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異形との遭遇
異形との遭遇
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「……」
ここまでの展開など無かったかの如くお気楽なその台詞に、違う意味で言葉を失う。
「寒くもないのに風邪ひくとか、虚弱体質なんじゃない? 待ってて、すぐ終わらせるから。具合悪いなら仕方ないし、今日はこれ退治して終わりにしとこうか」
目の前に立つ獣人を指差してそう言うと、桜は座るような体勢から不意を突くように足払いを仕掛けた。片足を掴まれたままだった狼男は、成す術なく転倒する。
「正直言うとね、結構痛かったんだよねお腹とか」
倒れた狼男に馬乗りになるかたちで、桜は拳を振り上げる。
「女の子のお腹蹴るとかさ、あり得ないと思うの。万が一のことがあったらどうすんのよ? 雄治にだって迷惑かかるかもしれないんだよ?」
「いや、別にかからねぇよ……」
咄嗟に突っ込みを口にしてしまったが、桜は聞こえていない様子だった。
「もう、本気で殴るからね」
宣言と同時に、桜が左右の拳を交互に振り落とす。
男の胸、首、顔、場所を選ばずひたすらに握りこぶしを叩きつけていく。途中、逃れようと相手が腕をかざしてガードの姿勢をとるも、あっさりと払いのけ連打を続けた。
「ガァァ!!」
耐えきれなくなった狼男が、無理矢理身体を捻り桜を横に飛ばす。そこから立ち上がり体勢を整えるのと、桜が追撃を加えるのはほぼ同時。
離れた距離を再び詰め、跳ねるようにして真正面から右足を振り上げ顎を撃ち抜く。
「グェ……!」
さらに、さらけ出す格好になった相手の喉へ、正拳突きのような攻撃を仕掛ける。
喉が潰れたかの形相で狼男が苦悶に口を開き、血の混じった涎を溢す。
「たぶん、これでとどめ!」
叫んで、桜が苦痛で身体を折る狼男を担ぎ上げた。
どうするつもりかと見守る俺をちらりと窺い、力を溜めるように膝を曲げるとそのまま盛大に跳躍をしてみせた。
俺がいる屋根よりも更に高い。
追いかけるようにして見上げると、月に重なるようにして桜のシルエットが浮かび上がっていた。
限界まで飛び上がったのか、フワリと動きが止まる。
そこから、重力に従い垂直に降下。一気に加速をつける中で、桜は狼男の服を掴み直して持ち上げるように右腕を掲げた。
落ちてきた二人が、ちょうど俺のいる高さまで戻ってきたその時。
「くたばれ! 青二才が!」
柄にもないような掛け声をあげ、桜は掴んでいた男を地面目掛けて力の限りに投げ飛ばした――と言うか投げ落とした。
男は顔面から地面に衝突し、その衝撃でコンクリートを大きく抉る。
まるで小さなクレーターを作るように粉砕されたその場所で、どすりとスローモーションのように仰向けに身体を倒し、男はそのまま動かなくなった。
その顔は、せり上がった口元が不自然に歪み、犬歯はほとんど折れて流血している様相だった。
「お待たせ。片付いたよ」
一旦下に着地した桜が、すぐに跳躍して側にやってくる。服があちこち破け、擦り傷が目立つ意外に、これと言って変化は見受けられない。
「お前、身体大丈夫なのか?」
恐る恐る訊ねてみると、桜はん? と首を傾げ、
「別に。大丈夫じゃないのは雄治でしょ? 熱あるの?」
と、こちらの額に手を当ててきた。
「うわ、冷た。逆に熱ないじゃん」
「当たり前だろうが。こっちがどんだけハラハラしながら成り行きを見守ってたと思ってんだよ。死んじまったかと思って心配したんだぞ」
ここまでの展開など無かったかの如くお気楽なその台詞に、違う意味で言葉を失う。
「寒くもないのに風邪ひくとか、虚弱体質なんじゃない? 待ってて、すぐ終わらせるから。具合悪いなら仕方ないし、今日はこれ退治して終わりにしとこうか」
目の前に立つ獣人を指差してそう言うと、桜は座るような体勢から不意を突くように足払いを仕掛けた。片足を掴まれたままだった狼男は、成す術なく転倒する。
「正直言うとね、結構痛かったんだよねお腹とか」
倒れた狼男に馬乗りになるかたちで、桜は拳を振り上げる。
「女の子のお腹蹴るとかさ、あり得ないと思うの。万が一のことがあったらどうすんのよ? 雄治にだって迷惑かかるかもしれないんだよ?」
「いや、別にかからねぇよ……」
咄嗟に突っ込みを口にしてしまったが、桜は聞こえていない様子だった。
「もう、本気で殴るからね」
宣言と同時に、桜が左右の拳を交互に振り落とす。
男の胸、首、顔、場所を選ばずひたすらに握りこぶしを叩きつけていく。途中、逃れようと相手が腕をかざしてガードの姿勢をとるも、あっさりと払いのけ連打を続けた。
「ガァァ!!」
耐えきれなくなった狼男が、無理矢理身体を捻り桜を横に飛ばす。そこから立ち上がり体勢を整えるのと、桜が追撃を加えるのはほぼ同時。
離れた距離を再び詰め、跳ねるようにして真正面から右足を振り上げ顎を撃ち抜く。
「グェ……!」
さらに、さらけ出す格好になった相手の喉へ、正拳突きのような攻撃を仕掛ける。
喉が潰れたかの形相で狼男が苦悶に口を開き、血の混じった涎を溢す。
「たぶん、これでとどめ!」
叫んで、桜が苦痛で身体を折る狼男を担ぎ上げた。
どうするつもりかと見守る俺をちらりと窺い、力を溜めるように膝を曲げるとそのまま盛大に跳躍をしてみせた。
俺がいる屋根よりも更に高い。
追いかけるようにして見上げると、月に重なるようにして桜のシルエットが浮かび上がっていた。
限界まで飛び上がったのか、フワリと動きが止まる。
そこから、重力に従い垂直に降下。一気に加速をつける中で、桜は狼男の服を掴み直して持ち上げるように右腕を掲げた。
落ちてきた二人が、ちょうど俺のいる高さまで戻ってきたその時。
「くたばれ! 青二才が!」
柄にもないような掛け声をあげ、桜は掴んでいた男を地面目掛けて力の限りに投げ飛ばした――と言うか投げ落とした。
男は顔面から地面に衝突し、その衝撃でコンクリートを大きく抉る。
まるで小さなクレーターを作るように粉砕されたその場所で、どすりとスローモーションのように仰向けに身体を倒し、男はそのまま動かなくなった。
その顔は、せり上がった口元が不自然に歪み、犬歯はほとんど折れて流血している様相だった。
「お待たせ。片付いたよ」
一旦下に着地した桜が、すぐに跳躍して側にやってくる。服があちこち破け、擦り傷が目立つ意外に、これと言って変化は見受けられない。
「お前、身体大丈夫なのか?」
恐る恐る訊ねてみると、桜はん? と首を傾げ、
「別に。大丈夫じゃないのは雄治でしょ? 熱あるの?」
と、こちらの額に手を当ててきた。
「うわ、冷た。逆に熱ないじゃん」
「当たり前だろうが。こっちがどんだけハラハラしながら成り行きを見守ってたと思ってんだよ。死んじまったかと思って心配したんだぞ」
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