桜の喪失を救うために

雪鳴月彦

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異形との遭遇

異形との遭遇

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「じゃあ、どうしてそんな力が……」

「普通の人間だと、特別な力があったらおかしいのかな? メジャーになっていないから、異質に感じるだけだろう? まぁ、稀にいる特異体質な人間と同じだよ」

 男が、顔の高さまで右腕を挙げ、

「せっかくだし、もう一つ良いものを見せようかな」

 パチンッと軽快に親指を鳴らす。

 次は何が始まるのかと相手の出方を窺っていると、いきなり空中に光の束が出現した。夜闇を照らし出す光量に、咄嗟に腕で顔を庇う。

 やがて、光が収束して闇が戻ると、そこには見慣れぬモノが浮遊していた。

 蝶々のような形の、透明な羽根。白い髪に白い肌。そしてそれを包む、純白のヴェール。

 光の束より現れたのは、まるで天使のようにも見える、恐ろしいほどの美女だった。フレスコ画にでも登場しそうな、そんな神々しさを受けそうになる。

「あれは、精霊?」

 緊張したような桜の呟き。

「知ってるのか、桜?」

「うん、確かあたしの世界に住んでる精霊のはず……」

「そう、光と癒しを司る精霊、アスカ。僕の大切な仲間だよ」

 満足そうに告げて、男はアスカに向け小さく手を振るような合図を送る。

 すると、アスカは上空へ舞い上がり旋回するような動きをみせ、その羽根から淡く発光する鱗粉を降らせた。

 その鱗粉が、周囲の地面に落ちると同時に、狼男との戦闘で破壊されたコンクリートや街路樹が、時間を巻き戻すかのように修復されていく。

「あ……傷が治ってく」

 桜の方を見やると、彼女もまた身体中に受けた擦り傷や服の破れが元に戻っていくところだった。

「これは、僕からのサービスだ。面白いバトルを観戦させてもらったお礼ってことでね。ま、僕のバイト先に迷惑かけたくないってのもあるけど」

 とぼけたような態度で男は言うと、またも親指を鳴らす。同時に、上空に浮かんでいたアスカの姿が消えた。

「今のまさか……召喚したのか?」

「さて、どうだろうね」

 肩を竦めて話をはぐらかす男に、俺は数歩だけ詰め寄る。

「ひょっとして、あんたなのか? さっきの狼男を呼び出したのも、桜を……この世界に呼んだのも」

「あー……、やっぱりそう考えちゃうか」

 意地悪そうに表情を緩ませ、男はポリポリと頭を掻く。

「……まぁ、良いか。サクラ、きみはすぐにでも全ての真実を知りたいかい?」

 一瞬、何かを思い巡らすかのように眼球を泳がせてから、男は俺の肩越しに桜へ視線を定めた。

「知りたい。自分の記憶を取り戻せるなら……」

 背後から聞こえる、返答の声。

「……そう。わかった。なら教えてあげるよ。ただし、二つ条件がある」

 男が、ブイサインをして話を続ける。

「条件?」

「そう、条件。僕もちょっと準備があるから、明日の夜九時にきみが隠れていた廃墟に来るのなら、そこで全てを話してあげよう。この申し出をのむことが、条件の一つ目」

「準備って何?」

 探りを入れるように問う桜だったが、しかし男はこれには答えず首を横に振る。

「詮索はなしだよ。どうする? この条件、受け入れるかい?」

 桜を見つめるその視線は、ゲームを楽しむ少年のように嬉々とした感情を浮かび上がらせていた。

「…………わかった。言われた通りにする」

 他に手段がないと悟ったか、若干迷ってから渋々と桜は頷く。

「オーケーだ。それじゃあ、もう一つの条件……」

 ニヤリと笑い、男はもったいぶるように間を空ける。そして、次に男が開いた口から漏らした言葉は、俺たちの混乱と戸惑いにとどめを刺すような内容だった。

「もう一つの条件は、真実を知ることと引き換えに、サクラ、きみにはこの世から消えてもらう」
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