桜の喪失を救うために

雪鳴月彦

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異形との遭遇

異形との遭遇

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 眼鏡越しに見つめてくる瞳は、愉快そうに細められている。

「どういうことだ? あんた、ここの従業員だよな?」

 目の前の本屋を一瞥して、俺は確認するように問いかける。

 まだ鮮明に覚えている。この男は、昨日本屋で桜とぶつかった従業員だ。

 服装こそ違うが、それだけ。実は双子ですとでも言わない限り、正真正銘あの時の男で間違いない。

「そうだよ。こんばんは」

 俺の問いにあっさりと頷き、男は柔和な笑みを返してくる。

「ここ、時給安くてさ、ぶっちゃけ他のバイト探そうかって最近思ってたんだよ。でも、辞めなくて良かった。そんなことしてたら、サクラの発見が遅れちゃってたかもしれないからね」

「……?」

 話す内容が今ひとつ掴めないが、直感的に普通ではないと悟る。

 この男、何かがおかしい。

「あんた、人間……だよな?」

 得体の知れない感覚に襲われつつ、端から見れば馬鹿馬鹿しく思われるような質問をする。

「もちろん。僕が獣人に見えるかい?」

 答えて、男は両腕を広げおどけてみせた。

「確か雄治くん、とか呼ばれてたかな? 僕はきみと同じこの世界の人間。悪魔でもなければ化物でもない。安心してよ」

「……嘘だ」

「うん?」

 疑いを滲ませた俺の眼差しに、男は首を傾ける。

「普通の人間なら、ここにいるのはおかしい。桜の能力で、今この周辺には人が入ってこれないはずだ。桜、お前まだ能力を解除してないんだろ?」

 視線は逸らさぬまま確認を取ると、桜はうんと頷いた。

「雄治以外はこの近辺に出入りできないはずだよ。でも……」

「何だよ?」

「あの人の言ってることは間違いじゃない。あの人、雄治と同じこの世界の人間」

 断言するような、悪魔少女の声。

「だったら、何であいつはお前の能力をくらわないんだ? つか、言い方からしてお前のことを知ってて探してたような口振りじゃねぇか」

 “でも、辞めなくて良かった。そんなことしてたら、サクラの発見が遅れちゃってたかもしれない”

 これはつまり、桜の存在を予め知っていたことを仄めかしているニュアンスだ。

「そこはわかんないけど……」

 困ったように言葉を濁す桜へ、男は面白そうにふんと鼻を鳴らす。それからズボンの尻ポケットに手を入れ、小サイズのメモ帳らしき物を取り出した。

「お察しの通り、僕はサクラのことを知っているよ。電波を飛ばす要領で、周囲にいる生物の記憶を操れること。記憶を無くして元の世界、ハデスに帰れずにいること。そして……サクラが記憶喪失になった原因と、その記憶を元に戻し本来の世界へ帰す方法も、ね」

「――え?」

 手にしたメモ帳をパラパラと捲りながら男が告げたのは、まさに爆弾発言としか言い様のないものだった。

 あまりに突然の発言に、俺と桜は驚きで目が丸くなる。

「貴方、誰? あたしと何か繋がりがある人なの? あたしが記憶を失う前に会ったことがあるとか――」

 自分を知る者の思いがけない出現で、つい興奮気味になる桜を男は片手を挙げて制止した。

「まず、僕が一つ訊きたいんだけど、サクラは今までどこにいたんだい? その、人間生活に紛れ込む前の話だけれど」

 メモ帳を捲る手を止める男。

「どこって……、変なボロボロの建物に」

 どう説明したら良いのかわからないのか、助けを求めるように桜がこちらを向いてきた。
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