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異形との遭遇
異形との遭遇
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額の手を振り払い、俺は噛みつかんばかりに怒鳴る。
「……あの程度で死なないって。まぁ、確かにダメージは受けたけど」
「首と腹、マジで平気なのか?」
「うん、ほら」
顔をしかめる俺の前で、桜は服を捲って腹部を見せてきた。赤くなってはいるが、それだけのように見える。
一見して華奢な女子と変わらないような体格だというのに、この身体のどこにこれほどの耐久性を備えているのだろうか。
「じゃあ、ひとまず下に降りよ?」
服を戻しながらそう言って、桜がこちらの返事を待つことなく抱きかかえてくる。またしてもお姫様抱っこだ。
「おい、だからこのシチュエーションはやめろ――おあっ!」
呼び止める間もなく、桜は飛び下りる。倒れている狼男とは七、八メートル離れた場所に着地して、素直に俺を解放した。
「誰も見てないから恥ずかしくないでしょう?」
「いやそういう問題じゃなくて……はぁ、まぁいいや」
嘆息しながら呻いて、俺は小さく首を振った。
「ところで、さっきのは何だ?」
倒れたままの狼男に意識を向け、会話の方向を変える。
「さっきの?」
「あいつにとどめさすときに言ってた台詞。くたばれ青二才って、どこからそういう言葉が出てくんだ?」
言いながら、俺は狼男を指差す。
「ああ、あれは昨日読んだ漫画に載ってた台詞だよ。暗殺者みたいなキャラが、主人公に言い捨ててたの」
「……お前それ悪役だろ」
何が嬉しいのか、にやけながら語る悪魔少女を半眼で睨んでおく。
あんなタイミングで漫画の台詞真似する馬鹿いるか普通。てか、そこまで余裕があったことがすげぇ。
「さて、と。頭に直接触ったら、少しくらいは記憶を調べることできないかな?」
空気を揉むかのように右手を開閉しながら、桜はくるりと狼男に首を向けた。
奴が桜と同じ世界の住人なら、この世界と行き来する方法を知ってるかもしれない。或いは桜自身に関する、何らかの情報が手に入る見込みもゼロではない。
そもそも、ここに来た目的がそれなのだから、桜同様人間外の存在が現れたのは、ある意味当たりだったのかもしれない。
「これで何かわかれば……」
期待するように、桜が足を一歩踏み出しかけた瞬間、暗闇の中からパチパチという乾いた音が聞こえてきた。
それが拍手だと気づくのに、数秒かかった。
倒れた狼男のさらに奥。明かりの届かない暗がりから染みだすかのように響いてくるその異音に、俺と桜は動きを止めて身構える。
虚を衝かれたような様子の桜を見る限り、能力解除に伴う通行人の接近というわけでもなさそうだ。
音は、確実に近づいてきている。
――まさか、仲間がいたのか?
嫌な疑問をよぎらせていると、スッと闇の中から何者かが歩み出てきた。相変わらず拍手を続け、静かな足取りで狼男の側へ寄っていく。
「あ? あんたは、確か……」
外灯によって照らされた、相手の姿。現れたその人物には、見覚えがあった。
「いや、面白い。なかなか見応えのあるパフォーマンスだったよ」
足元に転がる狼男から目線だけをこちらに移動させ、そいつは言った。
そして、ずっと鳴らしていた拍手を止め、ニコリと笑う。
「結果がわかっているとは言え、結構真剣に見ちゃったなぁ。さすがはサクラだ」
無地の黒いシャツと、安物っぽいジーンズ。中肉中背で、これといった特徴もない若い男。
「……あの程度で死なないって。まぁ、確かにダメージは受けたけど」
「首と腹、マジで平気なのか?」
「うん、ほら」
顔をしかめる俺の前で、桜は服を捲って腹部を見せてきた。赤くなってはいるが、それだけのように見える。
一見して華奢な女子と変わらないような体格だというのに、この身体のどこにこれほどの耐久性を備えているのだろうか。
「じゃあ、ひとまず下に降りよ?」
服を戻しながらそう言って、桜がこちらの返事を待つことなく抱きかかえてくる。またしてもお姫様抱っこだ。
「おい、だからこのシチュエーションはやめろ――おあっ!」
呼び止める間もなく、桜は飛び下りる。倒れている狼男とは七、八メートル離れた場所に着地して、素直に俺を解放した。
「誰も見てないから恥ずかしくないでしょう?」
「いやそういう問題じゃなくて……はぁ、まぁいいや」
嘆息しながら呻いて、俺は小さく首を振った。
「ところで、さっきのは何だ?」
倒れたままの狼男に意識を向け、会話の方向を変える。
「さっきの?」
「あいつにとどめさすときに言ってた台詞。くたばれ青二才って、どこからそういう言葉が出てくんだ?」
言いながら、俺は狼男を指差す。
「ああ、あれは昨日読んだ漫画に載ってた台詞だよ。暗殺者みたいなキャラが、主人公に言い捨ててたの」
「……お前それ悪役だろ」
何が嬉しいのか、にやけながら語る悪魔少女を半眼で睨んでおく。
あんなタイミングで漫画の台詞真似する馬鹿いるか普通。てか、そこまで余裕があったことがすげぇ。
「さて、と。頭に直接触ったら、少しくらいは記憶を調べることできないかな?」
空気を揉むかのように右手を開閉しながら、桜はくるりと狼男に首を向けた。
奴が桜と同じ世界の住人なら、この世界と行き来する方法を知ってるかもしれない。或いは桜自身に関する、何らかの情報が手に入る見込みもゼロではない。
そもそも、ここに来た目的がそれなのだから、桜同様人間外の存在が現れたのは、ある意味当たりだったのかもしれない。
「これで何かわかれば……」
期待するように、桜が足を一歩踏み出しかけた瞬間、暗闇の中からパチパチという乾いた音が聞こえてきた。
それが拍手だと気づくのに、数秒かかった。
倒れた狼男のさらに奥。明かりの届かない暗がりから染みだすかのように響いてくるその異音に、俺と桜は動きを止めて身構える。
虚を衝かれたような様子の桜を見る限り、能力解除に伴う通行人の接近というわけでもなさそうだ。
音は、確実に近づいてきている。
――まさか、仲間がいたのか?
嫌な疑問をよぎらせていると、スッと闇の中から何者かが歩み出てきた。相変わらず拍手を続け、静かな足取りで狼男の側へ寄っていく。
「あ? あんたは、確か……」
外灯によって照らされた、相手の姿。現れたその人物には、見覚えがあった。
「いや、面白い。なかなか見応えのあるパフォーマンスだったよ」
足元に転がる狼男から目線だけをこちらに移動させ、そいつは言った。
そして、ずっと鳴らしていた拍手を止め、ニコリと笑う。
「結果がわかっているとは言え、結構真剣に見ちゃったなぁ。さすがはサクラだ」
無地の黒いシャツと、安物っぽいジーンズ。中肉中背で、これといった特徴もない若い男。
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