38 / 96
異形との遭遇
異形との遭遇
しおりを挟む
自販機に怒る桜を思い出し、つい笑いそうになる。
まだまだこの世界での生活に慣れていない部分が多いのかもしれないが、せめて一般常識くらいはきっちりと身につけてほしいものだ。
もっとも、そんなことを本人に言ったところで、またきょとんと首を傾げられそうな予感しかしないが。
生温い夜風が絡み付くように吹き抜ける。じっとりと湿る自分の肌に不快感を抱き、俺は街路樹から背を離すと自販機へ向かい歩きだす。
幸い、ズボンのポケットに財布を捩じ込んでいたので、ジュースくらいは買える。
桜の分も何か買っておいてやろうかと考えながら財布を取り出し、そこで俺はふと近くの暗闇に目をやった。
そして同時に、足の動きを止める。
「……」
自分の立つ位置から十数メートルくらい離れた位置に、誰かが立っているのがシルエットでわかった。
身長はそこそこ高い。百七十以上はあるか。
こちらに顔を向けているのはわかるが、表情までは判断しきれない。ただ、被っている帽子や服装の特徴から、相手の正体だけは目星をつけることができた。
――警察……か?
そのシルエットを見る限りでは、連想できるイメージがそれしかない。こちらの話し声か物音でも聞きつけてしまったか、それともたまたま居合わせてしまったのか。
何にせよ。
――ばれたらまずいな。
こんな場面を咎められたら、いろいろと面倒だ。ましてや桜は今屋根の上。
そんな所に女子高生がいるなんてばれれば、不審どころの話ではなくなるし、万が一何事もないかのように飛び降りてこられたら、驚かせるでけでは済まなくなる。
下手すれば桜自体が変に疑われ――。
と、そこで俺は気づいた。
一瞬当たり前のように目の前の展開を受け入れそうになったが、これはおかしいことなのではないか。
――この人……何でここにいるんだ?
今現在、ここら周辺は桜の能力によって隔離されている状態のはず。桜が能力を解除したというならわかるが、こんな中途半端なタイミングでそんなことをしたとは思えない。
ならば、ここにいるこの男はいったい何者だというのだろう。
――断言はできねぇけど――これは、こいつはおかしい。
咄嗟に、俺は屋根の上にいる桜を呼び戻しそうと上方へ首を向けていた。
「桜――!」
俺の反射的な呼びかけと重なるように、ザッという音を立て桜が眼前に落下してきた。
「さ、桜、あいつは――」
こちらが口を開くのを、桜は手をかざして制止してくる。
「あの人、何だか変な感じがする。普通の人間じゃないよ。それに……」
警戒するような慎重な口調で、桜は言葉を紡ぐ。
「どうしてかわからないけど、あたしの力が通じてない」
「それってつまり……」
急激に張り詰めはじめた空気に、口内が乾く。それを無理矢理ごまかしながら桜の後ろ姿に声をかけると、その頭がこくりと頷いた。
「あたしの力で、あの人の記憶は操作できない」
「ど、どうするよ? 逃げた方が良いのか?」
「たぶん、それは無理かな」
まだまだこの世界での生活に慣れていない部分が多いのかもしれないが、せめて一般常識くらいはきっちりと身につけてほしいものだ。
もっとも、そんなことを本人に言ったところで、またきょとんと首を傾げられそうな予感しかしないが。
生温い夜風が絡み付くように吹き抜ける。じっとりと湿る自分の肌に不快感を抱き、俺は街路樹から背を離すと自販機へ向かい歩きだす。
幸い、ズボンのポケットに財布を捩じ込んでいたので、ジュースくらいは買える。
桜の分も何か買っておいてやろうかと考えながら財布を取り出し、そこで俺はふと近くの暗闇に目をやった。
そして同時に、足の動きを止める。
「……」
自分の立つ位置から十数メートルくらい離れた位置に、誰かが立っているのがシルエットでわかった。
身長はそこそこ高い。百七十以上はあるか。
こちらに顔を向けているのはわかるが、表情までは判断しきれない。ただ、被っている帽子や服装の特徴から、相手の正体だけは目星をつけることができた。
――警察……か?
そのシルエットを見る限りでは、連想できるイメージがそれしかない。こちらの話し声か物音でも聞きつけてしまったか、それともたまたま居合わせてしまったのか。
何にせよ。
――ばれたらまずいな。
こんな場面を咎められたら、いろいろと面倒だ。ましてや桜は今屋根の上。
そんな所に女子高生がいるなんてばれれば、不審どころの話ではなくなるし、万が一何事もないかのように飛び降りてこられたら、驚かせるでけでは済まなくなる。
下手すれば桜自体が変に疑われ――。
と、そこで俺は気づいた。
一瞬当たり前のように目の前の展開を受け入れそうになったが、これはおかしいことなのではないか。
――この人……何でここにいるんだ?
今現在、ここら周辺は桜の能力によって隔離されている状態のはず。桜が能力を解除したというならわかるが、こんな中途半端なタイミングでそんなことをしたとは思えない。
ならば、ここにいるこの男はいったい何者だというのだろう。
――断言はできねぇけど――これは、こいつはおかしい。
咄嗟に、俺は屋根の上にいる桜を呼び戻しそうと上方へ首を向けていた。
「桜――!」
俺の反射的な呼びかけと重なるように、ザッという音を立て桜が眼前に落下してきた。
「さ、桜、あいつは――」
こちらが口を開くのを、桜は手をかざして制止してくる。
「あの人、何だか変な感じがする。普通の人間じゃないよ。それに……」
警戒するような慎重な口調で、桜は言葉を紡ぐ。
「どうしてかわからないけど、あたしの力が通じてない」
「それってつまり……」
急激に張り詰めはじめた空気に、口内が乾く。それを無理矢理ごまかしながら桜の後ろ姿に声をかけると、その頭がこくりと頷いた。
「あたしの力で、あの人の記憶は操作できない」
「ど、どうするよ? 逃げた方が良いのか?」
「たぶん、それは無理かな」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる