、桜は申し訳なさそうな声をだす。
「今すれ違ったあの三人組のことか?」
「それ以外にいないでしょ? 記憶を操作して、他の場所に用事があるよう錯覚させたの」
「……いつの間に」
俺には、桜がいつ自分の能力を発動させているのかを把握する術がない。それ故に、どこでどんな改竄を行っているのか、側にいても気づけないのだ。
「雄治と一緒に階段上り始めてすぐだよ。それより、話ってどんなこと?」
こちらのモヤモヤとした気分をよそに、桜が軽い調子で話を先に進めてくる。
「ああ……、今夜の件なんだけど、ひとまず見送った方が良いんじゃないかと思うんだ」
仕方なく、俺は本題に頭を切り替え口を開いた。
「何? まさか、また約束破るつもり?」
「そういうんじゃねーよ」
即座に顔をしかめる桜へ首を横に振りながら、俺は話を続ける。
「今朝話したし、クラスや周りでも噂になってるだろ? 駅前で起きたっていう変な事件。犯人はまだ捕まってねぇし、たぶん駅前周辺は警察が徘徊してると思うんだよ。だから、今回は一旦見送るか、別の計画立てた方が良いんじゃないかと思ってさ」
「どうして?」
「……いや、どうしてって。お前人の話をちゃんと聞けよ」
眉根を寄せて疑問符を浮かべる桜に、ガクリと肩を落とす。ここまでの説明で、普通は理解できそうな気がするのだが……。
「あのな、警察に見つかったらいろいろ面倒なことになるし、犯人と出くわしたら危険だろって意味だよ。少なくとも、本屋に忍び込むなんてことは絶対できないからな。ただでさえ防犯設備とか設置してるんだろうし」
「警察なんて、全員遠ざければ問題ないじゃん。人殺しが出てきても、あたしがやっつけちゃえば済むし。あ、自分から逮捕されてもらうように記憶を変えた方が楽かな。防犯設備はよくわかんないからその時に考える」
どこまでも能天気な態度で、桜は喋る。
こちらが本気で心配し不安にもなっているというのに、ここまであっけらかんとしていられるとさすがに腹立たしい気分にもなるが、そこはぐっと我慢した。
「じゃあもし、今回発生した事件がお前と関係していたとしたら、どうするんだ?」
お気楽な顔から目を逸らすような心地で、誰もいない校庭に首を向ける。雨で濡れた土が、まるで沈殿する泥のように見えた。
「あたしと?」
「殺された人、身体のあちこちを喰い千切られたみたいになってたって言ってただろ? 冷静に考えてみれば、そんなの人間技とは思えない。絶対にないとは言い切れないけど、ちょっと尋常じゃないんだよ」
「つまり、あたしと同じように別の世界から来た、誰かの仕業かもってこと?」
「その可能性は高いんじゃないか? 昨日桜が感じた視線も、事件が起きた場所の近くなんだしさ」
この言葉に、桜が逡巡するくらいの反応はみせるかと期待していたが、どうやら思い通りにはならないものらしい。
悩むどころか逆に顔を輝かせると、傍目にもわかるほどの得意そうな表情で嬉しそうに言葉を返してきた。
「は? 何が?」
「気を利かせて二人だけになるように、他の人追い払ったってこと。あの人たちに悪いことしちゃったかな」
屋上の出入口を振り返り、桜は申し訳なさそうな声をだす。
「今すれ違ったあの三人組のことか?」
「それ以外にいないでしょ? 記憶を操作して、他の場所に用事があるよう錯覚させたの」
「……いつの間に」
俺には、桜がいつ自分の能力を発動させているのかを把握する術がない。それ故に、どこでどんな改竄を行っているのか、側にいても気づけないのだ。
「雄治と一緒に階段上り始めてすぐだよ。それより、話ってどんなこと?」
こちらのモヤモヤとした気分をよそに、桜が軽い調子で話を先に進めてくる。
「ああ……、今夜の件なんだけど、ひとまず見送った方が良いんじゃないかと思うんだ」
仕方なく、俺は本題に頭を切り替え口を開いた。
「何? まさか、また約束破るつもり?」
「そういうんじゃねーよ」
即座に顔をしかめる桜へ首を横に振りながら、俺は話を続ける。
「今朝話したし、クラスや周りでも噂になってるだろ? 駅前で起きたっていう変な事件。犯人はまだ捕まってねぇし、たぶん駅前周辺は警察が徘徊してると思うんだよ。だから、今回は一旦見送るか、別の計画立てた方が良いんじゃないかと思ってさ」
「どうして?」
「……いや、どうしてって。お前人の話をちゃんと聞けよ」
眉根を寄せて疑問符を浮かべる桜に、ガクリと肩を落とす。ここまでの説明で、普通は理解できそうな気がするのだが……。
「あのな、警察に見つかったらいろいろ面倒なことになるし、犯人と出くわしたら危険だろって意味だよ。少なくとも、本屋に忍び込むなんてことは絶対できないからな。ただでさえ防犯設備とか設置してるんだろうし」
「警察なんて、全員遠ざければ問題ないじゃん。人殺しが出てきても、あたしがやっつけちゃえば済むし。あ、自分から逮捕されてもらうように記憶を変えた方が楽かな。防犯設備はよくわかんないからその時に考える」
どこまでも能天気な態度で、桜は喋る。
こちらが本気で心配し不安にもなっているというのに、ここまであっけらかんとしていられるとさすがに腹立たしい気分にもなるが、そこはぐっと我慢した。
「じゃあもし、今回発生した事件がお前と関係していたとしたら、どうするんだ?」
お気楽な顔から目を逸らすような心地で、誰もいない校庭に首を向ける。雨で濡れた土が、まるで沈殿する泥のように見えた。
「あたしと?」
「殺された人、身体のあちこちを喰い千切られたみたいになってたって言ってただろ? 冷静に考えてみれば、そんなの人間技とは思えない。絶対にないとは言い切れないけど、ちょっと尋常じゃないんだよ」
「つまり、あたしと同じように別の世界から来た、誰かの仕業かもってこと?」
「その可能性は高いんじゃないか? 昨日桜が感じた視線も、事件が起きた場所の近くなんだしさ」
この言葉に、桜が逡巡するくらいの反応はみせるかと期待していたが、どうやら思い通りにはならないものらしい。
悩むどころか逆に顔を輝かせると、傍目にもわかるほどの得意そうな表情で嬉しそうに言葉を返してきた。
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