桜の喪失を救うために

雪鳴月彦

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異形との遭遇

異形との遭遇

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 自販機に怒る桜を思い出し、つい笑いそうになる。

 まだまだこの世界での生活に慣れていない部分が多いのかもしれないが、せめて一般常識くらいはきっちりと身につけてほしいものだ。

 もっとも、そんなことを本人に言ったところで、またきょとんと首を傾げられそうな予感しかしないが。

 生温い夜風が絡み付くように吹き抜ける。じっとりと湿る自分の肌に不快感を抱き、俺は街路樹から背を離すと自販機へ向かい歩きだす。

 幸い、ズボンのポケットに財布を捩じ込んでいたので、ジュースくらいは買える。

 桜の分も何か買っておいてやろうかと考えながら財布を取り出し、そこで俺はふと近くの暗闇に目をやった。

 そして同時に、足の動きを止める。

「……」

 自分の立つ位置から十数メートルくらい離れた位置に、誰かが立っているのがシルエットでわかった。

 身長はそこそこ高い。百七十以上はあるか。

 こちらに顔を向けているのはわかるが、表情までは判断しきれない。ただ、被っている帽子や服装の特徴から、相手の正体だけは目星をつけることができた。

 ――警察……か?

 そのシルエットを見る限りでは、連想できるイメージがそれしかない。こちらの話し声か物音でも聞きつけてしまったか、それともたまたま居合わせてしまったのか。

 何にせよ。

 ――ばれたらまずいな。

 こんな場面を咎められたら、いろいろと面倒だ。ましてや桜は今屋根の上。

 そんな所に女子高生がいるなんてばれれば、不審どころの話ではなくなるし、万が一何事もないかのように飛び降りてこられたら、驚かせるでけでは済まなくなる。

 下手すれば桜自体が変に疑われ――。

 と、そこで俺は気づいた。

 一瞬当たり前のように目の前の展開を受け入れそうになったが、これはおかしいことなのではないか。

 ――この人……何でここにいるんだ?

 今現在、ここら周辺は桜の能力によって隔離されている状態のはず。桜が能力を解除したというならわかるが、こんな中途半端なタイミングでそんなことをしたとは思えない。

 ならば、ここにいるこの男はいったい何者だというのだろう。

 ――断言はできねぇけど――これは、こいつはおかしい。

 咄嗟に、俺は屋根の上にいる桜を呼び戻しそうと上方へ首を向けていた。

「桜――!」

 俺の反射的な呼びかけと重なるように、ザッという音を立て桜が眼前に落下してきた。

「さ、桜、あいつは――」

 こちらが口を開くのを、桜は手をかざして制止してくる。

「あの人、何だか変な感じがする。普通の人間じゃないよ。それに……」

 警戒するような慎重な口調で、桜は言葉を紡ぐ。

「どうしてかわからないけど、あたしの力が通じてない」

「それってつまり……」

 急激に張り詰めはじめた空気に、口内が乾く。それを無理矢理ごまかしながら桜の後ろ姿に声をかけると、その頭がこくりと頷いた。

「あたしの力で、あの人の記憶は操作できない」

「ど、どうするよ? 逃げた方が良いのか?」

「たぶん、それは無理かな」
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