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二人きりの会話
二人きりの会話
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「それなら、なおさら行かなきゃ駄目じゃない」
「は?」
「だってそうでしょ? もしその犯人が、雄治の言うように異世界から来た存在だとしたなら、あたしの記憶を元に戻す方法やきっかけを知ってるかもしれないのよ?」
「いやまぁ、それはそうなんだけどさ。どんな奴が待ち構えてるかわかんねーし、もっと慎重に計画を立てる必要があるんじゃねぇかってことを言いたいんだよ」
汗でじっとりとする首筋を擦って、不快感をごまかす。
桜の言い分はわかるし、そういう返事が返ってくることもあり得るだろうと、ほんの少しは予想していた。
してはいたが、だからと言ってそれにあっさりと同意するなんてこと、普通の人間である俺にできるわけがない。
「相手の正体もわからないのに、計画なんて立てようがないじゃない。雄治は男の子なんだから、あんまりビクビクしてるとカッコ悪いよ?」
「……」
あくまでもまともに取り合うつもりはないらしい。桜はからかうように言ってこちらの顔を覗き込むと、にこりと微笑んでみせてきた。
「……いざとなったら、俺は一人でも逃げるからな」
「別に良いよ。そのときは無理矢理でも連れ戻すから」
「お前は俺をどうしたいんだよ……」
人が真剣に話しているのに、この馬鹿悪魔にはそれがわからないのだろうか。脱力する心地で瞼を閉じて、乱れかけた気持ちをなんとか持ち直そうと努力する。
「でもね、雄治は本当に心配しないで。あたしは雄治を守る自信があるし、怪我なんてさせないから。これは本当に約束してあげる」
閉じた瞼の向こうから、そんな桜の言葉が耳に届く。
「いや、そう言われてもな」
その守れる自信の根拠がはっきりしないし、守りきれないほどの脅威が待ち構えていたらどうするんだという不安は拭えない。
ポッと、頬に何かが落ちてくる感触に瞼を開く。空を見上げると、雨粒が顔を掠めて地面に吸い込まれていくところだった。
「あー、また雨降ってきたね。中に戻ろう? 濡れたら風邪引くでしょ?」
一緒に顔を上げた桜が、扉を指差して告げる。
「ああ……」
成果の得られなかったやり取りに不満を抱きつつ、仕方なく俺は踵を返して屋内へと戻りだす。
――どうでも良いような場面でばかり素直になってないで、こういう大事な局面でも少しは聞き分けよくなれっての。
「あ、雨降ってても予定変更しないから、そこんとこよろしくね」
「……はぁ」
まるで胸中でのぼやきを叩き落とすかのような桜の台詞は聞き流し、俺は憂鬱に溜息を一つこぼし、重い足取りで階段を下りはじめた。
「は?」
「だってそうでしょ? もしその犯人が、雄治の言うように異世界から来た存在だとしたなら、あたしの記憶を元に戻す方法やきっかけを知ってるかもしれないのよ?」
「いやまぁ、それはそうなんだけどさ。どんな奴が待ち構えてるかわかんねーし、もっと慎重に計画を立てる必要があるんじゃねぇかってことを言いたいんだよ」
汗でじっとりとする首筋を擦って、不快感をごまかす。
桜の言い分はわかるし、そういう返事が返ってくることもあり得るだろうと、ほんの少しは予想していた。
してはいたが、だからと言ってそれにあっさりと同意するなんてこと、普通の人間である俺にできるわけがない。
「相手の正体もわからないのに、計画なんて立てようがないじゃない。雄治は男の子なんだから、あんまりビクビクしてるとカッコ悪いよ?」
「……」
あくまでもまともに取り合うつもりはないらしい。桜はからかうように言ってこちらの顔を覗き込むと、にこりと微笑んでみせてきた。
「……いざとなったら、俺は一人でも逃げるからな」
「別に良いよ。そのときは無理矢理でも連れ戻すから」
「お前は俺をどうしたいんだよ……」
人が真剣に話しているのに、この馬鹿悪魔にはそれがわからないのだろうか。脱力する心地で瞼を閉じて、乱れかけた気持ちをなんとか持ち直そうと努力する。
「でもね、雄治は本当に心配しないで。あたしは雄治を守る自信があるし、怪我なんてさせないから。これは本当に約束してあげる」
閉じた瞼の向こうから、そんな桜の言葉が耳に届く。
「いや、そう言われてもな」
その守れる自信の根拠がはっきりしないし、守りきれないほどの脅威が待ち構えていたらどうするんだという不安は拭えない。
ポッと、頬に何かが落ちてくる感触に瞼を開く。空を見上げると、雨粒が顔を掠めて地面に吸い込まれていくところだった。
「あー、また雨降ってきたね。中に戻ろう? 濡れたら風邪引くでしょ?」
一緒に顔を上げた桜が、扉を指差して告げる。
「ああ……」
成果の得られなかったやり取りに不満を抱きつつ、仕方なく俺は踵を返して屋内へと戻りだす。
――どうでも良いような場面でばかり素直になってないで、こういう大事な局面でも少しは聞き分けよくなれっての。
「あ、雨降ってても予定変更しないから、そこんとこよろしくね」
「……はぁ」
まるで胸中でのぼやきを叩き落とすかのような桜の台詞は聞き流し、俺は憂鬱に溜息を一つこぼし、重い足取りで階段を下りはじめた。
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